キセルとトクマルシューゴ@渋谷O-EAST

キセルとトクマルシューゴ@渋谷O-EAST - キセルとトクマルシューゴ / pic by 阿部健キセルとトクマルシューゴ / pic by 阿部健
キセルとトクマルシューゴ@渋谷O-EAST - キセル / pic by 阿部健キセル / pic by 阿部健
キセルとトクマルシューゴ、もうこのままユニットとして活動してもなんら違和感のないタイトルが付けられたこのツアー、両者の共演は2009年以来(この時はツーマン・ライブだった)のこと。2度目となる今回は、東名阪の3公演に拡大して行われ、チケットは12月の時点で早々にソールド・アウト。今宵はツアー・ファイナル、渋谷O-EAST公演である。

先行でステージに現れたこの日のキセルは、辻村豪文と友晴の兄弟に、キーボードのエマーソン北村、ドラムの北山ゆうこが加わった4人編成。シンプルな明かりが照らす、シンプルなステージセットで、まず“柔らかな丘”が奏でられた。少しだけ祝祭的な香りを漂わせながら、ステージ上の4人はゆっくりと、一つ一つの音を確認するような足取りで演奏していく。2曲目は“夜の名前”。ギターのカッティングはダブっぽい装いだが、おおよそダブには聴こえない。キセルの音楽はいつもそうだ。ダブやレゲエをやりたいからそうしたエッセンスを取り入れるのではなく、あくまで音の1パーツとして、キセルという音楽を奏でるために再構築しているのがわかる。彼らの音楽には作為的な要素はまるで感じられず、いつも平熱で、涼しい顔つきで、誰にも打ち消すことのできない孤独感を、誰もが見たことのある情景と物語で鮮やかに描く。

「紅く咲いたよ/なんで?/君の名前を/呼んで」似たようなフレーズが追いかけっこするようにループする3曲目の“ねの字”では素朴で温かみのあるアンサンブルを紡ぎ、続く“サマーサン”では彼らの諧謔性をグリム童話のような不穏な音像に焼き付けていく。普通のようで普通じゃない、ねじれていないようでねじれている。彼らの音楽は空想的でありながらも、その非日常性はどこか日常と地続きであり、醒めながら見る夢のような感覚だ。

「ひさしぶりにやる曲です。今日の弟の曲はこれしかないんですけどね」と豪文が言って披露したのは“眠る人”。心をそっとつまむように爪弾くギターを淡いオブラートのような優しい鍵盤が包み込み、終盤では豪文のギターがめずらしくシューゲイズする。この“眠る人”をはじめ、ミュージックソウを友晴が操り豪文と2人で演奏された“君の犬”もそうなのだけど、これらの曲にはシンプルな構成の中にかすかなサイケデリック、と言えそうな音像がちらついている。そこに少々のねじれが混じっても、トレンド的な音とは別にけれん味なく響かせることができるのは、キセルが持つ音楽の美しさである。

“ハナレバナレ”、“写真”に続いて、ラストに演奏された“ギンヤンマ”はやはり素晴らしかった。内向きのエモーションがだんだんと立ち上がり、それが高揚感に変わっていくあの瞬間。でも、いくら高揚してもどこかもの悲しさが漂っているのは、彼らが「去っていくもの」、「失われそうなもの」について歌っているからだろう。この日も、日常から少しだけ体が浮き上がるような浮遊感を残しながら、キセルは去っていった。
キセルとトクマルシューゴ@渋谷O-EAST - トクマルシューゴ / pic by 阿部健トクマルシューゴ / pic by 阿部健
そして約15分の転換ののち、ステージに登場した今や説明不要のポップ・マエストロ、トクマルシューゴ。この日もイトケン、シャンソン・シゲル、田中馨、yumiko、岸田佳也からなるマジックバンドのクインテットが、彼をぐるっと取り囲むように配置につき、おなじみのオープニング“Platform”でライブがはじまった。

深い森の奥で小人たちが隠れるように宴を催し、唄い踊っているようなアバンギャルド・ポップス。彼の音楽は、音源だけで聴くとそんなファンタジーに溢れたベッドルーム・ミュージック的な側面も持ち合わせているが、ライブとなると目を覚ましたかのように躍動的で、豊かで、自由な広がりを見せてくれる。ドラム、ギター、アコーディオン、リコーダー、トイ・ピアノ、ピアニカ、グロッケンなど他にもたくさんの楽器/非楽器を使った生の演奏からは、音源だけでは感じることのできない幾何学的な音の厚み、同時に鳴り響く1つ1つの音、それらが複雑に絡み合いながら楽曲が組み上げられていく構造美――彼とマジックバンドが実に多面的な魅力を兼ね備えたバンドであることがわかる。

そして、このバンドのダイナモ・エンジンとも言えそうなのが、岸田佳也のドラムだ。トライバルで、時に調子っ外れに脈打つドラミングは、ディアフーフのグレッグのスタイルにとてもよく似ていて、彼はドラム・セットを初めて与えられた少年のように無邪気に、実に楽しそうにプレイする。彼のビートは、このマジックバンドにジャム・バンドさながらの躍動をもたらせている。個人的に『Night Piece』、『L.S.T.』といった初期の作品は、トクマルシューゴの脳内をそのまま音楽という箱庭に移したようなどこかこじんまりした印象があったけれど、昨今の『EXIT』や『PORT ENTROPY』ではそんな箱庭感を彼方へと放り投げ、ポップ・ミュージックとしての機能性と突破力を合わせ持ったシンガー・ソングライター、あるいはサウンド・クリエイターへと彼は成長した。そこにはマジックバンドとの出会いが不可欠であったと僕は思うし、それほどまでに音源とライブは違った彩りを見せている。

この日は、“Tracking Elevator”、“lahaha”、“Suisa”、“green rain”、“LaLaradio”、“Future Umbrella”といったアルバム『EXIT』や『PORT ENTROPY』の楽曲を中心としたセット。途中に挟んだソロのアコースティック・セットでは、ライブではあまり演奏しない“Button”や初期の“Mushina”を披露する。さらに、おなじみ“Video Killed The Radio Star”のカバー、“The Mop”からディズニーの“エレクトリカルパレード”へ移るテクニカルな早弾きなどをたたみかけ、ワンマン顔負けの全20曲という大ボリュームで集まったオーディエンスを沸かせていた。おそらくこのツアーで初披露されたと思われる曲は“Chinkesan's Theme”。(終盤の新曲は昨年末のCOUNTDOWN JAPAN出演時に披露している)これは、俳優・近藤芳正の新規公演「ちんけさんと大きな女たち」の劇中に使用された音楽で、トクマルシューゴが手がけた初の舞台音楽である。これがまた彼の手癖がこれでもかと敷き詰められたインスト・ナンバーでとても良かった。

単純な言い回しになってしまうけど、トクマルシューゴの音楽を聴いていると楽しくて、愉快でたまらなくなる。元気さえ出てくる。明日からまた始まる規則と常識と時間にまみれた一週間への後ろ向きな気持ちもゆるみ、忘れ去ることができる。いろんな音楽をもっともっと聴いてみたくなる。そう思ったのは僕だけじゃないはずだ。本編ラストの“Rum Hee”、そして再度登場したアンコールの“Parachute”が終わった後の渋谷O-EASTは、至高の喜びに満ち満ちていた。

キセルとトクマルシューゴ。どちらも日常の中に非日常を持ち込む音楽だが、キセルが日常と限りなく地続きなものに対して、トクマルシューゴは日常とはかけ離れているものだ。それぞれの音へのアプローチは異なるけれど、ラストに3人で演奏された名前のない新曲は(辻村豪文がコードを、友晴がリフを、トクマルが歌詞を担当したらしい)、その非日常のどれでもない「生きている」感覚が芽吹いていたのは皮肉でもなんでもなく、彼らの音楽がこの時代を、現在を生きている音楽を鳴らせているということなのだろう。(古川純基)

<セットリスト>

キセル
1.柔らかな丘
2.夜の名前
3.ねの字
4.サマーサン
5.眠る人
6.君の犬
7.夕焼け
8.ハナレバナレ
9.写真
10.ギンヤンマ

トクマルシューゴ
1.Platform
2.Tracking Elevator
3.Lahaha
4.Suisha
5.Future Umbrella
6.Green Rain
7.Button
8.Mushina
9.Eurydice
10.Amayadori
11.Chinkesan's Theme
12.La La Radio
13.Such a Color
14.Vista
15.The Mop
16.Video Killed the Radio Star
17.新曲(タイトル未定)
18.Rum Hee

- Encore -
Malerina
Parachute

キセル&トクマルシューゴ
新曲(タイトル未定)

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