スレイ・ベルズ @ 渋谷duo music exchange

昨年発表された内外のメディアによる2010年年間ベスト・アルバムで、おそらく新人としては最高位のランクインを軒並み果たしたブルックリン発の男女デュオ、スレイ・ベルズ。その記念すべき初来日公演が、成人の日の1月10日、ここ渋谷duo music exchangeにて行われた。さすがに晴れ着姿の新成人、は見かけなかったものの(?)、会場は、このまだ見ぬ「たった2人で現時点最大級の爆音を鳴らすユニット」を目撃せんと詰め掛けたオーディエンスが、いつもとはちょっと違う空気を形成しながらその登場を待っていた。

オープナーとして出てきたのは、Stolen Recordingsに所属する英在住のジャパニーズ・サイケデリック・バンドBO NINGEN。ザ・ホラーズのファリスが見初めたということでも話題の4人組だ。修道院のシスターばりの黒装束で身を固めた長身のベース&ボーカルを筆頭に、まずバンドのビジュアルがインパクト大。ドロドロのサイケデリックからカオティックなヘヴィ・ノイズへと(とはいえ、その長身の彼のMCの声が、歌っているときからは想像もできない、非常に爽やかというかあどけないもので、そこも印象的)、最後は上手のギターが、持っているギターをネックをつかむやブンブンぶん回す怪演も交えながら、破滅的なカタストロフへと身投げしていくパフォーマンスで、スレイ・ベルズ登場までのフロアを十二分に加熱させた。

そして、きっかり19時。暗転した場内に、とろけそうなスウィート・ポップ・サウンドが響き渡る。すると一転、SEはメタリックなヘヴィ・ギターの轟音にかき消される。このギャップ、すでにスレイ・ベルズの「発明」を先取りした演出だ。

スレイ・ベルズは、前述の通り、たった2人のユニットである。ギターを担当するデレク・ミラーと、ボーカルのアレクシス・クラウスの男女デュオだ。さっきまでステージを占拠していたロック・バンドの見慣れた舞台装置、つまりは、ドラム・セットであり、足元に散在するエフェクター類であり、それらをつなぐコード類といったものが、きれいさっぱり片付けられている。あるのは、背後に壁のように整然と設置されたマーシャル・アンプ8台。それだけ、なのである。

重量級のマシンガン・サウンドが建物の土台を揺らさんばかりの重さで轟く。オープニングは「Tell’Em」だ。ステージに駆け込むようにデレクが現れ、ロックの観測史上記録的なボリュームによるグラインダー・ギターで、同期させたバック・トラックに切れ込んでいく。むっちむちのスパッツ姿で続けざまにアレクシスが登場、バブルガムもこれほど甘ったらしくはなかろうにというポップ・メロをそのスウィートな歌声にのせ、音の業火の中に投入していく。

これが、スレイ・ベルズの発明である。ロックが到達した「音のデカさ」によるエクスタシー方程式を、阿呆なまでに単純化したデレクのトラック。そこに、ポップが導き出した「メロディの甘さ」によるオーガズム方程式を、無茶ぶりもここまで行くかとブチ込んでしまうアレクシスのボーカル。ロック/ポップ・ミュージックの究極のロジックを、融和させることも変質させることもなく、それぞれにさらに際立たせたまま、抱きあわせで聴き手を撃ってしまう。それがスレイ・ベルズなのである。

しかし、この爆音(とコマーシャルなメロディ)の撃つものはいったい何なのだろうか。ロックがヘヴィネスを追い求めていった歴史には、狂気があり、絶望があった。ポップがスウィートネスを高めていった先には、優秀な消費財としての功利性があった。ところが、同じように爆音とメロが大量に放出されるばかりのスレイ・ベルズには、そうした「重さ」や「合理性」はない。というか、むしろ、その両者をいっぺんに放射することで立ち現れてくるのは、もっとずっとシンプルな、ピュアネスのようなものだ。

つまりそれは、馬鹿デカいロック・サウンドや、甘酸っぱいポップ・メロディは、「人を否応なしに奮い立たせる」ということへの、盲目的なまでの献身のように思えたのである。

だから、スレイ・ベルズは、その両方をいっぺんに鳴らす。出す。そして、われわれを揺り起こす。両の手でわれわれの肩をつかんで揺さぶる。起きろと、そう言っているのである。

続く「A/B Machines」から「Infinity Guitars」、そしてラップを含んだおそらくは新曲なども挟みながら、「Crown On The Ground」までのあっという間の30分強で、渋谷duo music exchangeという名の空間は、おびただしい数の起爆装置が作動し、誘爆を起こし、起動していた。アンコールはなし。

そういえば、冒頭の「Tell’Em」は、少年少女たちに向けて、今日、ベストを尽くせと呼びかけるナンバーだった。髪を振り乱して絶叫していたアレクシスは、元公立学校の先生だったそうだ(オーディエンスとのコミュニケーションも、だから、そう言われてみるとなんだかそういう風にも見えた)。途中、曲間で3回ほど、彼女が長い悲鳴を立て続けに上げた瞬間があった。その悲鳴の直後、彼女が「フフフフ」と笑ったのがとてもとても可愛らしく、印象的だった。(宮嵜広司)
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