素晴らしいライブだった。夏フェス・シーズン只中の単独来日ということもあって、ちょっとお客さんは少なめではあったが、それでもこの日デヴェンドラ・バンハートを観た人は全員、この一夜が今夏屈指のライブ・パフォーマンスだったと認めることになったんじゃないだろうか。
昨年春以来のデヴェンドラ・バンハートの来日公演は、リキッドルーム一夜限りのスペシャルな公演である。アルバムも2009年の『What Will We Be』が現時点での最新作なので、新曲を引っ提げてのプロモーション・ギグといったものでもない。そんなフラットなタイミングで真夏の東京にふらっとやって来てくれたのが今回のデヴェンドラだったのである。デベ様の本日の装いはカラフルなアロハにタイトなブラック・ジーンズ、そしてトレードマークだったキリスト風のロン毛はばっさり切ってなんだか若返った印象すら受ける。
バンドはデヴェンドラを含めての5人編成で、最新作『What Will We Be』からの楽曲を中心に、オールキャリアのセットリストが組まれていた。この日のセットは大きく分けて3部構成になっていて、まずは前半戦、カラフルでサイケデリックな昂揚系のナンバーが立て続けにドロップされ、場内を一気に温めていく。
フリー・フォークの旗手として一躍脚光を浴びたデヴェンドラだが、実際の彼の音楽性は全くフォークの枠に収まるものではない。“Angelika”、“Foolin”といったデヴェンドラの中でも特にフリーキーなナンバーに、ライブならではのサンバ風、ボッサ風の即興まで絡まり合って、カーニバルのような空気が醸成されていく。ちなみにバンドのカウントを取り、イントロを先導するのは基本デヴェンドラのゆるい鼻歌から入るのだけれど、この人は鼻歌レベル(?)ですらそこに詩情が、物語が生まれてしまうのが凄い。
一転、“At The Hop”から始まった中盤戦はデヴェンドラの弾き語りのセクションだ。薄暗いブルーライトの中に一筋のピンスポ、その下にデヴェンドラが一人立っている。打って変ってシンプル&ミニマム、前半の桃源郷のユニティが嘘のようにデヴェンドラを筆頭に会場に集ったひとりひとりが孤独を噛みしめていく時間が続く。緩まっていた空気が徐々に引き締まり、張りつめていく。不純物が一切取り除かれたその空間で、デヴェンドラの声だけが震え、こぼれていく。それはすごく贅沢な時間だと思ったし、前半とこの中盤のコントラストにデヴェンドラの「コンポーザー」としての才能と生まれながらの「音楽体」としてのポテンシャルの両方を確認することができた。
そして後半戦、再びバンドが戻ってくる。前半の祝祭っぽいノリと比べると、この後半戦のバンド・サウンドはずっとハードでバンド・サウンド重視。「次は僕が尊敬するハルオミホソノのカバーです」と言って始まったのは“スポーツマン”。もちろんオリジナルとはかけ離れたアシッド・フォークな仕上がりで、ヴェンドラのこの日のセットにしっくりマッチしていた。
これ以降、最後までは文字通り怒涛の展開だ。ヘヴィ・サイケが渦巻き、跳ね、ひしゃぎながら進む様には、この日の前半戦と中盤戦のコントラストがすでにどうでもよくなるほどのすべてがあった。フォーク、エスノ、サイケといったジャンルの区分、ミニマム、マキシマムといった質量音量の規定はあまり意味がない。デヴェンドラ・バンハートという音楽体はしなやかにそのすべてを取り込んでいくのだろう。(粉川しの)
デヴェンドラ・バンハート @ 恵比寿リキッドルーム
2011.08.04