大歓声の中に登場した4人のメンバー。チバが一言「ハロー」と告げると、ハルキの太く重いベース・ラインから“まぼろし”がスタートだ。ミドル・テンポの不穏なロックンロールで、チバの喉も出だしから好調に立ち上がっている。2曲目にはアップ・テンポなナンバー“グロリア”。これまたハルキのベースがメロディアスにドライブしてゆく曲なのだが、BPMが速くとも盤石さを感じさせる演奏。キュウちゃんのドラミングとともに、まさに長いツアーの中で鍛え上げられ、こなれてきたという安定感がある。ヘヴィ・サイケな“ビート”から、イマイの雷鳴のようなギター・フレーズに始まる“猫が横切った”へ。無数の高速ブレイクによって構成された曲なのだが、それを難なく乗りこなしてゆくバンドのコンビネーションが圧巻である。そして、爆音の中にもパキッと立って響いてくるチバのメロディ。曲調はさまざまだが、そのキャッチーなメロディがブレずに存在しているおかげで、一貫したThe Birthdayという形がステージ上に描き出されている。
『NIGHT ON FOOL』の素晴らしさは、何よりもその全編に渡るキャッチーな歌メロにあった。チバのあの唯一無二の喉がキャッチーなメロディを捕まえるとき、そこには凄まじいロックンロールの求心力が生まれる。彼は意図的にそれを封印していたのかも知れない。理由は分からないが、そこにはThe Birthdayというバンドを更新してゆくための模索があったのだろう。そして生まれたのが、バラエティ豊かな楽曲群と解き放たれたグッド・メロディによって構成された『NIGHT ON FOOL』であった。“かみつきたい”などという衝動的でロマンチックでリアルなロックンロール・フレーズまでも発見してしまった。ファンキーな“タバルサ”をプレイしているときには、あのパンチの効いたサビのメロディがいまひとつ抜けきらないのが残念だったが、相手がチバとなると聴く方も期待するものが大きくなりすぎて良くない。実際に気になったのはこのときぐらいで、やはり国内トップ・レベルの彼のボーカル・パフォーマンスは揺るぎないものがあった。ステージ照明の光量がマックスになったところで、一撃必殺のダンス・チューン“マスカレード”へ。イマイのルーズでブルージーなギターが映える。
“KIKI The Pixy”、“オオカミのノド”といった曲を挟み、ここでバンドはテンポを落とした。速い曲はレコード作品以上のBPMで攻めるが、“ALRIGHT”や“シルベリア19”ではむしろレコード以下ではないかというゆったりしたテンポで、ガッチリと歌を届ける演奏である。“シルベリア19”の、鐘の音のようなギター・イントロが美しい。まるで当たり前のことのように緩急自在の、「生きた」パフォーマンス。もともとライブ・バンドではあるけれど、やはり長いツアーを経ての成果は大きい。今夜のファイナルはテレビ中継が入っているのだが、自宅の部屋にいていきなりこんなパフォーマンスが目と耳に飛び込んできたら、本当に釘付けになってしまうのではないだろうか。チバがブルース・ハープを吹きまくり、コール&レスポンスでヒート・アップする“ローリン”。そして感傷的な2本のギターの絡み合いに導かれ、待ちきれんとばかりにオーディエンスが歌い出してしまった“涙がこぼれそう”だ。キュウちゃんのフィル・パターンが多彩で、まさに名曲の名演という印象。万感のステージ本編はここで幕となった。『NIGHT ON FOOL』の曲は全曲、プレイした。
「あのさあ、最近までやってたWBCってあるでしょう。あれのマクドナルドのコマーシャルで、めちゃめちゃカッコイイ曲、かかってたっしょ!」。再びステージ上に現れたチバの声とともに、グルーヴィーでソリッドな「あの曲」が披露される。アンコールにはうってつけの盛り上がるインスト曲である。これ、リリースする予定はないんだろうか。凄い欲しいんですけど。そしてバンドはそのまま“アリシア”へと傾れ込んでいった。この後のダブル・アンコールでも「もう一曲」「もう一曲おまけ!」と言いながらラストの“45 CLUB”まで、締めて24曲を披露してくれたThe Birthday。中弛みのない、気負い過ぎるでもないが自然体で圧巻のパフォーマンスを見せつけるような、アルバムとツアーが見事に結実したステージであった。何が凄いって、これだけ量も質も充実したステージなのに、“stupid”も“NIGHT LINE”も、“プレスファクトリー”も“KAMINARI TODAY”も、『NIGHT ON FOOL』以前だったら彼らの代表曲だったものが、プレイされていないのだ。彼らはそれぞれキャリアのあるミュージシャンだが、まだデビューして3年にも満たないバンドである。どれだけ濃密なキャリアを歩んでいるのかという話だ。クリエイターとしても、パフォーマーとしても、このバンドは全盛期がいつなのかまだまだ見えない。(小池宏和)
1.まぼろし
2.グロリア
3.ビート
4.猫が横切った
5.かみつきたい
6.タバルサ
7.JOIN
8.マスカレード
9.KIKI THE Pixy
10.オオカミのノド
11.STRIPPER
12.ALRIGHT
13.シルベリア19
14.LUCCA
15.カーニバル
16.あの娘のスーツケース
17.ローリン
18.カレンダーガール
19.涙がこぼれそう
アンコール1
20.新曲
21.アリシア
アンコール2
22.Nude Rider
23.MEXICO EAGLE MUSTARD
24.45 CLUB