カジヒデキ最新アルバム『STRAWBERRIES AND CREAM』のリリース・パーティ。12月には大阪での公演が行われたのだが、新年を迎えてカジ君自身2010年初ライブとなるのが今回の東京公演である。しかもスペシャル・ゲストとしてステージを共にするのはもはや盟友・BEAT CRUSADERS。スウィンギン・ロンドンなガールズR&Bから最新インディ・ポップまで、高品位な7インチを次々にスピンしてゆくキュートなDJ、SUMIREも加わって、まさにパーティとはかくあるべしという華やいだムードの渋谷クアトロだ。何しろ、前説に登場したコンサート・プロモーターの清水音泉・田口氏や物販スタッフ、バーカウンターのバーテンダーに至るまで、揃いも揃って三角のパーティ帽を被りオーディエンスを迎え入れてくれるのである。楽しい。

そんなムードに包まれたステージ上にまず登場したのはビークル。「あけおめこ！……あ、今日はカジ君のファンもいるから下ネタ言えないんだった」などと白々しい挨拶をしていたヒダカだったが、こちらもめでたく2010年初ライブである。今どき、都内のこのサイズの会場でビークルを観れるということ自体が、新年早々ミラクルな体験だ。バンドは力むでもなくアッパー・チューンを連打してゆく。「余裕でアガる」という感じ。ビークルっぽくない喩えだけど、巨漢レスラーが片腕に何人も子供をぶら下げて笑っているような印象だった。カジ君のリリース・パーティで、目の前のカジ君ファン達もきっちり意識しているのに、「キンタ……ロウ飴！」とか「洗濯しないまま半年ぶりに引っ張り出したカトウのスーツにナットウキナーゼが」（AC/DCのアンガス・ヤング衣装に戻っていたのだ）とか、「もう無理だー！　はいカジ君にも聞こえるように！　おーまんこー！」とか、いわゆるスウィートでラブリーな「カジ君的なるもの」をすべて台無しにした上で、きっちり盛り上げるのだ。そういう意味でビークルの何たるかを突きつけるような、演奏のテンションとかとはまた異なるポイントでロック・バンドの凄みを感じたステージであった。

で、その不遜極まりない空気が今回の「カジ君的なるもの」を際立たせる結果になったのではないだろうかと思う。チェルシーFCのフラッグを振り回しながら登場したカジ君バンド5名様ご一行は、アルバム同様「アクション！」という掛け声とともにガッチリしたアンサンブルで“Mini Skirt”からの演奏をスタートさせた。サックスやフルートを吹き、キーボードまで弾きこなすマルチ・プレイヤーNARIの音が良いアクセントとなって、彩り鮮やかなバンド・サウンドを展開してくれる。あのテトラポット・メロン・ティ名義の“Sally My Love”をも織り交ぜながら、最新モードのカジ君が攻め立てるのだ。軽やかでポップだけれども、日本の歌謡曲の定型とは一線を画すメロディ・パターンの情報量と広がりゆくようなアレンジ。こんなカジ君スタイルのパフォーマンスは、むしろ今の時代にこそ希少価値がある。本編中盤では、かつてカジ君がベーシストを務めていたバンド、BRIDGEのメンバーである池水真由美がアコーディオン奏者として、更にはバイオリン奏者1名までがステージに加わり、総勢7名の大所帯となった。アイリッシュ・トラッド風にスウィングする“Love Is All”からのその余りに豊かなアンサンブルは、できれば今後もぜひやり続けて欲しいと思えるほど華やいだ、素晴らしいものであった。

12月のBOYZ OF SUMMER’09と同様、アンコールでカジ君はビークル風お面を被ってヒダカと共に再びステージに現れた。2人きりでアコギを抱えて何をやるのかと思えば、なんとフリッパーズ・ギター“Goodbye,our pastel badge”である。渋谷系面目躍如の名カバーだ。この2人の声の絡み合いというのが、またすこぶる良い。選曲の面白さのみならず秀逸なパフォーマンスであった。そしてカジ君バンドとビークルの面々が呼び込まれ、ヒダカによる「カジ君が提案してきた中で一番意外な曲を選んだ。今後二度とやらないかも知れない。タイトル言わないでやろっか」という言葉を合図にカジ君が歌い出したフレーズは、《ドブネズミみたいに　美しくなりたい》である。真に驚きのセッション。カジ君がその歌い出しをした時点でドキリとする。これでパーティーのクライマックスが盛り上がらないわけがない。狂騒の“リンダリンダ”の後は止めとばかりに“甘い恋人”が披露され、フロアにはオーディエンスのシンガロングするメロディが響き渡ったのだった。（小池宏和）

セットリスト

BEAT CRUSADERS
1. HAVE YOU SEEN HER HAPPY?
2.E.C.D.T.
3.LEMON HEAD
4.FREEDOM
5.DAY AFTER DAY
6.CLOWN FOR THE DAY
7.LET7S ESCAPE TOGETHER
8.SIBERIAN GIANT
9.GHOST
10.ISOLATION
11.CHINESE JET SET

カジヒデキ
1.Mini Skirt
2. 泡いっぱいの恋の中
3.Suddenly,Sibylla
4.Sally My Love
5.Love Is All
6.Have a Lovely Day!
7.Queen Sound Babbles Again
8.You Are The Only One
9.Strawberries and Cream
10.Too Much Too Young
11.Typical me,Typical you
12.La Boum～My Boom Is Me～

アンコール
13. Goodbye,our pastel badge
14.リンダリンダ
15.甘い恋人