オープニング・ナンバーはそのままツアー・タイトルにもなっている“愛でぬりつぶせ”だ。《なぁ パンクス/グチってばっかいねぇで 愛で/愛でぬりつぶせ》という強いフレーズが耳に切り込んでくる。パンク/ロックンロールをバックグラウンドに持つチバが、このフレーズを絞り出したことの意味はやはり大きい。そしてバースディのバンド・サウンドが、スピードに乗っているけれどズッシリした重量級の手応えというか、以前よりも遥かにウェイトが無駄なく乗せられたパンチとなって迫ってくる。これは今回のステージで何度か感じたことだった。前回のツアーまでの音と、違っている気がする。
それにしても今回のセットリストは、驚きに満ちていて楽しい。聴こえる音では明らかに爆発的なエネルギーを放っている“マスカレード”。しかし、目に映るバースディの姿はどうも飄々としているというか、難なく乗りこなしている感じがしてちょっと妙な気分だ。グルーヴィでスリリングな“ガーベラの足音”も然りである。早々に投下された新曲“ディグゼロ”は、チバにとっても久々となる、歌詞詰め込み型のスポークンワード・ロックンロールだった。ボーカル・フレーズがとにかく、熱い。
本編中盤に配置された“ピアノ”“ひかり”“Sheryl”は、どれもテンポのゆったりとしたドラマティックな曲なのだが、今回のステージ本編のハイライトと言える3曲だったろう。“ピアノ”のオープニングで聴こえるメロウで美しいフレーズは、資料で聴かせてもらったときはギターの音だろうと思ったのだけど、ステージで見たらこれがハルキのベースのフレーズでびっくりした。3曲とも「歌」に集約されてゆくパフォーマンスというか、チバの吐き出すメロディと言葉が真っ直ぐに響いてくる。“Sheryl”は彼らのディスコグラフィーの中では古い作品のうちのひとつだけれども、それを歌い終えたチバは穏やかに、そして満足気に「サンキュー」と告げたのだった。
後半はチバの「おどろよベイベー!」という言葉を合図に、アッパーな曲が次々と畳み掛けられる。先の3曲でオーディエンスもずいぶん落ち着いてしまったかな、と感じたのだが、見事に盛り返していった。本編クライマックスはチバのハミングで幕を開けた“涙がこぼれそう”、眩いメロディが溢れ出す名曲“SUPER SUNSHINE”などが披露される。
そしてアンコールは2度に渡って、あの狂騒のインスト・ロックンロール・ナンバー“HUM69”や、タワーレコード限定シングルとしてリリースされる予定の風通しの良い、メロディアスな新曲“マディ・キャット・ブルース”などもプレイ。ここでまさかのトリプル・アンコールだ。「あのさあ、来年、新曲出すのね。さっきもやったんだけど、それの撮影に付き合ってくれない!?」とチバ。ステージ上には何台ものカメラが持ち込まれる。……いや、付き合うのは一向に構わないし、むしろ大歓迎なのだが、彼らはここまでで既に23曲、2時間超のパフォーマンスをこなしているのである。疲れてないのか? 撮影って、こういうタイミングでするものなのか? でも、この2度目の“ディグゼロ”は、もしかしたらライブ序盤で披露されたものよりもタイトな演奏なのではないか、という代物だった。おそるべし、バースディ。
新曲の一発一発が異様にクリティカルな、新たな創造のピークを迎えている今のバースディ。ツアーはこの日がファイナルとなったが、今後も多くのイベント出演等、ステージを控えているので、出来ればぜひともこの機会に、素晴らしい新曲群を、生でキャッチしてみて頂きたい。(小池宏和)
セットリスト
1.愛でぬりつぶせ
2.カレンダーガール
3.マスカレード
4.ガーベラの足音
5.ディグゼロ
6.BABY TONIGHT
7.FUGITIVE
8.ピアノ
9.ひかり
10.Sheryl
11.タランチュラ
12.モンキーによろしく
13.STRIPPER
14.LUCCA
15.あの娘のスーツケース
16.いとしのヤンキーガール
17.涙がこぼれそう
18.SUPER SUNSHINE
アンコール1
19.HUM69
20.45CLUB
21.マディ・キャット・ブルース
22.Rollin
アンコール2
23.ディグゼロ
24.アリシア