年2回開催のペースをキープしているUKロックの祭典=ブリティッシュ・アンセムズも通算8回目。まずはすべての出演者を観終えての感想を一言。最っ高、である。一日を通して、これだけロックのエネルギーと幸福感に満たされたイベントはなかなかお目にかかれない。新進気鋭のアクトから伝説のバンドまで、どれも素晴らしいステージを披露してくれた。ただ、「すべての出演者を観終えて」と書いてしまったけれど、実は個人的に、屋外に設営されていた『TEQUILA69』ステージ出演のフレッシュな邦人バンドたちの姿は、ほとんど観ることが出来なかった。本来はメイン・ステージのアクトの合間に観ることが出来るようにタイム・テーブルが組まれていたのだけど、進行が押してしまって演奏時刻が被ってしまっていたためだ。ノイジーなエレクトロ・サウンドを交えてダーティーにロックンロールしていたPills Empireや、華やかなダンス・ロックをプレイしていたBrixton Academy、それに音の掌握力に満ち満ちたグルーヴ・ロックを展開するQuattroなど、こちらのステージにも気になるアクトが多かっただけに、心残りだ。というわけで以下、メイン・ステージ出演のアクトだけになってしまうが、駆け足でレポートしていきます。
● The Answering Machine
まずは09年アルバム・デビュー組その1、マンチェスター出身のジ・アンサリング・マシーン。初期ブロック・パーティー風のスタイリッシュでダンサブルなロックをプレイするが、ギターを高いポジションに構えるフロントマン=マーティンの歌いっぷりやアクションにも見られるように、激しい感情表現を前面に押し出しているのが特徴的だ。演奏には少々危なっかしい部分もあるけれど、引き込まれる。疾走感のあるシングル群でぐいぐいと盛り立てていった。同期サウンドを絡めて穏やかにスタートした“エマージェンシー”などもドラマティックで良い。この翌日、7日のボンベイ・バイシクル・クラブ公演にもサポート・アクトとして帯同するそうだ。参加予定の方はがっちりチェックしておいて欲しい。
● Two Door Chinema Club
キツネがデルフィックに続いてプッシュするバンドが、この北アイルランド出身のツー・ドア・シネマ・クラブ。まだアルバムも発表していない、今回のブリティッシュ・アンセムズ出演者の中でも新星中の新星なのだが、ものすごく雄弁なロックをプレイするバンドだ。構築美とも言えるような綿密なアレンジ。そのバリエーションの多彩さ。明らかにまだ少年っぽさが残るアレックスの、しかし深く美しく憂いを帯びたボーカル(ちょっとモリッシーっぽくもある声だ)。淡々と言葉数も少なく演奏に没入するメンバー達の姿は、その分ライブ・アクトとしての強い求心力にはまだ欠けたところが見られるものの、そのクリエイティヴィティは紛れもなく本物である。そう言えば、この日未明の幕張でキツネ印全開のDJをしていたジルダとマサヤは、今回のツー・ドア・シネマ・クラブのステージをチェックしていたのだろうか。
● James Yuill
若手バンドが2組続いたところで、次はロンドンのフォークトロニカ・アーティスト、ジェームス・ユール。11月に彼のアルバムが初めて日本盤化されたばかり(キャリアでは2作目にあたる)のタイミングでのステージだ。卓上の機材や鍵盤を操りながら、ときにアコースティック・ギターを弾き語るパフォーマンスなのだが、このジェームス・ユールという男、眼鏡姿で大人しそうなインドア・ポッパー然とした風体なのに、実はバッキバキのフロア対応なサウンドで踊らせてくれるのだ。スタジオコーストのステージに見事フィットしてしまっているのが可笑しい。ノイズを撒き散らすファットなエレクトロ・ビートを轟かせ、ギターもミニマルなのだが独創的で味のあるプレイを聴かせる。その上で“ディス・スウィート・ラヴ”のような、スケールの大きなソングライティングをこなしたりもするのだ。またぜひライブを観てみたい。
● the telephones
ここでメイン・ステージ唯一となる邦人アクト、テレフォンズが登場。石毛は、場所はホームなのにUKロックの祭典であるというアウェイ感を少し気にしていたようだったけれど、ライブの方は終始全力投球という素晴らしい内容で、もはや風格めいたものさえ感じさせるところがあった。「出身は埼玉県の北浦和っていう、UKで言うとマンチェスターみたいなとこです」というMCも、半分冗談半分本気に聴こえていた。エモーションの込められたビート・ロック風の新曲も絡めつつ、ラストの“Love&DISCO”まで、現在進行形のテレフォンズで正面から挑む姿が頼もしく感じられた。
● Bombay Bicycle Club
09年アルバム・デビュー組その2。なのだが、もしかしたら出演者中最多のオーディエンスを集めていたかも知れない、ボンベイ・バイシクル・クラブ。先に結論を書くと、アルバムと同様、一度ライブを観たくらいではその全貌は掴み切れない、というのが正直なところだ。彼らは自分たちの表現スタイルに特定のロール・モデルを求めないし、それゆえに今後も含めて、何らかのムーヴメントに属することもきっとない。ギターひとつにしても鋭いカッティングを響かせることがあれば、圧巻の騒音美で聴く者に迫ることもある。手探りで、新しい風景を求めるロック・ファンの心情と歩調を合わせるように、ステージを構築してゆくバンド。それがボンベイ・バイシクル・クラブだ。デビュー・シングル“イヴニング/モーニング”を歌い終えたジャックが「今回初めて日本に来たんだ。昨日着いたばかりだよ。あのパン・ケーキみたいなの何て言うんだっけ?オコノミヤキ!おいしかったよ!」なんて言っていたが、こんなバンドの登場を生の手応えで感じることが出来たのは、実に嬉しい。
● Johnny Foreigner
個人的には昨年のサマソニ以来となるステージ体験で、他の人気アクトを差し置いて最も楽しみにしていたと言っても過言ではない、バーミンガム出身のジョニー・フォリナー。なのだが、正直に言えば今回はやや不完全燃焼だった気がする。アレクセイ独特のフィンガー・ピッキングはいまいち爆発力に欠けていたし、アレクセイとの掛け合いこそがバンド最大の魅力であるケリーのボーカルがしっかり届いてこなかった。もともと危ういバランスの上で成立するアクロバットのようなジョニー・フォリナーのバンド・アンサンブルが、特に序盤は噛み合っていなかった。うーん。セカンド・アルバムの曲を幾つか聴かせてくれたのは嬉しかったけど、そのセカンドがグルーヴの成長をしっかり感じさせるものだったから、尚更残念だったのだ。サポートの女性ギタリストを入れたりしつつ、ラスト2曲ぐらいは本来の力を発揮して盛り上げていたけれど、実際こんなもんじゃないだろう、ジョニー・フォリナー。あ、でも、ジュニアのドラミングは相変わらず怪物級でした。
● Patrick Wolf
黒いマントを羽織り、それで顔を隠したパトリック・ウルフが歌い出しと同時に姿を現すと、ド派手にユニオン・ジャック柄のセクシーな衣装が。それまでステージにあったブリティッシュ・アンセムズのバック・ドロップが隠してあるのも心憎い。ときに飛び上がり、ときに跪き、グラマラス&シアトリカルなパフォーマンスでその飛び抜けた歌唱力を披露する。ピアノやバイオリンを弾き語り、歌の最後にビョーク“ハイパーバラッド”の一節を盛り込むなど、とにかくそのパフォーマンスの質とボリューム感が半端じゃないのだ。「今日、ユニオン・ジャックの衣装を着たのはね、別にこれで国を代表しようとか、そういうつもりじゃないんだよ。国と国、文化と文化の友好的な関係を大切にしようとする、このブリティッシュ・アンセムズの思想に敬意を表して、そしてこの場所に立たせてくれたみんなに感謝する気持ちで、着ているんだ。本当にどうもありがとう」。やばい。泣きそうだ。終盤、突然歌いながらステージ袖に消えたパトリックは、なんと今度は前身ゴールドの王子様のような衣装で再登場し、ラストの“ハード・タイムス”での大きなコール&レスポンスを巻き起こしたのであった。
● The Vaselines
そして大トリは、早々の再来日となったヴァセリンズ。サマソニでは観ることが出来なかったので、大変嬉しい。ギターとベースのサポートにベルセバ組、ドラマーにも若手を起用して復活したヴァセリンズだが、演奏が素晴らしくエネルギッシュな上に、ユージンとフランシスの掛け合いボーカルが作品に収められたままの形で届けられることが、目の前で起こっていることながら信じられない。「カムバック出来て、そしてここに来ることが出来て嬉しいよ」と告げるユージンに、「でもみんな、何言ってるか分からないんじゃない?」と即座にツッコむフランシス。お見事なコンビネーション。以前フジでマイブラを観たときも思ったが、伝説のバンドが素晴らしいライブをすると、現実味が感じられない。「今月はいろいろ忙しいのよ、ニュー・アルバムをレコーディングしていてね……」という言葉には、さすがに会場全体がどよめいた。というわけで新曲(!)含め、“サン・オブ・ア・ガン”も“モリーズ・リップス”も“セックス・サックス”も、アンコールでは“ユー・シンク・ユー・アー・マン”も聴けた。至福である。ありがとう、ブリティッシュ・アンセムズ。(小池宏和)
BRITISH ANTHEMS LIVE SHOWS 2009 @ 新木場STUDIO COAST
2009.12.06