いやもう、ほんとに驚いた。だって私の記憶が正しければ、前回来日時の彼らのパフォーマンスの危なっかしさは特筆すべきものだったはずなのだ。スカスカの音、ひっくり返るボーカル、打ち込みと生音がズレる、あろうことかあの“Paris”でドラムが走っちゃってスカ・パンクみたいなことになっている……等々。フレンドリー・ファイア―ズのソウルフルでエレガントなコズミック・ポップを再現するにはぎこちなさすぎる、DFA的リズム・パターンの妙で聞かせるファンキーなナンバーを体現するには筋力が弱すぎる、そんな現実を露わにした前回来日は『FRIENDLY FIRES』をスーパー・ヘビー・ローテーションしていた身としてはもどかしかったし、フレンドリー・ファイア―ズというバンドの本質にリーチできない「言葉足らず」な欠落を感じるものだった。
いや、むしろあの時の彼らのパフォーマンスというのは、ロック・バンド側からアプローチするディスコ・ポップという当時の潮流全体が抱えていた課題を象徴するような内容だったと言えるかもしれない。ロック・バンドがロック・バンドのフォーメーションでそれをやるからこそのメリットよりも、ロック・バンドがロック・バンドのフォーメーションでやるメリットをむしろ消して平面的なディスコに阿ってしまう瞬間のほうが多いという、あの時代のもどかしさ。対して今回のフレンドリー・ファイアーズのパフォーマンスは、そんなもどかしさを払拭して余りあるどころか、ロック・バンドとディスコ・ポップ、エレクトロの相関関係すら無効にするような別次元の内容に昇華されていた。
なんと言ってもホーン・セクションの導入、これが大正解。恐らく日本でリクルートしたのだろうサックスとトランペット奏者がオープニングの“Lovesick”から大活躍なのである。ホーンの肉感的な音色ときっちり拮抗したバンド・アンサンブルの筋力増量も手に取るように明らかだ。なんか、異様にセクシーなのだ。小さめサイズのシャツをぴっちり着込んだナードなバンドの装いと裏腹に、フェロモン大放出タイプのファンキーな幕開けだ。
もともとシンプリー・マインドみたいなブルー・アイド・ソウル風の楽曲すら書くフレンドリー・ファイアーズは、XL出身者としては破格にメジャーなポップ・ソングに対する忌避感の薄いバンドだが、そんな彼らのメジャー感がさらに洗練され、アフロファンクをやろうが打ち込み多様のエレクトロをやろうが、それこそJ-WAVEでヘビーローテーションされても違和感ないようなスムースなポップ仕様になっている。さらに凄いことに、プリンスみたいなさらなる「極」のポップ・ソングまであった。ツアーで鍛え上げられたバンドの基礎体力がフレンドリー・ファイアーズの楽曲が本来っていた可能性を遺憾なく開花させた、みたいな印象なのだ。
中盤の“Skeleton Boy”辺りの段階で既にエド(Vo)の水シャツは汗でぐっしょり、!!!のニックのダンスを更に髭ダンス方向に転ばせたみたいな独特のダンスはさらに変態っぷりを加速させている。この夜はオーディエンスの熱気も最高だった。縦ノリ横ユレ自由自在のオーディエンスで、新曲に対する反応もピカイチ。これにはステージ上の彼らも感動しきりだったみたいで、「ユー・アー・ソー・グレイト!サンキュー・トーキョー!サンキュー・シブヤ!」とエドは大絶叫(や、ほんとはシブヤじゃなくてダイカンヤマなんですけどね)。
<セットリスト>
Lovesick
Blue Cassette
True Love
On Board
Show Me Lights
Chimes
White Diamonds
Hurting
Jump In Pool
Pull Me Back To Earth
<encore>
Running away
Kiss of Life