開演時間を8分ほど過ぎた頃、暗転とともにSE“SA BIR”がスタート。地鳴りのような歓声が沸き起こる中、ステージ天井から5本の照明がヌーっと降りてくる。赤い光を放ってステージぎりぎりまで落ちてくるソレは、なんだか巨大な怪物が爪を立てているかのようで、もうその時点で会場いっぱいに血なまぐさい空気が広がっていく。そしてメンバー登場。すでに上半身裸の京(Vo)は、「かかってこーい!」とシャウトしながら伸びやかなファルセット・ボイスとデス声を響かせていく。本ツアーは11月10日のなんばHatchまで続くので、詳しい曲順は控えさせていただくが、しょっぱなから攻撃的なナンバーの連続! なにより驚いたのは、前回のSTUDIO COATS公演に比べてサウンドの厚みが格段に増していることだ。バッキバキのリフ、ヘヴィーなビート、ドシャメシャなドラム、そのどれもが凄まじいエネルギーを放ってフロアに襲いかかってくる。のちにスタッフに聞いたところ、今回のツアーには、いつもは海外ツアーのみに帯同しているエンジニアのリック・ディージング氏が引き続き帯同しているそう。なるほど、海外のメタルバンドをも凌駕するような屈強なサウンドが、腹の底まで響いてくるわけである。なかでも、「お前ら生きてんのか!」という京のアジテートと、一触即発のグルーヴがフロアを制圧した“RED SOIL”は圧巻だった。
ライブ中盤、それまでガランとしていたステージ後方から、“AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS”のサウンドに乗ってバンド名とツアー名を記した横断幕がせり上がってくる。さらにステージ後方から照らし出される光によって、5人のシルエットがドラマティックに浮かび上がる。これにはフロアもひときわ大きな歓声で応え、会場の熱気は否応なしに高まっていく。とはいえ、決して過度な演出をしているわけじゃない。カラダを大きく反らせて熱唱する京も、寡黙にギターを掻き鳴らす薫(G)も、その横でアグレッシヴに動き回りながらベースを操るToshiya(B)も、長い髪をなびかせて官能的なアルベジオを響かせるDie(G)も、細い腕を大きく振りかぶってドラムを叩くShinya(Dr)も、いつも通りの佇まい。MCだってほとんど無いし、過剰にオーディエンスを煽ることだって、もちろん無い。そんな中で、この凄まじい熱狂である。まるで、ムダな贅肉を削ぎ落としたシンプルな演出こそが、何よりもオーディエンスの心を掴むのだということを、ありありと見せつけられているような気持ちになった。
なお今日は、ライブで久しくプレイされて来なかった“艶かしき安息、躊躇いに微笑み”“業”などもプレイされた。そのたびにフロアから割れんばかりの歓声が上がったことは言うまでもないが、この会場全体の一体感も、DIR EN GREYのライブに欠かせないものである。ステージから叩きつけられる轟音に一糸乱れぬ拳とオイコールで応戦し、サビではこれまた声の揃ったシンガロングを響かせるオーディエンス。まるでステージ上のメンバーとエネルギーのキャッチボールを重ねるようにして、ある一点へと向かってジリジリとテンションを上げていくさまは、見ていて胸が打たれるほど感動的だ。先ほども言ったように、毎回ドラスティックにライブの構成が変わるわけではない。しかし、ライブのたびに積み上げられた無数の「約束事」をひとつひとつ実践しながら、メンバーとともにカタルシスへと上り詰めていくオーディエンスの中に身を置いてみると、DIR EN GREYのライブがハンパない中毒性を持っていることがよく分かる。年間数多くのライブをこなすDIR EN GREY。きっとメンバー自身も、そんなライブの中毒性にとり憑かれて、ライブ行脚を繰り返しているのだと思う。
アンコールでは6曲を乱れ打ち。「お前ら、そんなもんか?」とフロアを挑発する京の脇を、DieとToshiya、さらにはそれまで自らのポジションを動くことのなかった薫までもが駆け巡り、会場をさらに激しい戦場へと変えていく。この日のハイライトとも言える“STUCK MAN”では、フロアが揺れる! 揺れる! アンコールも含めて約100分強、一縷の弛みも無いままラストを迎えた頃には、放心状態で立ち尽くすオーディエンスの姿が、フロアのあちこちで見られた。(齋藤美穂)