筆者が観たのは初日。まだ完成して間もないTOYOTA ARENA TOKYOは、ステージとアリーナを構成する楕円形の空間を2階席と3階席が270°取り囲むような構造で、メインステージからアリーナ中央に向かって花道が、その先端にミニステージが設置されている。BGMとして流れていたPRIMAL SCREAMの“Kill All Hippies”(先日急逝したベーシスト・マニのプレイが印象的な曲であることにグッときたりも)の途中でステージ背後の巨大スクリーンがゆっくりとホワイトアウトしていき、ライブのスタートを告げるカウントダウンがはじまる。1まで進んだと思いきや「What the Fuck」の表示が出て10に戻って焦らす、そんな遊び心が彼ららしい。
ライブに先駆けて投稿されたXのポストに「セトリが魔境の域です」と書かれていたので、そのつもりで挑んだのだが序盤から完全に予想の上をいく選曲が続いた。1stアルバムの収録曲なので本来なら十分レア曲扱いになるはずの“For Freedom”や“de Mexico”が、むしろ聴き慣れた印象で飛び込んでくるあたりが、この日のセットリストの異質さを物語る。上記2曲の間に挟まった“Dear Enemies”や6曲目の“You Drive Me Crazy Girl but I Don't Like You”なんて、10年単位でも数えるほどしか演奏されてないのではないだろうか。しかも後者に至ってはアルバム収録曲ではなく、カップリング曲である。「本当に知ってる人いるのかな、ついてこれてる?」なんて川上は笑っていたが、観客席に戸惑う様子は皆無。むしろ一曲始まるごとにそこら中から嬉しい悲鳴が聞こえてくる。
「今からやる3曲はもっともっとレアな曲です。⋯⋯と言えば聞こえはいいけど、あんまり人気ない曲かもしれない」(川上)
「おーおーおー(笑)。そんなことはないはずですけどね」(磯部)
なんてやりとりから披露されたのは、磯部が作曲を手がけたワイルドなビートとセクシーなベースラインが印象的な“Dance With the Alien”と、川上・白井作曲によるパンキッシュなアッパーチューン“Adam's Apple Pie”だ。さらにメドレーの形でもう一曲、“Onion Killing Party”が続く。ここで勘付いた人も少なくなかったのではないだろうか、この曲の作曲者は前ドラマーの庄村聡泰である。曲中、「登場していただきましょう、スペシャルゲストです!」(川上)と呼び込まれたその人に、割れんばかりの歓声が降り注ぐ。各メンバーとハグしたりグータッチしたりしたあと、花道を進んでいってうやうやしく一礼、ファーコートを脱ぎ捨てて上裸になると「TOYOTA ARENA、かかってこいよ!!」と叫ぶ──という一挙手一投足が、あまりにもサトヤスすぎて胸が熱くなる。そのままラストをリアドとのツインドラムで叩き切ってから、かつて庄村加入後に最初にリリースした“city”へ。激烈ながらとんでもなく粒揃いなビートと、華のあるフィルの数々。やたら高い位置にセットされたクラッシュシンバル。[Alexandros]がスターダムを駆け上がっていった時期を支えた彼のドラムプレイを、仮にリアルタイムでなくともみんな知っている。もう言葉はいらなかった。
川上の頼もしい宣言とともに、折り返しを過ぎたライブはさらなる加速を見せた。地鳴りのようなリアドのドラムから突入した“金字塔”に続いては、跳ねるリズムと上空を旋回するようなピアノ&ギターリフが軽やかな“Run Away”へ。久々と言われて意外な気もした[Alexandros]印のギターポップ“明日、また”を経て、スリリングな疾走と壮大なスケールで大合唱を巻き起こした“閃光”に、憂いを帯びた前半からサビ、大サビへと視界が開けていく初期の名曲“Kids”。15年間⋯⋯いや、石川が在籍したデビュー前も含めれば20数年の間に彼らが見出し、磨き抜いてきた黄金律に彩られた新旧キラーチューンの数々を「これでもか」と浴びせかけていく。よくよく考えれば、ミドルテンポの曲は“温度差”とラスト前に披露された“PARTY IS OVER”くらいなので、レア曲揃いなだけでなくとんでもなくアグレッシブな内容である。トドメの一撃は“Claw”。紅蓮に染まるステージから放たれる、獰猛なジャングルビートにヘヴィなギターリフ、ドスの効いたベース。言葉遊びを散りばめたリリックを端正に、けれど雄々しく歌い上げるボーカル。演奏を終えるとノイズを撒き散らしたまま4人は悠然とステージをあとにしていった。
「[Alexandros] 15th Anniversary VIP PARTY '25」
2025.12.13 東京・TOYOTA ARENA TOKYO
●セットリスト
01 . Kick&Spin
SE Burger Queen 〜 生Burger Queen
02 . クソッタレな貴様らへ
03 . For Freedom
04 . Dear Enemies
05 . de Mexico
06 . You Drive Me Crazy Girl but I Don't Like You
07 . Kiss The Damage
08 . FISH TACOS PARTY
09 . Swan
10 . Dance With the Alien
Adam's Apple Pie
Onion Killing Party
11 . city
12 . 温度差
13 . Adventure
14 . 金字塔
15 . Run Away
16 . 明日、また
17 . 閃光
18 . Kids
19 . PARTY IS OVER
20 . Claw
Encore
21 . You're So Sweet & I Love You
22 . ワタリドリ
23 . 超える
提供:ユニバーサルミュージック
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部