ミュージシャンが「歌」について歌った曲10

我々は日々、さまざまな歌に触れては、その背景にあるものに手を伸ばそうとしている。では、そんな歌を生み出すアーティストたちにとって、歌という作品や行為は、一体どのような意味を持ち、どのような思いを運ぶものなのだろう。「歌というもの」、「歌うということ」そのものを主題にした多くの楽曲が存在する。そこで歌われている事柄は千差万別だが、いずれもが正解で、確かな創造の体温を伴っている。歌はどこから生まれて、どこへ向かうのか。本稿では、そんな楽曲たちを通して、「歌」に込められた思いについて考えてみたい。(小池宏和)


※リリース順

●奥田民生/“これは歌だ”(1995年)

1993年にユニコーンが一旦解散した後、奥田民生が音楽表現のモチベーションを持ちあぐねていたのは有名な話。バンドマンからソロアーティストへ。この曲が収録されているソロアルバム『29』では、歌うべき歌を自身の中から誠実に掘り起こす格闘の痕跡が刻まれている。《イェ〜イ ほかに 何も できない》という境地に辿り着く、心の小宇宙だ。

●斉藤和義/“歌うたいのバラッド”(1997年)

メロディと歌詞を徹底的に研ぎ澄ませることで、ロックソングの本質的なポップさを引き出し続ける斉藤和義。言わずもがな、《嗚呼 唄うことは難しいことじゃない》と歌い出すことができるのは、歌うことの難しさに直面したことがある者だけだ。壮麗なアレンジさえ追い越してゆく、確信のメロディと歌詞が力強く響く名曲。

●中村一義/“歌”(1998年)

2ndアルバム『太陽』の収録曲で、曽我部恵一がギターで参加した。デビュー時から日本語の斬新な使い方を絶賛されていた中村一義だが、《言葉は宙を舞って、みんなの先の道、溜まってくけど、》というフレーズでは、バラバラな言葉を紡ぎ合わせる歌の力を導き出し、リスナーの前に差し出している。

●BUMP OF CHICKEN/“ガラスのブルース”(1999年)

活動初期から今日まで歌われ続けている、1stアルバム『FLAME VEIN』収録曲。フレッシュかつパンキッシュな音像の中から溢れ出す《僕は今を叫ぶよ》という思いは、命の瞬きを全身全霊で煌めかせようとする動機に裏付けられている。「歌≒叫び」の必然を、グッドメロディとストーリーテリングで解き明かした一曲だ。

●サンボマスター/“歌声よおこれ”(2005年)

アルバム『サンボマスターは君に語りかける』からのリカットシングル曲。プリミティブで生々しい爆音ロック/ソウルとして溢れ出す山口隆(唄とギター)の歌は、「言葉を使う」というよりも「言葉と闘う」ことで生まれ来る。《汚れきった僕は今から/あなたに逢いに行く》という衝動と共に飛び込む合唱こそが、この歌の目指す視界だ。

●ケツメイシ/“何故歌う”(2008年)

《たとえその歌が 響かなくても/今のあなたには 意味が無くても/いつか 光る言葉であれ/乾いた心 満たす言葉となれ》。歌詞は、一瞬の音楽と結びついて心の奥深くに留まる。それが歌の力だ。幾多のヒット曲を量産していたケツメイシが、「今は響かないかもしれない」と思いを巡らし、祈るようにこう歌ったのは感慨深い。

●星野源/“歌を歌うときは”(2011年)

1stシングル『くだらないの中に』のカップリング曲でアルバムには未収録だが、初のドームツアー「DOME TOUR 2019 “POP VIRUS”」でもオープニングに配置されていたナンバー。《歌を歌うときは 背筋を伸ばすのよ/人を殴るときは 素手で殴るのよ》というプライベートな姿勢表明でリスナーをグッと引きつけ、歌い手として真っ直ぐに向き合う。

●UNISON SQUARE GARDEN/“さわれない歌”(2012年)

ユニゾン・田淵智也(B)の手がける歌詞と楽曲は、思いもよらない角度から物事のストライクゾーンを捉えてくる。《だから僕は今日も惑星(ほし)のどこか/誰にも触れない歌を歌う/近づき過ぎないで ちょうどいい温度感であれ》。そんな思いが込められた歌は、まさに我々が胸を焦がし追い求める音楽との距離感を言い当てている。

●岡崎体育/“Explain”(2016年)

メジャーデビューアルバム『BASIN TECHNO』の導入部に配置されたナンバーで、けたたましくトリッキーな盆地テクノの楽曲展開を歌詞で説明するという、ユーモラスなメタ視点の批評的表現が光る。《いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ 絶対》という目標を2019年に達成、見事この曲を歌い納めにした。

●[ALEXANDROS]/“Your Song”(2018年)

アーティストにとって作品であるはずの「歌」が、生み出された側の一人称で語り出すという構造を持つロマンチックなナンバー。それは、産声を上げた赤ん坊が、立派に成長して誰かに寄り添うまでの物語でもある。《だから歌ってよ/イヤホンを外してよ》。その瞬間、自立した歌はリスナーにとってかけがえのない存在となるのだ。
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