原 由子/鎌倉芸術館

原 由子/鎌倉芸術館 - Photo by 西槇太一Photo by 西槇太一


●セットリスト
01. 鎌倉物語
02. 涙の天使に微笑みを
03. 少女時代
04. 千の扉〜Thousand Doors
05. オモタイキズナ
06. 花咲く旅路
07. 旅情
08. 京都物語
09. 恋は、ご多忙申し上げます
10. ぐでたま行進曲
11. 夜の訪問者
12. ヤバいね愛てえ奴は
13. Good Times〜あの空は何を語る
14. あじさいのうた
15. 鎌倉 On The Beach
16. ハートせつなく
17. スローハンドに抱かれて (Oh Love!!)
18. じんじん

(Encore)
01. いちょう並木のセレナーデ
02. 私はピアノ
03. 初恋のメロディ
04. いつでも夢を


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横浜が生んだファースト・レディ・オブ・ポップにして、サザンオールスターズの弁天様。昨年、実に31年ぶりとなるオリジナルアルバムを発表した原 由子が、同タイトルのワンマン公演としてこちらも13年ぶりに繰り広げた「原 由子 スペシャルライブ 2023「婦人の肖像(Portrait of a Lady)」」。会場は、13年前の公演と同じく鎌倉芸術館である。3月6日、7日と2日間開催されたライブのうち、7日の模様をレポートしたい。なおこの日のステージは、全国16館の映画館でライブビューイングも行われた。

花びらが舞い散るCGアニメーションと、“さくらさくら”の旋律で季節を先取りするオープニング。マスク越しの歓声OKということで、バンドメンバーに続いて姿を見せた原 由子には、オーディエンスから盛大な拍手喝采が浴びせかけられる。演奏が始まる前から、早くも最初のピークタイムを刻むようだ。ステージ中央に設置されたキーボードを前に腰掛け、まず届けられるのはサザン曲“鎌倉物語”。リッチなバンドサウンドの中からも、原 由子でしかあり得ないあの心地よい歌声がスッと抜け出てくる。鶴岡八幡宮や稲村ヶ崎、七里ヶ浜といった鎌倉の名所を背景に、オーディエンスの手拍子を巻いて瑞々しいメロディが弾けるのだった。

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バンドメンバーは、斎藤誠(G)、小倉博和(G)、角田俊介(B)、河村“カースケ”智康(Dr)、曽我淳一(Key)、山本拓夫(Sax)、西村浩二(Tp)、金原千恵子(Vn)、笠原あやの(Vc)、村石有香(Cho)という、長いキャリアの音源制作にも携わってきた顔ぶれを含む鉄壁の布陣。往年の楽曲で強烈な情景喚起力を発揮する一方、「“少女時代”をこの歳になって歌うとは……幸せなことだと思います」と和やかな笑いを誘いながらライブは進む。

力強くコンテンポラリーなグルーヴが立ち上がる“千の扉〜Thousand Doors”や、赤い照明に身を染めながら愛に囚われた魂を燃え上がらせる“オモタイキズナ”では、現在進行形の情熱とバイタリティをまざまざと見せつける。朗らかな人柄の奥底に秘めたポップモンスターが顔を覗かせるようで、ゾクリとさせられた。そして、角田がウッドベースを用いた名曲“花咲く旅路”から“旅情”、そして歌が奥行きのあるグルーヴを連れてくる“京都物語”という新旧の旅の歌は、どこにいても、どこの生まれ育ちであっても深い郷愁を感じさせてやまない、そんな原坊ソングの真骨頂だ。

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バンドメンバーを楽しげに紹介する一幕では、かつてコーラスの村石がYUKA名義で発表した“お料理行進曲”(アニメ『キテレツ大百科』主題歌)が1コーラス披露され、「私も行進曲を作ってみたので、聴いてください」という気の利いた流れで“ぐでたま行進曲”に持ち込む。豊かな生活感を織り交ぜながら、キャラクターの力を借りて世界の見え方を変えてしまうポップの魔法だ。そこからジャジーな歌謡テイストでムードを一変させる“夜の訪問者”、さらにアコギを携えてサイケデリックなフォークロックを奏でる“ヤバいね愛てえ奴は”というめくるめく展開は、原 由子の音楽エネルギーがホールに充満しはみ出さんばかりであった。親しみやすいのに、どこかミステリアスで不可侵な領域も兼ね備えている。それが、いつまでも我々を魅了してやまない原 由子というアーティストの深さである。現代社会に投げかけるメッセージがするすると入ってくる“Good Times〜あの空は何を語る”も素晴らしかった。

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あじさいの名所である明月院や長谷寺に触れながらの“あじさいのうた”から“鎌倉 On The Beach”へと繋ぎ、水兵服コスチュームのダンサーたちが舞い踊る“ハートせつなく”からは、一際ロックな手応えのクライマックスへと向かう。各時代のエリック・クラプトンの顔グラフィックが浮かび上がる“スローハンドに抱かれて (Oh Love!!)”で色褪せない青春を描くと、斎藤がここぞとばかりに“いとしのレイラ”のギターリフを決めた。テープの降り注ぐ本編最後の1曲は、ローラー族風のダンサーたちとの“じんじん”だ。腕を振り回し、ジャンプ一発で演奏をフィニッシュする原 由子であった。

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久々のワンマンライブで緊張したことを開けっ広げに告白しながら迎えたアンコールでは、楽曲紹介で嬌声を誘う“いちょう並木のセレナーデ”や“私はピアノ”といったキャリアを彩る名曲たちがまだまだ繰り出されるのだが、サザンのデビューから45周年を迎える今年に感謝の思いを口にし、「お互い元気に頑張りましょうね!」「思えば、私の人生はいつでも音楽に助けられてきたと思います」と言葉を添えて披露された新作曲“初恋のメロディ”の鮮やかな情景喚起が、これまた負けず劣らずの素晴らしさである。

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「いくつになっても、いつでも夢を大切にしたいと思います」と告げながらの最終ナンバーは、橋幸夫と吉永小百合のデュエット曲カバー“いつでも夢を”。ということは……原 由子の歌い出しに続いて歌声を響かせながら、満を持して登場する桑田佳祐。ホールは当然、歓声の嵐である。新作アルバムのみならず今回のライブでも全面的にサポートしたというパートナーは、手にしたブーケを(何度かトボけたフェイントを入れたのち)跪いて原 由子に手渡す。デュエットの最中にも「13年ぶり! 何やってんです。毎年やろうぜ!!」とエールを送っていた。あらためてのメンバー紹介の最後には原が桑田に「私は?」と催促(もちろん桑田はひとしきりボケてからようやく紹介する)したり、ラインナップの挨拶のあとには桑田が原に「バイバイして」と促して2人揃って手を振ったり。

久しぶりのワンマン公演にして、あらゆる方向に心を揺り動かされる豊穣なライブ。それは、我々の生活と地続きになった今を確かな足取りで生きるアーティスト=原 由子の息遣いそのものであった。春を迎えたばかりの2023年に、これから彼女はどんな形で、何を見せてくれるのだろうか。(小池宏和)

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