『4th album“Adze of penguin”release live SMOOTH LIKE BUTTER TOUR』というタイトルの通り、アルバム『Adze of penguin』を引っ提げて全国33公演をサーキットしてきたツアーも、この日の幕張メッセ イベントホールでファイナル。ツアーの最後を飾るに相応しい立派なステージが我々を待ち構えているのだろう……と思いきや。会場に入ってステージのほうを見て驚いた。何もないのだ。
いや、ライブに最低限必要なステージやPAや照明は組んである。
が、それだけ。普通ならステージの後方をぐるっと囲んでいるはずの黒幕もなし。なので、ステージ袖に陣取っているPA卓や音響スタッフ、そして機材の搬入/搬出のために舞台後方に停めっ放しのトラックまで、フロアを埋め尽くしたオーディエンスから丸見えなのだ。ステージだって足場に板を渡した程度。シンプルにも程があるだろ、と思いながら開演を待つ。
が、19:05に開演を迎え、トライブ・ミュージックとゴスペルがハグしたような1曲目“Falling”が鳴り響いた時、そして原(B)がMCで「命を懸けて演奏します。どうぞよろしく」と言った時、そしてその音楽の1音1音がフロアの温度を確実に上げていくのを目の当たりにした時、そのステージ・セットまで含めて「正解」である気がした。ステレオタイプなロックやポップから要らないものをざっくり消去し、到底ポップになりようのないピースを組み合わせて、シンプルで風通しが良くて、それでいて紛れもなく攻撃的なロック・ミュージックを編み上げてしまうバンアパ・マジック。その唯一無二の音楽には、どでかいビジョンもミラーボールも必要ない……そう思った。
荒井がアコギに持ち替えて豊潤な響きを聴かせる“bacon & eggs”“pieces of yesterday”、木暮(Dr)のシンプルな8ビートから目映いギターの洪水へと展開していく“Moonlight Steppers”、そしてトロピカルなイントロから高揚の宇宙へと飛翔する本編ラスト“Waiting”……といった新作『Adze of penguin』の新機軸盛り盛りの楽曲、そして“Eric.W”“led”“FUEL”“higher”など過去の必殺ナンバーが絶妙のバランスでブレンドされ、あっという間に2時間強のアクトが終わりを迎えていく。
そして。ひたすら「楽しくやってます」を繰り返す荒井(Vo・G)に対し、原のMCはこの日も絶好調(?)。「ツアーにはトラブルがつきものだよね。SEがでかすぎるとか、アンプの音が出ないとか。アンプから天ぷら揚げてるような音がすることがあって。そういう時は天ぷら屋のババアがアンプの中で開店してんだわ。今日は何もないといいね。何かあったら、天ぷら屋のババアは公開処刑!」とか「人平線(人がたくさんいて地平線っぽくなってるということらしい)が見える。このままタイムスリップしそうだな。曲が終わったら戦国時代とかだったら、みんなガン見だよな? 甲冑着てるやつらが……そんなことを考えながら、ツアーが終わっていくわけです」。そんな原の、挑戦的だかとぼけてるんだかまるでわからないMCがしかし、オーディエンスの気分を不思議とロックに盛り上げていく。
ダブル・アンコール“quake and brook”の最後では、川崎(G)がギターかついだままステージを駆け下りてフロア後方のPA卓までダッシュ! ステージでは原と木暮がパート・チェンジして暴れ弾き狂っている。沸き起こる大歓声! 最後は原の「お手を拝借!」の声で一本締め。構えず飾らず、ロックの常識を軽々と逸脱していくバンアパのすべてが露になった一夜だった。(高橋智樹)
1.Falling
2.I love you Wasted Junks & Greens
3.Eric.W
4.night light
5.July
6.led
7.Cosmic Shoes
8.shine on me
9.FUEL
10.bacon & eggs
11.pieces of yesterday
12.Malibu
13.Moonlight Stepper
14.higher
15.cerastone song
16.ANARQ
17.beautiful vanity
18.from resonance
19.coral reef
20.Waiting
アンコール
21.Can’t remember
22.in my room
23.K.and his bike
24.quake and brook