震災の影響による4月1日両国国技館の中止と共に発表された、仙台をファイナルとする全8本のフリー・ライブ・ツアー。ただ中止にするだけなのはちょっとなんかあれだ、代わりになんかやんなきゃ収まりがつかない、という、メンバーもしくはスタッフの気持ちから生まれたアイディアだと思われます。当初ツアー・ファイナルは、「仙台で行う予定です」とだけアナウンスされていたが、後日、6月29日(水)仙台CLUB JUNK BOXに決まったことが発表になりました。なお、私、昨日ブログで「この8本のうち東京は3本」と書いたところ、twitterで「違います、2本です」とつっこまれたし、このクアトロのMCでメンバーも「東京は2本」と言ってたけど、つまり私は川崎クラブチッタも東京にカウントして「3本」と書いた、ということです。確かに東京じゃないっちゃないけど。
で。これ、震災後のこの状況で何をやるか考えた結果として、フリー・ライブでツアーをやることを決めたわけですよね。で、フリーなのか! というところに注目が集まりがちだし、そうなるのもわかるが、まずこの知らせをきいて、私が思ったのは、
かまってちゃん、ツアーやれんの?
ということでした。
そう。東名阪3本だけとかはあるけど、北は北海道から南は福岡まで、みたいな、いわゆる本格的なツアーをやるの、このバンド、これが初めてなのだ。なんでこれまでやらなかったのか。言うまでもありません。最後までちゃんとできるかどうかわからない、だからやらない、という判断を、スタッフが下していたからだと思う。途中でケンカするとか。ケガするとか。メンタル的にライブができない状態になるとか。あるいは、『劇場版神聖かまってちゃん』のストーリーそのままに、の子が行方不明になるとか。そもそも、そういう危険性がてんこもりなバンドなので、フリー・ライブ云々以前に、「ええっ? ツアーやるんだ?」ということに、まずびっくりしたのでした。まあ、だからこそ、8本中東京(川崎クラブチッタ含む)が3本とか、週に1本ずつで丸2ヵ月、2日連続のライブはなし、みたいな、変則的な日程の組み方にしているんだと思うが。
で、18日月曜の大阪心斎橋クラブクアトロに続く2本目が、この日の渋谷クラブクアトロ。例によってUSTREAM生配信あり。ただ、それを映すスクリーンが、ステージ後方ではなくフロア右側にあって、私、フロア右側最後方でライブを観たので、スクリーンに何が映っていたのか、まったくわかりませんでしたが。
そして。昨日、ライブが終わった時、すぐブログにも書きましたが、とにかくびっくりしたライブだった。19時にきっちり始まって終わったの21時20分すぎ、やった曲は21曲。途中、はずみでやった、そして途中で終わった、セッションみたいな曲もカウントすると22曲。2時間半弱で22曲。
どうよ。まるでロック・バンドのライブみたいじゃないか。まずステージに出てきて、1曲目をやる前にいきなりぐだぐだしゃべり、5分くらい経ってからようやっと1曲目をやり、終わったらまたぐだぐだしゃべり、適当に次の曲を決めて1曲やり、終わったらまたぐだぐだとしゃべり……というふうに、トロットロライブをやるバンド、それが神聖かまってちゃんでしょう。で、そのぐだぐだなしゃべりの合間に、もめたり、言い合いになったり、いきなりメンバーにむちゃぶりしたり、むちゃぶりされたり、誰かがケガしたり、誰かががマジギレしてステージからいなくなったり(主にの子)、誰かがトイレでステージからいなくなったり(主にみさこ)、ケンカしたり、マジで殴り合いになったり、みさこがmonoにものすごいビンタを食らわせたり、というような、アクシデントとかハプニングとかトラブルが、お弁当のごはんとごはんの間に敷き詰められた海苔のように幾重にもはさまっている、それがかまってちゃんでしょう。
というライブではなかったのだ。とにかく、音楽が中心。曲が中心。2曲続けてやる、ということはさすがになかったが、1曲やるごとの合間のしゃべり、ほかのバンドに比べれば長いけど、かまってちゃんとしては記録的なくらいコンパクト。しかも、そうやってライブをきびきび進める役割を担っているのが、の子なのだ。みさこやmonoがぐだぐだしゃべってるのをさえぎって、「次の曲にいきましょう」って曲を決めてやりはじめる、という、爆笑問題田中のような、くりいむしちゅー上田のような役割を、の子がやっている。
たとえば、5曲目“白いたまご”で、このツアーにゲスト・プレイヤーで参加している、バイオリニストの成井幹子が登場した時、フロアから「かわいー!」と声がとび、それに対してみさこが「超かわいいけど、成海さんはおまえらのもんじゃねえんだよ、バカ野郎!」とかわめいている時も、の子が「まあ、とりあえずいきましょう」とさえぎって曲に入る、とか。
『アメトーーク』の「活舌悪い芸人」に加わっても相当上位に、諸見里の次くらいにつけられそうなしゃべりを何度もくり出してフロアから失笑を浴び、みさこに「何言ってんのかほんっとにわかんない」と言い放たれ、の子が曲に入ろうとすると打ち込みシンセの設定ミスで何度もそれを妨げたmono。何かっちゅうとあのやたら通る声で……ほら、飲み屋で隣の座敷で学生とか若いサラリーマンのグループが騒いでてうるさいなあ、って時、そこにひとり女の子の声が混じってると、そのうるささ、5倍くらいになるじゃないですか。ああいう感じの声で脈絡のないことを言っては、場の流れを止めるみさこ。この2人が「壊し担当」で、の子は「建設担当」だったのだ。あ、途中でツルギさん(マネージャー)に耳打ちされて、「残念なお知らせです。あと2曲で終わりです」と告知したりしていたちばぎんも「建設」側か。にしても、ほんのちょっと前まで、3人が「壊し」で、「建設」はちばぎんだけだったのに。
いや、もちろんの子も、突然脈絡のないことを言い始めたり、いきなり暴言を吐いたりはしていた。出てくるなり「映画観た?」ときき、フロアからの「観たー!」って声に、「観た? 金もったいない」と返したり。1曲目に“いくつになったら”をやり、2曲目に“怒鳴るゆめ”を歌う前に、「みなさん、僕はイヤなことがいっぱいあったんで、僕が歌います。おまえらには歌いません」と言ったり。これだけの尺のライブをやるには、自分には体力がないことをやたらアピールしていて、5曲目“白いたまご”と6曲目にぺんてる”の間に、「時間長えんだからさ。俺もう、1回体育座りしたい」とかこぼしたり。9曲目“さわやかな朝”をやる前に、なんかハゲてるとかハゲてないとかいう話題になり、フロアからの「デコ見せてー!」という声に応えてデコを見せ、そのさまが大河ドラマに出てるナントカ(よくききとれなかった。「せたそうじろう」というふうにきこえたけど、今NHKのサイトを見たところ、それらしき名前の人は発見できませんでした)に似てるとかで、「武士―、俺は武士―」と歌い始め、3人がアドリブでそれに演奏をつけたり。というようなことはあったんだけど、基本、どれも、これまでよりずっとコンパクトだった。
なお、monoのキーボードのところに、曲のリストがあって、1曲やるたびに、彼はその曲名を塗りつぶしていた。後半、の子が「このライブ、セクションを決めてある」と発言、ちばぎん、「セクションっていっても、前半の曲と中盤の曲と後半の曲があって、今やっと前半が終わった。これ、絶対全部やんない」と補足してました。例によって曲順は前もって決まっておらず、の子が「次はこれ」って言った曲をやる、という基本は変わらないんだけど、その中でもできるだけ多くの曲をやろう、という方針だったようです。
なんでか。ただ、いっぱいやりたかったからだ。なんでいっぱいやりたかったのか。曲をやることが、お客さんに求められているからだ。で、その求められていることに応えることが、楽しいし、うれしいし、幸せだからだ。というふうに、の子が、本気で感じ始めているからだ、ということがわかるライブだったのだ。
それ、普通のことじゃん。と言われれば、まったくもってそうなんだけど、かまってちゃんだけに、それがなんかすごく新鮮で、そして感動的な光景に映りました、私には。
アンコールは2回。1回めは“天使じゃ地上じゃちっそく死”“ロックンロールは鳴り止まないっ”。2回目は、“23才の夏休み”“あるてぃめっとレイザー!”“夕方のピアノ”でした。“夕方のピアノ”の「死ねー! 佐藤―!」の大合唱を巻き起こしたの子、曲の最後でギターを床に投げつけ、絶叫。フロントの柵に足をかけて身をのり出し、ツルギさんに支えられつつものすごいエビゾリポーズをキメるなど、暴れ回った結果、足をケガしたらしく、「カプセルホイホイ、『ドラゴンボール』のカプセルホイホイで、車出してください、ツルギさん。ねんざ」と言う。車で病院に連れていってくれ、ということだったようです。で、「僕は痛いけど、今日のライブはとってもよかったです」と言い、「ありがとうございました! また来てください!」と、渾身の力をふりしぼって絶叫、フロアはそれに応えて大声援を送り、ライブは終わりました。
はたしてこのままのモードでツアーは続くのか。それとも途中で破綻するのか。あるいは、このツアーはこのモードでやりきって、次で戻る、もしくはまた新たな別のモードに入るのか。いずれにしても目が離せません。そうか、「目が離せない」って、こういう時に使うのか。と、今、書いてから思いました。
ただ、の子、ほんとにマジで、そういう感じだった。「音楽でコミュニケーションができることのすばらしさ」を全身でかみしめているというか。そういえば、“さわやかな朝”をやる前に、ポツッと、「いい感じだよね、今日。みなさんのおかげです」とも言っていた。あれもよかった、なんか。お客さんも、うれしそうに声援で返していた。
ただ、その言葉に続けて放たれた、monoの「とんねるずのみなさんのおかげです」というひとことは、ききとりづらさとタイミングの悪さゆえに、メンバーからも、フロアからも、誰からも拾われずに、そのまま空中に消えていきました。(兵庫慎司)
セットリスト
1. いくつになったら
2. 怒鳴るゆめ
3. ゆーれいみマン
4. レッツゴー武道館っ!☆
5. 白いたまご
6. ぺんてる
7. ベイビーレイニーデイリー
8. Os-宇宙人
9. さわやかな朝
10. 美ちなる方へ
11. 夜空の虫とどこまでも
12. ねこラジ
13. こたつから眺める世界地図
14. 黒いたまご
15. いかれたNEET
16. ちりとり
アンコール1
17. 天使じゃ地上じゃちっそく死
18. ロックンロールは鳴り止まないっ
アンコール2
19. 23才の夏休み
20. あるてぃめっとレイザー!
21. 夕方のピアノ