芯の強い美声をステージ上手から届けてくる飯田(Vo./G.)、その一方で怒号のようなスクリームを聴かせる三島(B.)。豊かなアレンジが最後に変則的なリズムの上に収束される楽曲を支える久野(Dr.)。“想像力”はcinema staffのメンバーそれぞれの持ち味が発揮された、挨拶代わりに差し出されるオープニング・ナンバーにうってつけの一曲だ。そして辻による悲鳴のようなギター・フレーズから“ニトロ”へと繋いでゆく。飯田が高速でベース・ラインを繰り出し、エモーショナルな歌がスピードに乗って駆け抜ける。高らかに歌われるメロディがドラマティックにクライマックスを描き出してゆく構成も見事だ。
いくつものフレーズ・パターンが紡がれ、複雑に絡み合うcinema staffの楽曲は、しかしそれをこれみよがしに聴かせるのではなくて、情感豊かな歌の物語を骨格として描き出されてゆく。ひとりの人間が抱えた思いとはなんと奥深いもので、いくつもの思いが交わる人間関係とはどれだけ予測不可能なものなのだろうか。メンバーそれぞれの佇まいが特徴的なcinema staffのパフォーマンスは、それ自体がひとつの混沌とした世界のようだ。激しいアクションとともに“Truth under the imagination”をプレイし終えると、三島が口を開く。「今日は皆さん、何を観に来たんですか? 今日は一バンドしか出ませんが、いいんでしょうか。岐阜県からやってきました、cinema staffです!」とすかしながらも、このワンマンへの意気込みが相当なものであることはひしひしと伝わってくる。
そして届けられるのは、飯田の高音ボーカルが華麗に伸びてゆく美メロ・ナンバー“バイタルサイン”だ。更には変形のディスコ・ビートが決まる“ローリング”、辻の軽快なギター・リフが踊りまくる“シンメトリズム”と、過去作のナンバーで攻め立てる。
飯田:「(ステージに)入ってきたときから笑いがこみ上げてきて。こんなにたくさんの人が観に来てくださってありがとうございます。ツアー中は、いろいろあったんですよ。辻くんが頭から血を吹いたりとか。」
三島:「泣いても笑っても27本目、今日で最後です。ツアー中ずっと育ててきた新曲を聴いて下さい。」
激しさの中にも強い肯定性が煌めくような、まさに「育て上げられた」という印象で聴かせる堂々の名曲。混沌をくぐり抜けた先の、タフな真っ直ぐさに満ちた新曲であった。長期ツアーがしっかりと新しい実りに繋がっていることが分かって嬉しい。公式な作品としては未発表の楽曲が固め撃ちされたのち、“制裁は僕に下る”の残酷で美しい描写をステージの真ん中ではなくステージ上手に立って歌い上げてゆく飯田は、辻や三島の激しいアクションの脇から世界を俯瞰して丁寧に語るナレーターのような佇まいであり、これがcinema staffの歌の物語性を視覚的にも強めているように思える。
三島:「今日はワンマンですけど、THE NOVEMBERSの皆さんと25か所を廻って。いろいろ学ばせて頂きました。改めてTHE NOVEMBERSに、大きな拍手を!」
辻:「(THE NOVEMBERSの)ケンゴさんがね、あそこのPAのとこで、ニコニコしながら観てるんですよ。」
三島:「このバスドラのとこに、cinema staffって書いてあるの、見えます? でも、やったの僕らじゃないんですよ。今日来たら、こうなってたの。結局、誰がやったのかわからないんだよね。え? ケンゴさん!? ケンゴさんか!!」
真相は不明なままだが、これは粋なプレゼントである。そしてステージは怒濤の終盤戦へと傾れ込んでいった。「もしあなたに感覚が5つしかないと思うなら、それは大きな間違いです。“第12感”」という三島の言葉を挟んで、cinema staffのエモーショナルなグルーヴが炸裂するワルツ風ロック・ナンバーが続けざまに2曲。“AMK HOLLIC”で疾走し、そして“優しくしないで”のダンス・ビートにUNITのフロアが大きく波打つ。爆発力のあるパフォーマンスをひたすら叩き付けながらも決してグシャグシャに壊れず、最後の“君になりたい”まで、どっしりとした手応えの「歌」で纏めたステージは実に見事であった。
「ツアーの始まりと終わりとではやっぱり違って、おお、結構できるようになっとるやんけ、と思って。そうして帰ってくることができました。ありがとうございます。この前、eastern youthを観たんですけど、本当にカッコ良くて。人間性そのもので音を鳴らしている感じがして。僕らも人間性そのもので音を鳴らして、このツアーの終わりとします」。ダブルアンコールで、消耗し切った表情の三島がそう告げていた。ライブの最終ナンバーとして時折披露される、メンバー全員がマイクレスで叫ぶように歌う一曲を終えると、彼らは今にも倒れそうになりながらステージ袖へと去っていった。約2時間、全21曲。激しいパフォーマンスも、一貫したタフな個性も、そして素晴らしい新曲も。長期ツアーの成長と成果がすべて吐き出された、素晴らしいファイナルのワンマン公演であった。(小池宏和)
セット・リスト
1.想像力
2.ニトロ
3.Boys Will Be Scrap
4.部室にて
5.Truth under the imagination
6.バイタルサイン
7.ローリング
8.シンメトリズム
9.新曲
10.新曲
11.新曲
12.制裁は僕に下る
13.妄想回路
14.新曲
15.第12感
16.AMK HOLLIC
17.優しくしないで
18.君になりたい
EC1-1.チェンジアップ
EC1-2.KARAKURI in the skywalkers
EC2.未発表曲