Pay money To my Pain @ SHIBUYA-AX

Pay money To my Pain @ SHIBUYA-AX
最新EP『PICTURES』のリリースをまたぐようにして、5月から全国各地を回ってきたPay money To my Painの『STAY REAL TOUR』。名古屋、大阪と続いたワンマン・シリーズを締めくくる東京公演である。“After you wake up”のヘヴィ・グルーヴに弾けて満場のスクリームをステージに投げ返していたオーディエンスは、2曲目“Against the pill”の重機関砲の如く放たれる高速ビートによって、あっという間に沸点へと到達。K(Vo.)は足下のモニターに被せるように設置してあったステップに乗り上がり、熱狂のフロアを更に煽り立てていた。

ステージを目一杯広く使ってそれぞれのポジションを確保している4人のメンバー。激しいアクションを見せても安心なサイズのステージではあるのだが、彼らにはそれぞれ、巨大なスタンド・ライトが一台ずつ、至近距離で光を当てている。あれ、熱くないんだろうか? ドラマチックでエモーショナルな、Kがスタンド・マイクにしがみつくようにして歌う“Anxiety”ではグリーンのレーザー光線がフロアに走り、その後真っ白なバックドロップにはイメージ映像が映し出されるなど、さすがこの規模のワンマン公演という大掛かりな演出の数々もバンドのパフォーマンスを後押ししていた。

Kがマイクのシールドをタトゥーまみれの腕に巻き付けて歌うアップ・テンポな新曲“Pictures”では、バックドロップに歌詞の一部が映し出される。先日リリースされたばかりだというのに、オーディエンスがウォーオ、という大きなコーラスを歌ってK の歌メロと交錯するさまは見事だ。金色に輝くモヒカンを揺らしつつ、ヘヴィにしてキレのよいギター・フレーズを連発していたPABLOは、“From here to somewhere”のイントロでひとり幻想的な照明を浴び、メランコリックな弓弾きを聴かせる。アグレッシヴな重量級ナンバーもいいが、まるで映像を喚起するようなスケールの大きい、ドラマチックな美曲もPTPの武器だ。

「みんな、痛い思いとかプライドとかを抱えて生きているんだな、と感じたツアーでした。俺たちと同じなんだなって思いました。別に不幸自慢をするために生きている訳じゃないけど、俺は子供の頃から人に心を開くのが苦手で、それは20代だろうが、30、40、50 代の人だろうが変わらないと思う。『STAY REAL』というのは、本物であれ、という意味ではありません。そのままで、ありのままでいて欲しいということです。俺は中学生の頃から、周りの人がだんだん俺の冗談で笑ってくれなくなって、天井ばかり眺めるようになって、ずいぶんみんなを恨みました。居酒屋から大きな笑い声を上げながら出てくる人たちとか、カップルとかが、羨ましかった。でもそれは、みんなが俺から離れていったんじゃなくて、自分からドロップ・アウトしていったんだ、と気付くのに、29年かかりました。お前なんかいらない、とか、死ね、とか言われて、自分の存在を疑ってしまっている人は、それも自分なんだってことを認めて、どうか、自分を傷つけるのはやめてください。『STAY REAL』、その一言を言いたいがためのツアーでした。でももうひとつ、人は必ず変わることが出来ます。天井ばかり眺めていた俺は今、こうして大勢の人に耳を傾けてもらえています。それは俺にとって、一度しかない人生で、奇跡です。自分は絶対に変われない、と思ってしまっている人に、次の曲を捧げます。“Another day comes”」。

バックドロップに巨大な「Pay money To my Pain」のバンド・ロゴが現れ、ヘヴィネスと雄弁な物語性が完全に一体化した大作の名曲が披露される。再び、嬌声を上げながら大きくうねるフロアであった。バックドロップのバンド名をあらためて眺めながら、なんて逃げ場のない、ストイックなスタンスで音を鳴らし、歌っているバンドなんだろうと感じた。対価と引き換えにバンドが差し出すものは一体何なのか、それが極めてクリアな形で描きだされる、そんなパフォーマンスなのである。

中盤のドラマチックな美曲群で溜め込んだエネルギーを、一気に解き放つようなスクリーモ・チューン連打の終盤戦は、凄絶の一語に尽きるものであった。感情の迸りが美しい轟音と化して聴く者に迫る。バンド・キャリアの中で発表してきた楽曲群を見渡し、その大半を吐き出すような、大ボリュームのセット・リストであった。

アンコールで再登場したKが何かを語り出そうとするのだが、頭にタオルを巻きひとり遅れて登場したPABLOがKの言葉を遮るようにして「ゴメンゴメン! トイレいってたらさー……」と頭のタオルを取って投げ捨てる。瞬間、フロアから悲鳴とも爆笑ともつかない声があがった。「髪の毛なくなっちゃったー!」。PABLOのトレード・マークだったモヒカンが無い。坊主頭なのである。おいしいところをすべて持っていかれたKも、これはふて腐れつつ笑うしかない。最高だ。「ホラホラ、アンコールやりましょうよー」と会場の誰よりもしれっとしているPABLOの言葉に導かれ、Kは伸びやかなファルセット・ボイスを響かせる“Home”を歌い出したのであった。(小池宏和)

セット・リスト
1.Here I’m singing
2.Against the pill
3.Unforgettable past
4.Train
5.Lost the voice
6.Anxiety
7.Close the door
8.Pictures
9.The answer is not in the TV
10.Butterfly soars
11.Reflection
12.From here to somewhere
13.Same as you are
14.Bury
15.Another day comes
16.Paralized ocean
17.Position
18.The sun, love and myself
19.Lose your own
20.Terms of surrender
21.Out of my hands
22.Black sheep

アンコール
23.Home
24.All because of you

ダブルアンコール
25.Pictures
26.Against the pill
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