ローカル・ネイティヴス @ 渋谷クラブクアトロ

ローカル・ネイティヴス @ 渋谷クラブクアトロ
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ローカル・ネイティヴス @ 渋谷クラブクアトロ
ローカル・ネイティヴス @ 渋谷クラブクアトロ - pics by 萩野タイガーpics by 萩野タイガー
毎年、フジ・ロックでは「発見」と呼ぶべきまっさらな未知の新人が登場してその年の話題をかっさらっていくという、極めて健全な新たな才能との出会いが恒例と化しているわけだが、昨年のフジでまさに「発見」されたのがこのローカル・ネイティヴスである。デビュー・アルバム『ゴリラ・マナー』の日本リリース前の参戦にも拘らず、昼下がりのホワイト・ステージに登場した彼らは瞬く間にフジ・ロッカーのハートをわしづかみにしてしまった。あれから半年、昨夜のステージはローカル・ネイティヴスの初単独ツアーの初日である。

ローカル・ネイティヴスはロサンゼルスのシルヴァーレイクを拠点に活動を続ける5ピース・バンド。昨今の西海岸勢のレイドバックしたサイケ&ドリーム・ポップのフレイヴァーと、東のブルックリン勢にも通じるアフロ~ポスト・パンクのフレイヴァーを兼ね備えた新星として、デビュー以来USオルタナ・シーンで大きな話題となっている彼ら。ちなみにこの日のオープニング・アクトを務めたのはローカル・ネイティヴスのレーベルメイト、ブルックリン出身の3ピース・バンド、アントラーズ。彼らのドローンでシューゲイズなステージがオーディエンスをまったりじっくり温めた30分後、ローカル・ネイティヴスが登場した。

ローカル・ネイティヴスの基本編成はギター×1、セミアコ・ギター×1、ベース×1、タム・ドラム&シンセ×1、ドラムス×1から成っている。ドラムスとベース以外の3人はそれぞれパート入れ替え可能なプレイヤーであり、そしてこのバンドの特筆すべきマナーはドラムス以外の4人が全員コーラスを取れるというハーモニーの美しさだろう。1曲目の“Camera Talk”からそんなハーモニーが炸裂する。2人から3人へ、そして3人から4人へと徐々に声を重ねていくユニゾンは彼らにとって得も言われぬ高揚を誘う装置、いや、ほとんど楽器にも似た役割を果たすものだ。

続く“World News”は思わず「ア、アノラック……!」と呟いてしまったほど懐かしくも瑞々しいギター・ポップの様相を呈していた。彼らの声、コーラスが楽器的に響く代わりに、メロディの軸となっているのは明らかにセミアコ・ギターだ。軽やかに華やかにカラフルな色彩をまき散らすセミアコのストロークが会場内の温度を一気に上げていく。実際この日の東京はこの冬一番の寒さ(と、最近はずっと言われているけど)だったわけだけど、ローカル・ネイティヴスのヴァイヴは、ステージ上に寒々しいランニング姿のメンバーがいる違和感を忘れさせるほど温かく、サンシャインで、多幸感溢れるものだった。テノールのコーラスも圧巻で、フロアにはガッツポーズのような拳が何本も突き上げられていく。

ギタポの軽妙とコーラスの美しさに耳を奪われたそんなオープニングから、徐々にショウは重層的に、複雑になっていく。出色の出来だったのがトーキング・ヘッズのカバー“Warning Sign”だ。AORみたいに可愛げのない高等テクニックを披露するアンサンブルから一転、超絶アフリカンなリズムの応酬へとなだれ込むトライバルな転調が素晴らしく、可愛らしい御伽の世界の生き物みたいだったローカル・ネイティヴスの音楽は突如鋭い牙を剥く獣へと変貌を遂げていく。この後も大胆な転調は常に彼らのパフォーマンスのキーとなっていて、ソフトとハード、メロウとアグレッシヴ、夢と現実、そして治癒と破壊をせわしなく行き来しながらめくるめくアドヴェンチャーが繰り広げられていく。中盤のクライマックスとなった“Wide Eyes”はまさにそんなローカル・ネイティヴスの「落差」の集大成とでも呼ぶべきナンバーだった。

後半はピアノ・イントロで始まる楽曲が多くエントリーしており、レディオヘッドの“Videotape”のようなしめやかな葬送を喚起させるピアノで始まった“Shape Shifter”、ベン・フォールズのような連打で始まった“Airplanes”等、1時間をかけてギタポ→トライバルなポスト・パンク→アフロと次々に展開してきた彼らのサウンドの更なる一歩を見せつける内容。前半がセミアコとタム・ドラムの連打に先導されたアップリフティングな展開だったとしたら、後半戦はピアノが先導するメランコリックな展開だったと言っていいだろう。そして最終コーナーの“Stranger Things”、“Who Knows Who Cares”ではサポートのヴァイオリニストも登場し、彼らの昨年のフジ・ロックのステージを思い出させるハッピーなムードと共に大団円を迎えた。

西海岸の今を象徴するユルく多幸感溢れるポップと、東海岸の今を象徴する実験的で自由なポップのミクスチャー、それがローカル・ネイティヴスであると証明したステージだった。十数年ぶりのUSオルタナティヴ最盛期と呼ばれるこの時代にあって、彼らはいそうでいなかった「一度で二度美味しい」バンドなんじゃないだろうか。(粉川しの)
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