●5月9日(土)
出演:OGRE YOU ASSHOLE、サカキマンゴー、THA BLUE HERB、Caravan、曽我部恵一ランデヴーバンド
ここ2、3日続いていた雨も上がり、雲ひとつない快晴に恵まれた。道を挟んで向かいには野球場があり、ステージの周りを覆うようにして新緑に囲まれている。時折小鳥のさえずりが聴こえてくるというこの上ない心地良さがたまらない。
トップバッターを飾ったのは昨年のとぶ音楽祭にも登場したOGRE YOU ASSHOLE。去年は雨模様の中での演奏だったそうだが、今年は晴天に恵まれ心地よい風が吹き込んでくる中、ステージにゆっくりと登場。“しらないあいずしらせる子”でキラキラとしたギターフレーズが青空を切るように広がっていく。“アドバンテージ”で粘着質なギターフレーズが頭の中をループする頃には、すっかりオウガ・ワールドにはまっている。「さっき鳥の雛がボトッと落ちてきて…」というMCがまた何とも出戸(Vo/G)らしくて場を和ませつつ、“コインランドリー”から“フラッグ”への流れで一気にトリッキーな異次元空間へ誘う。オウガの音楽はライブハウスのような密閉した空間では脳内をかき回すような中毒性を伴うが、今日のような開放的な空間では突き抜けるような爽快感があって、本当に気持ち良い。
続いて登場したのは、親指ピアノ奏者のサカキマンゴー。ステージには「SAKAKI MANGO & LIMBA TRAIN SOUND SYSTEM」と書かれた看板が立てられている。静かにステージに登場し、アフリカはタンザニアの楽器、リンバなど独自に改造した楽器を親指の爪を弾いて音を繰り出していく。数々のエフェクターを使用した浮遊感たっぷりのサウンドはアンプに繋がれ大音量で奏でられ、自らの膝にはタンバリンのような楽器を足に取り付けて足踏みしながらリズムを鳴らし、スワヒリ語でアフリカの心を歌う。自らがやっている音楽のコンセプトを気持ち良すぎて白目を剥いてしまうことから「白目ミュージックと呼びます!」と説明し、「白目剥いてるかーー!」と勢い付けると、「白目ソング」なるものをサカキのリードで会場全員が大合唱! スワヒリ語が会場いっぱいに響き渡り、五月晴れの青い空にアフリカ音楽の神秘的な魅力を届けてくれた。
ステージにはターン・テーブルのみ。DJ DYEが現れ、緊張感高まるトラックが流れた。「35分一本勝負、ヒップホップ代表THA BLUE HERB、ショウ・ケースはじまるぜ!」というBOSSによるマイク一本の闘魂宣言により幕を開けたTHA BLUE HERBのショウ。不穏な空気が漂う中、とめどなく溢れ出る言葉と音が圧倒の力をもって迫りくる。舌の根を乾かさずに放たれる鋭くリアルなその言葉の向こう側には、THA BLUE HERBの、音楽とリスナーとそして世界と真摯に向き合う精神そのものしかない。バック・トラックはほぼ皆無で叫び続けた“AME NI MO MAKEZ”では、5月2日に息を引き取った忌野清志郎への哀悼を込めて「忌野清志郎さん、安らかに。そして、俺達はこの場所で生きて今日もみなで笑え」と歌い、“Smile With Tears”では「あんたはその坂を越えなくちゃならないってことだ」と全身全霊を込めて生きていくことの厳しさを歌った。そして、ラスト。儚いピアノの音色とストリングスをバックに歌われた“TENDERLY”で、「あの人は死んでいった。5月2日の夜、死んでいった。そして、今日この場所に残った俺達は次に子供や孫に何を残すというのか?」と我々に問いかける。それは「見返りを求めず与えること、受け取った者が感謝するということ」。「とぶ音楽祭に集まってくれた友人達にこの11文字を捧げます。ありがとうございました」と最大の感謝を気持ちで締めくくった。ライブ終了後、間髪入れずに会場に高らかに鳴り響いたSEは清志郎さんのナンバー“雨上がりの夜空に”だった。会場が眩しいほどの優しさに溢れた瞬間だった。
続いて登場したのはCaravan。緩やかに、そして、おおらかにバンドが音を鳴らし、壮大なサウンド・スケープを織り成しながらスタートしたステージ。柔らかいCaravanの歌声にどっぷりとオーディエンスも身を任せる。“Wagon”で田園を駆け抜けるように爽やかな空気が流れ込み、自然に手拍子が沸き起こるような多幸感に満ちた空間が気持ち良すぎる!「今日、ヤバいね! 最後まで着陸せず、とぶ音楽祭でいれたらいいね」と、本人も本当に気持ち良さそうに“Strange Garden”“ハミングバード”と次々に曲を繰り出していく。「大好きなロックン・ロールを想って…」と始まった“Soul music”ではたおやかなリズムに乗せて熱い魂を歌う。この曲のラストではCaravanがこれまでに影響を受けたアーティストの名前、例えばジョン・レノンやボブ・マリー、ベン・ハーパーといった名前を連呼していくのだが、最後に「忌野清志郎!」と叫び、会場からは大歓声が沸き起こった。ステージ左右に飾り付けてあったフラッグの「Fly High」という『とぶ音楽祭』のキャッチコピーが最もよく似合う大空を舞う鳥のように軽やかなステージだった。
そして、この日のトリは曽我部恵一ランデヴーバンド。リハでの音鳴らしからそのまま自然に沸き上がるように“浜辺”でスタート。西日が差してオレンジ色に染められたステージがいい感じ。ライブは始まったばかりなのにすでにエンディングのようで、メンバー紹介を織り込みながら実に15分以上にもわたってこの曲が展開された。《夜を越えて〜》の大合唱が会場中にこだまする。初っ端からやりたい放題の曽我部。この後に続いたのはまさかのカバー、松田聖子の“赤いスイトピー”だ! 1コーラスで終わるかと思いきや、しっかり2コーラス目に突入! しまいにはギターを弾くのを辞めてハンドマイクで前方ににじり寄り前列の観客に握手を求めてはオーディエンスから喝采を浴びた。なんて開放的! 自由過ぎて何が起こるか分からない、それが野外フェスの醍醐味でもある。“テレフォン・ラブ”の大合唱も、“魔法”のランデヴーバンドならではのメロウでジャジーな展開も最高だった。Pすけ(Dr)、伊賀航(B)、加藤雄一郎(Sax)、長久保寛之(G)、横山裕章(Key)の4人のメンバーを自在に操ってしまう曽我部恵一。「あと3分だって…」と言いながら“mellow mind”を突如歌い出す。曽我部の歌に倣うようにして、演奏を始めるメンバー達。持ち時間のギリギリいっぱいまで使って精一杯の歌と幸せな気分を届けてくれた曽我部恵一ランデヴーバンドに乾杯だ!
●5月10日(日)
出演:Riddim Saunter、湯川潮音、bonobos、向井秀徳アコースティック&エレクトリック、YOUR SONG IS GOOD
2日目も引き続き晴天に恵まれ、さらに夏日ということで真昼の太陽に照らされながら気分はもう夏フェスさながら。会場も超満員で熱気も半端ない。
13:30ちょうど、ステージに現れたのはRiddim Saunterのメンバー4人に、なんと5人のストリングス隊。本日はRiddim Saunter初のストリングスを携えてのライブだという。バイオリンとチェロが奏でるクラシカルな旋律が聴こえると会場はクラシック・コンサートさながらの様子でみんな静かに構えながら耳を澄ませる。と、そこへボーカルのKCが飛び出しステージにイン! ハーモニカを吹き荒らし、リズミカルなバンド・サウンドと絡み合ってその緊張を徐々に解いていく。壮大なストリングスとRiddim Saunterのキラキラしたダンス・ナンバーが絶妙なバランスで溶け合い華麗に響き渡る。新曲を中心としたセットリストだったが、自然に観客の手拍子が沸き起こっていた。今のRiddim Saunterにそれだけ多くの人を巻き込むだけの力がある楽曲が揃っているということだ。ラストは“Waltz Of The Twins”。用意していたたくさんの鈴を投げて配り、KCとHOMMA(フルート)はなんと客席の通路真ん中に移動しステージに向かって歌うというスタイル! ワルツのリズムで手拍子する観客を360度巻き込んでクライマックス。KCは持っていた鈴を客に預けてリズムを刻ませたり、近くにいた子供を抱き上げて一緒に歌ったりと、ピースフルな空間を生み出した。
続いて登場したのは、湯川潮音。エレキ・ギターを抱え、シーケンサーやユーフォニウム、ピアニカ、トランペットを操る権藤知彦とともに2人で登場。湯川潮音の伸びやかでどこまでも透き通るようなハイトーンボイスが、まるで妖精がささやくように優しく会場を包み込む。新緑に囲まれたこのステージにピッタリだ。爪弾くギターのアルペジオとアンビエントなサウンドは深い森を彷徨うような世界観を描き出していて神秘的。柔らかさの中にも力強い芯が感じられる。そして後半、この日だけのスペシャル・セットとしてbonobosの辻凡人(Dr)と森本夏子(B)が参加。ギターを置いて「初めてダブやっちゃうぜ!」とやんちゃにピョンピョン飛び跳ねながらテンション高くはしゃぐ湯川。さっきまでの雰囲気とは打って変わって、リズミカルにステージを行き来しながら歌い踊る。ラストは“ロンリー”。再びギターを握り、自らの歌声にループをかけコーラスを重ねていくサイケなロック・ナンバーにすっかり痺れてしまった。
ドラム・セットとベース・アンプはそのままに、パーカッションなどが運ばれていきbonobosのリハが始まる。そのサウンドを聴きながら観客はテンションを上げていく。「よし、行きましょう!」と蔡が合図すると、“Mighty Shine, Mighty Rhythm”でそのまま本番へ突入。南国の太陽の下を感じさせる心地よいグルーヴがオーディエンスを開放的にさせた。そして、3曲目で鳴り響いたのは両手いっぱいのピース・サインで会場が埋められたお馴染みの“THANK YOU FOR THE MUSIC”! 早くもバンドとオーディエンスを繋ぐ絆を感じさせる何とも言えないピースフルで感動的な瞬間が訪れ、大歓声が生まれる。そこからパーカッションがアッパーに弾ける“光のブルース”に雪崩れ込み、えも言われぬ多幸感に包まれた。4人になってからはサポート・ギタリストとして木暮晋也(HICKSVILLE)を迎えているbonobos。ニュー・アルバム『オリハルコン日和』からのナンバーが特に冴え渡っていた。オーディエンスの「オー、イエー!」というかけ声で盛り上げた“ICON”も、《ありがとう さようなら 更に言うと愛してる》というたくさんの出会いと別れが生み出す巡り合わせの奇跡を歌った“GOLD”も、よりリスナーに寄り添った形で近い距離で響いてきたのが良かった。
「MATSURI STUDIOからマツリセッションを引っ張り上がってやって参りました。THIS IS 向井秀徳!」向井節全開でギター一本で弾き語る向井秀徳アコースティック&エレクトリックのショウが始まった。アコースティックギターをタッピングしながらリズムと音を作り出し、“CRAZY DAYS CRAZY FEELING”で幕開け。よほど調子が良かったのかあおるビールの量も半端ない。“delayed brain”では「ますます個人的に盛り上がって参りました」と言って、《こんがらがってる in my brain Frustration in my blood》のコール&レスポンスを延々と続ける。そして、西日が差し込む眩しいステージの中で艶やかに響き渡る“KIMOCHI”。「この曲、これいってみよう!」とギターを下ろしてキーボードの前に立ち、空虚感や無常感を生々しいシンセ音で表現した“Asobi”。これぞアーバン・ミュージックの極みと言わずして何と言おう。夕方の野外に映える向井流アコースティック・サウンドは最高に優しくて、最高にドス黒い。痺れた。
そして、いよいよこの2日間のトリを飾るのはYOUR SONG IS GOOD。bonobos同様、リハの段階でもうオーディエンスは踊り狂っている! 気合も充分といったところだが、出てくるのにまだ時間がかかるということで、JxJxが一人現れ「YOUR SONG IS GOODの宣伝を…」と言って5月13日に発売されるDVD『PLAY ALL!!!!!!』の宣伝を。一旦引っ込んだ後、いよいよ6人が円陣を組んだままステージに登場。会場は前へ前へキッズたちが詰め寄せもの凄い熱気に包まれ“THE KIDS ARE ALRIGHT”で幕開け! 張り裂けんばかりのパーティー・ロックを叩きつけると、熱狂のスカダンスで荒々しくフロアを踊り倒すオーディエンスを迎え撃つ。伸びやかなオルガンで一瞬熱を冷ますかのような“THE CATCHER IN THE MUSIC”や“THIS PLANET にて”など緩やかなナンバーを挟みながらも、“あいつによろしく”ではJxJxがステージを降りて観客に揉みくちゃにされながらオープニングを歌ったり、“ブガルー超特急”ではメンバーそれぞれが暴れ馬のごとくステージ脇のスピーカーによじ登ったり、アンプから飛び降りてはオルガンを担いで激しくプレイしたりと、ステージからもフロアからもとんでもない熱量が放出されていた。まだまだ暴れ足りないオーディエンスからのアンコールに応えて“A MAN FROM NEW TOWN”を最後の力を振り絞りやり切ったユアソン。たくさんの笑顔と『とぶ音楽祭』のクライマックスを生み出したベスト・アクトだった。
ユアソンの余韻に浸るようにSEで流れてきたザ・スペシャルズの“Little Bitch”、そして、それに続いたRCサクセションの“雨上がりの夜空に”。堪らず会場中が大声で大合唱! その歌声を聴きながら心地よい疲労感と満足感に包まれながら帰路に着いた。2日間思う存分楽しませていただきました!(阿部英理子)