tacica@赤坂BLITZ

tacica@赤坂BLITZ - pic by 鈴木万祐子pic by 鈴木万祐子
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昨年、ドラマー坂井の急病によって予定されていたツアーが中止になり、彼の治療期間中バンド活動を休止していたtacica。同年9月に坂井は無事手術を終え退院し、その後レコーディング活動を再開。今年3月には復帰作となったシングル『命の更新』を発売した。しかし、その直後に予定されていた復帰記念ライブは震災の影響で中止となってしまう。そんなバンドにとって辛いストーリーを経て行われた本日の赤坂BLITZでのライブは東京では実に約1年5ヶ月ぶり。ファンとしては待ちに待ったライブだ。『ワンマンTOUR 2011 “アリゲーターは眠らない!!!!!”』と題し、4月に発売されたニューアルバム『sheeptown ALASCA』を引っ提げ、1年越しのツアーとして全国5都市を回ってきた彼らだが、今日のライブは3人で演奏することの素晴らしさと、それをこれからも続けていくことの固い意志が感じられる感動的なライブだった。

坂井の「ワン、ツー」という力強いカウントで始まった“HERO”からして、聴き手としてはもう涙腺が緩んでしまう。3人が出した音の爆発力は以前よりも圧倒的に増幅していた。それは、「成長」という類のものとは明らかに違う、活動休止前後での彼らの中の精神性の違いから生まれた凄みのようなものを感じた。積極的にステージの前へ飛び出していきオーディエンスを煽っていくベースの小西も、より強く感情をこめて歌う猪狩も、今この3人で音を出していることの奇跡を心に感じながら演奏しているようだった。「ただいま。みんな元気だった?」という猪狩のMC第一声に心から「おかえり」と言ってあげたくなるような温かい空気が会場に流れる。

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そして、なんと言ってもニューアルバム収録楽曲のライブでの響きが本当に鮮烈だった。星のように煌くライトが点滅する中でプレイされた“ドラマチック生命体”の魂が覚醒していくような感覚も、“命の更新”の血湧き肉躍るような躍動感も、リアリティをもって聴く者の魂に深く刺さっていく。「去年俊君が身体を壊してしまって、やっとライブができる状態になりました。バンドが一番しんどかった時は、こうやってみんなの前で演奏する想像ができず、なかなか難しい時期が続いていて。新しくできたアルバムの曲をみんなの前で演奏できるのが不思議なのと、すごく嬉しいのが混ざってる。だけど、嬉しいのが勝ってる」と3人で再び演奏できることの喜びを素直に言葉にした猪狩の真摯さが、こうして演奏や歌や一つ一つの言葉に反映されていることが、オーディエンスにとっても嬉しいのだろう。“ハイライト”の美しくも儚いメロディラインや“その日、一日”の穏やかな包容力を持つサウンドを一音たりとも聴き逃すまいという気持ちで静かに受け止めている姿がとても印象的だった。

猪狩が「新しいアルバムのツアーだけど、曲は全部大事なので、前のアルバムに入っている曲もやります」と言って、“人間1/2”のイントロのストロークを勢いよくかき鳴らすと、フロアからは無数の拳が突き上がり、溢れんばかりの熱量が場内にたちこめる。ブレイク部分で挿入された坂井のソロから再び疾走していくプレイには会場が沸きあがった。続けざまに演奏された“黄色いカラス”でもその勢いはとどまることなくオーディエンスは小刻みにジャンプしながら拳を突き上げ、坂井の4つ打ちのバスドラムのリズムに促されるように“コオロギ”が始まれば、ミラーボールの明かりの下で踊りまくる。よりクリアでタフになったバンド・アンサンブルによって旧曲も見違えるほど逞しく聞こえた。そして、tacicaのライブの一つの見所といってもいい、坂井による恒例のグッズ紹介もこれまでと変わらないテンションで行われたのだが、猪狩の「また、こうやって俊君がグッズ紹介ができてよかったよね。大変だったんだから、マジで」という何気ない言葉に、その苦難の重みを感じる。

tacica@赤坂BLITZ - pic by 鈴木万祐子pic by 鈴木万祐子
生と死の狭間を行ったり来たりするような中でも、脈打つ鼓動や、深い呼吸の息遣いが確かに聞こえてくるような生命力に溢れるtacicaのステージ。透明度の高いサウンドの中に息衝いた生々しい感情はこれまでにないくらい大きな力となって、オーディエンスの心を揺さぶっていた。猪狩は最後にこう語った。「東京で最後にライブをやったのは去年の2月くらいの新代田FEVERのイベントで、1本1本のライブを適当にやっていたわけではないけど、あのときのライブが最後のライブになってしまったことにすごく悔いが残っていて。悔いが残ってしまったということは自分たちの中で1本のライブの重さに軽い部分があったんじゃないかと思って。予想とか想定では実際の体験はできなくて、起こってしまわないと事の重要さはリアルに体験できないから。とにかく俺らは少し変わりました」。言葉を選びながら慎重に心情を吐露し、ラストに“永久列車”をプレイ。3人で演奏できることのこの上ない歓喜が大きな光となってオーディエンスを導き、場内は大合唱の歌声で溢れかえった。

tacica@赤坂BLITZ - pic by 佐藤祐介pic by 佐藤祐介
アンコールの最後で「また3人でライブもするし、曲も作るから」と涙をこらえながら懸命に伝えた猪狩を見て、目頭が熱くなったのはきっと私だけではないはず。ラストの“アースコード”は、tacicaがこれからも3人でバンドを続けていくことの証であり、自らの居場所を照らす輝きとなって鳴り渡った。《ここからも同じように何時でも奏でる/アースコードを》と歌われるこの曲が、今日という一日を懸命に生き、そして明日へ向かうための歌としてオーディエンスを大きく勇気付けたのではないだろうか。(阿部英理子)

セットリスト
1.HERO
2.人鳥哀歌
3.ドラマチック生命体
4.命の更新
5.JADITE
6.ハイライト
7.その日、一日。
8.アリゲーター
9.人間1/2
10.黄色いカラス
11.コオロギ
12.贅沢な蠟燭
13.掟と礎
14.タイル
15.神様の椅子
16.永久列車
アンコール
1.不死身のうた
2.アースコード
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