18:00ほぼオンタイムで、満員のフロアにSEが鳴り渡る。大きな拍手と歓声の中、長年脇を固めるMB'sのメンバーとYO-KINGがオン・ステージ……桜井は?と誰もが思っているところへ、YO-KINGの前口上が高らかに響く。「昨日は、2人だけで会場にイス並べてしんみりやりましたけど、今日のほうが面白いです! 昨日来たやつ、ざまあみろ!……いきなり問題発言ですが、内緒にしといてください(笑)。これからやる曲は、今日のハイライトです! 遅刻するやつ、ざまあみろ! 昨日はしゃべりすぎて、1時間経っても4曲しかやってないという有り様でしたが(笑)。それでは、1曲目のメイン・ボーカリストをご紹介してもいいですか? Mr.ソウル、Mr.横浜、KING OF なで肩、桜井秀俊!」……と最初っからトバしまくりのMCに導かれて、桜井はなんと「この日のために新調しました」という三つボタンのスーツ姿で登場。バカ丁寧に布に包まれたマイクをスタッフからうやうやしく受け取ったその佇まいとは裏腹に、桜井がいきなりハンドマイクで歌い出したのは“Gotta Poison”! あの、軽やかなビートに乗せて♪とっても人には言えない病気になった~、と高らかに歌い上げる稀代の迷曲である。
曲が間奏に差し掛かると、桜井はやおら内ポケットからメモを取り出して「僕と真心」なる作文を読み上げ、「1989年、最初は腰掛け程度で参加したTHE真心ブラザーズ」とか「“Gotta Poison”はできればなかったことにしたい過去。でも、今日は全部まるごと愛したい」とかいう朗読でいちいち笑いをかっさらったり、ステージ上を滑るように水平移動してみせて驚きの歓声を巻き起こしていたが実はそれがヒーリーズ(ちょっと前の子供がよく履いていた、かかとにローラーがついている靴のこと)のおかげだったり……と、とにかく初っ端からネタと悪ノリ大炸裂。曲が終わったところで、「今日のライブの8割終わった感じするよね? 出オチっていうんですかね(笑)」とYO-KING。フロアのリアクションと、何より相方=桜井の様子を、ギター弾きながらじっと見ていた彼は満足げだ。「桜井さあ、真心を楽しんでるよね? 他にも『俺たちは自分のバンドを楽しんでます』って言うやついるけどさ、ふざけんなよ! うちの桜井見てみろよ!って感じだもん(笑)。今日もさ、“Gotta Poison”1曲目にしようっつった時に『ないない!』って出川並みに言ってたやつがさ、蓋開けてみたらこうだもん!」
危うく前日の(ゲストの奥田民生に「『このままじゃ何時に終わるんだろう?』って控室の空気は最悪だよ!」と言われたほどユルユルな)ペースと同じになりかけたところで、続く“花のランランパワー”から、軽い曲紹介+演奏、という感じでステージが展開していく。《情報があふれてる世の中で おぼれないように気をつけよう》とYO-KINGが“頭の中”を切々と歌う姿を観ていた桜井が「……こんなナイーブな歌を歌うような青年だったんですね、あなたは(笑)。最初に聴かされた時は『あの明るいYO-KING先輩に何が?』って感じでしたけど」と言うのを受けて、YO-KING「短い間に人間が変わっていく、そのダイナミズムが面白いわけですよ。最初に会った時、桜井なんかホモだったからね(笑)」、桜井「ずっと言ってるよね、それ!(笑)」と掛け合い漫才のようなMCが……というような調子なので、どちらかといえば演奏時間の短い「THE」時代の楽曲群にもかかわらず、あれよあれよと時間が過ぎていく。
デビュー曲“うみ”、そして2ndシングル曲“うまくは言えないけど”を、MB'sが一時退場したステージで真心の2人だけで歌い上げる……というシンプルなコーナーでも、本来はYO-KINGが弾くことになっていた“うまくは言えないけど”のイントロの主旋律を桜井も弾いてしまう「結果ユニゾン」状態に陥ってしまい、YO-KINGが「さっき打合せしたじゃん! 作文考えながら人の話聞いてるからでしょ? 2つのことを同時にしないでください!」と言えば、桜井が「あのメインのフレーズ、やっぱり俺弾いていい?」と仕切り直したり、という見せ場(?)が生まれてしまう。だが、そんなユルさの極致のような場面すら、観ているこっちにとっては胸がすくほど楽しい。音を鳴らすのが楽しくてしょうがない。音が曲になって響くのが楽しくてしょうがない……という、あまりに根源的なヴァイブが、今の彼らにはあるからだ。テレビの企画に出たくて結成して、活動休止して、再開して、今年で晴れてデビュー20周年を迎えた2人の音が、だ。もはや理詰めでは解明できない2人の自然体でポジティブな空気が、AXまるごと呑み込んでしまったかのように、超高気圧的な快楽が会場を支配している。
“モルツのテーマ”をフルコーラスで披露する中でYO-KINGがわざと「マズいビール~」と歌って桜井が「こらー!」と慌てて絶叫していたり、“悪口”でさんざん毒を吐きまくった桜井にYO-KINGが「もっとやれ」的にバンドの演奏をけしかけたり、“どか~ん”とそのアンサー・ソング(?)“しょぼ~ん”があったり……という切り札だらけのライブは、あっという間に残り2曲。「数少ない盛り上がる曲の中から、2曲続けていきますよ! 元祖渋谷系ですから!」と、“Let's 感動”“うきうき”で大団円!
アンコールでは、今度はYO-KINGが1人で“素晴らしきこの世界”を歌い始め、そこにMB'sのリズム隊と桜井が次々ステージに現れて準備を始め……そして、中盤のキメで眩しいくらいのバンド・サウンド大爆発! それでもまだ鳴り止まないアンコールに、今度は真心とMB'sがフルメンバーで舞台に勢揃い。「おまけということで、最新の曲を……」と、正真正銘最後の曲“Song of You”へ。真心の最新アンセムが高らかに響き渡って……約2時間のアクトは終了。11月21日からは『THE GOODDEST TOUR』もスタートする。この、普段着のままで天井知らずの高揚感を生む2人のマジックはまだまだ止まる気配がなさそうだ。(高橋智樹)
1.Gotta Poison
2.花のランランパワー
3.毎日
4.ふわふわ人
5.いい天気
6.荒川土手
7.頭の中
8.旅の夢
9.うみ
10.うまくは言えないけど
11.モルツのテーマ
12.悪口
13.きいてる奴らがバカだから
14.どか~ん
15.しょぼ~ん
16.Let's 感動
17.うきうき
アンコール
18.素晴らしきこの世界
アンコール2
19.Song of You