アーティスト

    フジファブリック @ Zepp Tokyo

    フジファブリック @ Zepp Tokyo
    志村「ほんとに、面白くて……笑っちゃうんですよ」
    金澤「(新しい)アルバムの曲、いっぱい練習したもんね?」
    志村「いっぱい練習したアルよ。練習しすぎて、おかしくなっちゃった(笑)」
    ……と掛け合い漫才みたいなMCも飛び出すくらいに、オリコン初登場8位を記録した最新アルバム『CHRONICLE』を引っ提げたフジファブリックのツアー初日の志村正彦はゴキゲンで、アグレッシブで、弾けていた。そして内容的にも、志村の言葉通り、アンコールまで含めて『CHRONICLE』に収録された15曲のうちほとんどを盛り込んだ意欲的なものだった。

    すっかりお馴染みのサポート・ドラマー=刄田綴色とともに、気合い一閃、いきなり『CHRONICLE』の世界へ突入してオーディエンスを圧倒してみせたフジファブリック。まだツアー初日なのでセットリストのネタバレは避けるが、1曲を除いて序盤はすべて『CHRONICLE』の曲で構成するという力の入れっぷりだったり、“Merry-Go-Round”では「イェー!!!!」と志村が喉も裂けよとばかりにシャウトしていたり……と渾身のパフォーマンスでフロアをじりじりと新作の世界へ巻き込んでいく。

    CDで聴いた時にも感じたことだが、とにかく『CHRONICLE』の曲は「歌」としての芯が太い。これまでの彼らの曲の場合、5人の音と奇天烈なフレーズが折り重なって初めて「フジファブリックの音楽」になっていたが、『CHRONICLE』の曲は違う。たとえば金澤のピアノと山内のグランジ・ギターがサウンドのカギを握る“バウムクーヘン”にしても、5人の音がすべて志村の歌に向かっている。個々の楽器の音色は他の過去曲と同じでも、鳴った瞬間に個々の楽器音が判別困難なくらいに曲や歌と一体化するのだ。逆に言えば、それだけ志村のメロディが強い支配力を持っている、ということでもある。

    さすがに初日ということもあって、新作の曲に関しては演奏はまだこなれていない部分もあった。それでも、“Anthem”の荘厳なアンサンブルや、志村がギターを置いて全身の力を振り絞るように歌い上げたピアノ・バラード“タイムマシーン”には思わず震えがきた。ポップとかアッパーとかいう尺度とは別のところで、フジファブリックの音楽は確実に別次元のスケール感を獲得していることが、この日のアクトからも観て取れた。終盤戦はこれまでのライブ必殺ナンバーを中心に畳み掛けてフロアを沸騰させていたが、そのアゲアゲな流れの中にもきっちり新作の曲を盛り込んで、楽曲のエネルギーの大きさを実証していた。

    最後、アンコールのMCで「久しぶりにツアーを組んでも、お客さんがたくさんきてくれる。地方にも来てくれる。共感してくれる人がいる……別に共感してくれなくてもいいんですけど(笑)、それでもこうして集まってくれる人がいる。本当にうれしく思います」と、志村が切々と語っていたのが印象的だった。そもそも「共感」や「共鳴」ではなく、「異物」としてのポップ・ミュージックを鳴らすことで存在感をアピールしてきたフジファブリック。3月のひとり対バン・ツアー『フジファブリック×FUJIFABRIC』の時には、自らのダーク・サイドとサニー・サイドを遠心分離して二部構成で披露していたが、『CHRONICLE』ではもはや「ダーク」と「サニー(ポップ)」という対立項すら意味を成さないくらい、ダークもポップも熱いマグマのような志村の楽曲の中に溶け込んでしまっている。「サイケでキャッチーな異能のバンド」が、『CHRONICLE』で直面したバンド内構造改革によって一気にロックのど真ん中へと接近しつつある……そんな彼らの「今」を目の当たりにした一夜だった。(高橋智樹)
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