安藤裕子@東京国際フォーラム ホールA

安藤裕子@東京国際フォーラム ホールA
安藤裕子@東京国際フォーラム ホールA
安藤裕子@東京国際フォーラム ホールA - pics by banripics by banri
国際フォーラムの巨大なステージ上、青白い照明に浮かび上がるバンド・メンバーの姿。冷えたオルガンのサウンドが醸し出す、深海の底のような静謐……そんな空気感は、真紅のドレスに身を包んだ安藤裕子がオン・ステージして“私は雨の日の夕暮れみたいだ”を炎の如く身体をうねらせながら絶唱すると一変! どこまでもアーティスティックでアヴァンギャルドな「安藤裕子という名のポップ・ワールド」の扉が大きく開いた瞬間だった。9月にリリースされたアルバム『JAPANESE POP』を引っ提げての、計10公演の全国ツアー『安藤裕子 LIVE 2010“JAPANESE POP”』最終日:東京国際フォーラム ホールA公演。昨年6月以来・約1年半ぶりとなるこの会場でのワンマン・ライブだが、そのアクトの印象はまったく違う。

もちろん、曲ごとにシリアスだったりキュートだったりまったく異なる表情を見せたり、華奢な身体をいっぱいに駆使してバンド(G:山本タカシ/Cho:新居昭乃/B:三浦謙太郎[BAZRA]/Dr:佐野康夫/Key:山本隆二、という強者揃いの布陣!)のアンサンブルと共振しながら歌を発信する彼女の全身芸術家っぷりは、これまで同様ーーどころか格段にグレードアップしている観がある。が、今の彼女の表現のバランスは「着実に安藤裕子というアーティスト像を確立すること」よりも、形振り構わず「四方八方にあふれ出す曲1つ1つの世界観とメッセージをリアルに歌い伝えるという冒険」へと大きく傾いている。ということが、“健忘症”“New World”“マミーオーケストラ”といった『JAPANESE POP』の楽曲は伝えてくれるものだったが、それがライブの場ではさらに濃密なヴァイブとなってこちらに迫ってくる。そして、そのことによって逆に、ひと回りもふた回りもスケールの大きな「アーティスト・安藤裕子」が鮮烈に感じられるような、極めてマジカルでドラマチックなステージだった。

「今日、最終日! リハーサルで気合い入りすぎて、楽器におでこぶつけてここ、割れました。見える?」という序盤のMCで5000人の観客をどよめかせつつも、本人は至って快活に、アグレッシヴに1曲1曲を歌い上げていく。たとえば、“健忘症”“New World”の、「今」の世界をミステリアスな童話に閉じ込めたようなポップ感。たとえば“アネモネ”の繊細なファルセットが織り成す、強靭な神秘の風景。これまでもライブで披露されてきたアッパーな人力ドラムンベース的ピアノ・ロック・ナンバー=“Green Bird Finger.”も、「安藤裕子のお馴染みの曲」としてではなく「聴き手をポップ異世界へ誘うメロディ」として響く。

中盤では、山本隆二のピアノだけをバックに、無防備なくらいに無垢な声で“court”を歌う彼女。“court”は置いてきぼりにしてしまった思い出を歌った曲で、これから歌う曲も「置いてきぼりにしなきゃいけない思い出」を歌った曲です、もう一生会えない人とか、二度と戻らない時間とかーーというMCに導かれて“忘れものの森”を歌う頃には、オーディエンスは歌の魔法にかかったように、息を呑んだままステージに観入っている。本編最後の、昨年亡くなった幼馴染みの母親をテーマに書かれた“歩く”の前にも、「頑張っても頑張ってもできないことばっかりで、くやしいことばかりで、それでもどんどん時間は過ぎて行って、会いたい人に会えなかったりするけど……みなさんも、家族や大切な人にひと声かけてから眠りについてほしいと思います」と語っていた彼女。この日の彼女の歌と言葉の1つ1つが、「今、この瞬間を生きること」「本当に大切なものに衒いなく向き合うこと」を真っ直ぐ指し示していた。終盤に飛び出したくるりの“ワールズエンド・スーパーノヴァ”のパワフルなカバー(安藤裕子、巨大オタマトーン・ソロを弾く!)や“パラレル”の疾走感も、十二分にスリリングな高揚感を与えてくれるものだったが、より強く胸を揺さぶるのは、“Paxmaveiti ラフマベティ-君が僕にくれたもの-”の虚飾なきボーカリゼーションであり、“歩く”の《あなたを忘れないと 強く胸に刻み あなたの名を想っては 明日を迎えよう》という真摯な言葉だった。

アンコールでは、このバンドの中ですっかり「マリオ」としてキャラ化されいじられまくっているらしい三浦謙太郎による「来年3月2日、カバーアルバム『大人のまじめなカバーシリーズ』発売!」の告知(“ワールズエンド・スーパーノヴァ”はライブとは別バージョンをコンパイル&ライブ・バージョンもボーナス・トラックで収録)、そして「ジャパネット・マリオ」的な物販解説口上があった後で、安藤裕子は「普段は曲の話とかすることもないし、したくもないんだけど……」と、“青い空”について静かに語り始めた。

2~3年前、10代の女の子からもらった手紙が元でできた曲であること。そして、「助けてほしい」というその内容に対してどう応えていいかわからず、返事を書けなかったということ。「でも、もしこの中に、道が見えない人がいるとして、『絶対明日はいい日だから』とは言えないなあって。つらいことばかりで一生を終える人もいる中で、たくさんの人と出会えて……私はラッキーだったと思う。私も、先が見えない時に、屋上から空を見上げていて、『こんな青空を独り占めできるんだったら、まだいいことあるんじゃないかな』って。この会場のどこかにいたら、その子にも、青空を見上げてほしいなあって……それぐらいしか言えないけど」。そして彼女は、一言一言噛み締めるように“青い空”を歌い上げた。《あなたに見せてあげよう 咲くような朝陽を》というフレーズが、5000人をじっくりと抱き締めるようにホールいっぱいに広がっていった。

最後は手拍子の中、「ゲロルシュタイナー」CMでもOAされている“問うてる”で大団円! 清流のように軽やかなメロディを歌い切り、エンディングで力の限りにハイトーン・シャウトを披露した彼女が、「またどこかで会う時まで、元気で……ただただ元気でいてください!」と客席に呼びかけていたのが印象的だった。そして……彼女の2010年最後を飾るライブは12月30日、『COUNTDOWN JAPAN 10/11』GALAXY STAGE!(高橋智樹)


[SET LIST]

01.私は雨の日の夕暮れみたいだ
02.健忘症
03.Green Bird Finger.
04.New World
05.マミーオーケストラ
06.み空
07.雨月
08.アネモネ
09.court
10.忘れものの森
11.Dreams in the dark
12.海原の月
13.ワールズエンド・スーパーノヴァ(くるりカバー)
14.パラレル
15.Paxmaveiti ラフマベティ-君が僕にくれたもの-
16.歩く

EC1.青い空
EC2.問うてる
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