小さな伝説が復活する舞台は、代官山UNIT。本番前のスクリーン上には、闇夜の山中でカエルの被り物をした渋谷悠がクラシックなソファにロープで括り付けられ放置されているという、どシュールなB級ホラームービーのような映像が流れる。そしてこの日シークレットで招かれたスペシャルゲストは、お笑いコンビ・ランジャタイの国崎和也。かつてのさよ今の活動期間中からファンだったことでも知られる国崎だが、この前説登板にあたっては何もトーク内容などは準備していなかったらしく、集まったオーディエンスを煽り立ててはステージ袖に引っ込み、また出てくるという行為を5、6回繰り返している。
というふうに、ライブ本番前から何とも言えないさよ今ブランドの雰囲気が醸成されていたのだが、いざ、さよなら、また今度ね in the house! という段になると空気が一変した。メンバー4人もオーディエンスも一様に昂りながら笑顔まみれ、下世話なシチュエーションの向こう側で切実な恋心を掴まえる“in布団”を手始めに、魅惑のロックショウがスタートする。佐伯が菅原とのデュエット歌唱をリードする“ミルクアイス”の発声も力強く決まり、この時点でライブの成功を確信したオーディエンスは少なくないはずだ。ときに自信を上乗せしたリードギターの太い音色を響かせてみせる菊地。そして、こんなにもニコニコと嬉しそうにビートを刻む渋谷の表情をかつてのライブで目の当たりにしたことがあっただろうか。
歌にボ・ディドリー・モデルの四角いグレッチにけたたましいキーボードにと忙しなく活躍を見せる菅原は「10年の時を経て再結成しました! さよなら、また今度ねでーす! これも皆さんが、いつかいつかと待ち焦がれてくれたおかげです! でも10年なんて、我々からしたらつい昨日ですよ。なんて言ったって、俺と皆さんの間には、さよ今の曲があるじゃないですか!?……イェーイって言えよ、恥ずかしい」と挨拶する。一方、「“in布団”でみんなの顔を観て、泣きそうになっちゃって」と感極まっている佐伯は、菊地や菅原に冷やかされたりしている。
こんなふうに、ところどころにはMCの時間も設けられていたのだが、何よりも「さよ今が帰ってきた」という実感をもたらしてくれたのは、菅原が語っていたようにさよ今楽曲の数々に他ならなかった。フロアを埋め尽くしたオーディエンスたちは、必ずしも10年以上前にさよ今のライブに足繁く通っていた人ばかりではない。SNSを覗いてみると、当時さよ今の楽曲には触れていたけれどライブには行ったことがないという人や、解散後にさよ今の楽曲と出会ったという人の声も多く目につく。そういう人たちにとっても、今回の再結成ライブは待望の開催となったわけだ。
力強く時空を駆け抜けてゆくような“Q”、ファンタジックなストーリーを佐伯のベースラインがグイグイとリードしてゆく“2秒で手に入る”、一筋縄ではいかないメロディラインと切なさを膨らませるハーモニーで擦り切れそうな心模様を描き出す“砂かけられちゃった 〜関くんへ編〜”。メンバーが並々ならぬ意気込みと入念な準備を経て今回のライブに臨んだことがサウンドの端々から伝わってくるけれども、往年のままの煌めきも確かに残されている。さよ今の素晴らしさとは、拙いスキルを越えたところでつぶさな感情表現に挑み、激しく雄弁にロックしようとする姿勢にこそあった。スキルの拙さはバンド活動の重い足枷となり、解散へと至る大きな要因となったのだけれども、彼らはその後の10年で自分たちの拙さを許し、拙いまま感情をスパークさせロックすることの眩しさに気づいたのではないだろうか。
菅原は、解散後10年という節目を前にして「これでやらなかったら一生やらないだろうな」と思い至り、3人に再結成の提案をしたことを語る。それを受けて言葉少なにも菊地は「ほんと嬉しかったよ。連絡もらって、こうして皆さんにも会えて。それだけさ!」と晴々とした表情で告げていた。“輝くサラダ”の前のめりでごちゃっとした、なのに不思議と一枚岩な響きは、まさに往年のさよ今の魅力そのままだ。どっしりと構えて没入感を描き出してみせる“いいわけの鉄拳”や“素通り”の後、佐伯が「曲とかいいからさあ、もっと喋らない?」と零す気持ちも分からなくはないが、それくらい、さよ今の楽曲たちにモノ言わせるライブになっているということだ。「さよ今は続くんですけど、これからまたこの世界観に浸って浸って、溺れてください。俺たちは助けないです。なぜなら、俺たちも溺れるからに決まってるだろうーっ!!」と向かう“踏切チック”から、菊地のギターがひしゃげたサウンドを撒き散らす“クラシックダンサー”へ。《「恋をするとお腹がポカポカするの」》という日本語ロック史上に燦然と輝く名パンチラインを、オーディエンスと分かち合う。さらに、変態的なポップセンスを思うさま炸裂させる“ギンビス 〜頭3才未満の唄〜”のあと、“僕あたしあなた君”では菅原の「10年ぶりにあのメッセージを歌ってもらっていいですかー!?」という呼びかけに、オーディエンスが《月がきれいだなあ 星がかわいいなあ/財布なくしても 世界はすばらしい!!》の大合唱で応える光景はあまりに美しかった。
菅原、菊地、佐伯がグッズTシャツに、渋谷が水色界隈にお色直しして迎えたアンコールでは、再会と歓喜のシャンプーでぐちゃぐちゃになる“夕方とカミナリ”や、渋谷の耳を劈く雷鳴のようなビートに導かれた“信号の奴”を披露。前線3人がハイタッチして去った後、一人取り残された渋谷はオンマイクで「DREAM AGAIN!!」の言葉を残していった。鳴り止まないダブルアンコールの催促に「いや、もう曲ないって」と嬉しい悲鳴を上げながらも“僕あたしあなた君”の再演で大団円の合唱を巻き起こし、今度はメンバー4人で手を繋いでお辞儀する。
「こんな贅沢なことがあるんだったら、もっともっと生きようと思いました。皆さんがくれた宝物です」という菅原の言葉は、大袈裟でも何でもない本音だろう。それほどに歓迎され、幸福な熱狂に包まれる再結成ライブであった。さよなら、また今度ねは6月14日、今回と同じく代官山UNITで追加公演「も〜っと! いったんワンマンライブ」を開催する。一人でも多くの人に見届けてほしい。(小池宏和)
●セットリスト
さよなら、また今度ね「いったんワンマンライブ」
2026.5.30 代官山UNIT01 in布団
02 ミルクアイス
03 瑠璃色、息白く
04 Q
05 2秒で手に入る
06 砂かけられちゃった 〜関くんへ編〜
07 輝くサラダ
08 いいわけの鉄拳
09 素通り
10 踏切チック
11 クラシックダンサー
12 ギンビス 〜頭3才未満の唄〜
13 僕あたしあなた君Encore
01 夕方とカミナリ
02 信号の奴
W.Encore
01 僕あたしあなた君
●ライブ情報
さよなら、また今度ね「も〜っと! いったんワンマンライブ」
2026年6月14日(日) 東京・代官山UNITOPEN/START:16:30/17:30
前売 ¥3,900(税込・ドリンク代別)