19:10、開場時からオープニングDJを行っていたDJミッツィーが退場し、暗転。幕で覆われたステージの端から、前作『マニフェスト』のツアーでもライブを盛り上げた人間大ロボットの「しゅうけいくん」が登場し、開会宣言を行う。そしてオープニング映像を映し出したステージ前方の幕が落とされ、メンバーが登場。“ラストヴァース”のゆったりとしたビートに乗って、フロアが大きく揺れていく。『マニフェスト』のラスト曲であり、ライブでは終盤にプレイされることの多いこの曲がオープニングを飾ることは珍しい。さては何らかの意図が隠されているのか? と思いきや、曲を終えた宇多丸が「『マニフェスト』期のライムスはここで終わり!」と一言。さらに「今日のライブは2部構成になっています。1部はあのラジオ番組にちなんだコーナーを、2部は『POP LIFE』の曲をやります」といきなりの種明かしが行われる。
というわけで第1部は、「ウィークエンド・シャッフル」の出張特別版。ステージ袖から収録スタジオそっくりのセットが現れ、その中で番組のコーナーにちなんだ企画が展開されていく。まずはじめは、番組でもお馴染みの映画評論コーナー【ザ・シネマハスラー】。2001年のメジャー・デビュー・アルバム『ウワサの真相』に収録された“プリズナー No.1,2,3”の歌詞で引用された、映画やドラマの実際の映像を観ながら、宇多丸が歌詞の作り方を生解説。その後、トーク中はステージ袖に控えていたDJ JINとMummy-Dが登場し、スタジオ・セットがはけたステージで実際に“プリズナー No.1,2,3”を披露する、という趣向だ。ここで浮彫りになったのは、彼らの楽曲に流れる濃密なドラマ性。ただでさえストーリーテリングなリリックが、生解説を聞いた後だとよりエモーショナルな情景を立ち上らせているように思えて、おもしろかった。
その後も再び組まれたスタジオ・セットの中では趣向を凝らしたコーナーのめじろ押し。DJ JINと音楽ライターの高橋芳明が、日本語ラップ独特の表現に着目して、Go Forcemen、キエるマキュウ、時雨らのリリックを、ツッコミを入れながら紹介したり(個人的にはGo Forcemenの《膝つたうションベン》というリリックがツボだった)、Mummy-Dと番組内のコーナー【ミューズのぼんやり情報部】の主である漫画家のしまおまほが、この10年間で撮影したそれぞれの秘蔵写真を披露しておもしろ度を競い合ったりと、スクリーンを効果的に用いた企画で、フロアを爆笑の渦へと巻き込んでいく。1部すべてを終えた時点で、20:45過ぎ。2時間弱で、プレイした曲は3曲のみ。にもかかわらず、立ちっぱなしでトークに耳を傾けるお客さんをまったく飽きさせないところはさすが。
「今回は本当に自信作ができました。曲と曲の整合性がキッチリと取れたストーリー性のあるアルバムというか。もちろん『マニフェスト』もそういうアルバムだったんだけど、今『マニフェスト』を聴くとちょっと散漫に思えるくらい、すごくビシッと締まったコンセプチュアルなものができました」
ライブ中盤で宇多丸はこう語った。その発言がすんなり納得できるほど、今夜プレイされた新曲はどれもが確かな手ごたえを感じさせるものだった。「輝いて!」というリリックが矢継ぎ早に放たれた“Walik This Way”しかり、トライバルなビートに乗ってダークな熱狂空間が築かれた“ほとんどビョーキ”しかり。『POP LIFE』の楽曲は、どれもが聴く者の感情を底から突き上げるような切実さに満ちている。もちろん、かつての楽曲に切実さがなかったわけではない。シリアスなメッセージをヘヴィーなリリックとビートに乗せて放つスタイルも、ライムスターの場合、今にはじまったことではないけれど、その向かうべきベクトルがグーッと定まり、よりダイレクトに聴く者の胸を打つものになっている気がしたのだ。ありのままの現実を映したリリックと、音数を抑えたシンプルなビートで構築された楽曲には、派手さや華やかはあまりない。しかし、それらが持つ、楽曲そのもののメッセージ性でもってフロアを熱狂の渦に引きずり込んでいくさまを見ていると、ライムスターが目指す到達点がハッキリと見えるようで、なんとも頼もしかった。
セットリスト
【オープニングLIVE】
1.ラストヴァース
【ザ・シネマハスラー】
2.プリズナー No.1,2,3
【日本語ラップ・リリック大行進】
3.BIG MOUTH & 2
【2部LIVE】
4.After The Last –Intro-
5.そしてまた歌い出す
6.Just Do It!
7.Hands
8.POP LIFE
9.Walk This Way
10.ほとんどビョーキ
11.オイ!