『Kings vol.3』 @ 新木場スタジオコースト

The Brixton Academy、QUATTRO、the telephones、PILLS EMPIRE、THE BAWDIES、そしてDJチームのFREE THROWが一同に会し、ロック・シーンに一石を投じるべく共闘、或いは切磋琢磨するイベント『Kings』。08年の代官山UNIT、09年の恵比寿リキッドルームと続いて、今年5月には新代田FEVERでの『Kings Jr.』も急遽行われたが、待望の第3回開催である。『Kings』の基本理念どおりというべきか、それぞれがここ数年でメキメキと頭角を現してきたグループでもあるだけに、新木場スタジオコーストに集まったオーディエンスたちの期待感も並々ならぬものがある。若いロック・ファンにとって、もはや『Kings』の開催は、最も身近な伝説として語られるべきものなのかも知れない。それでは以下ライブレポート、出演順にショート・レポートという形で進めていきたい。

『Kings vol.3』 @ 新木場スタジオコースト
■PILLS EMPIRE
今回のトップを張るのはPILLS EMPIREだ。Yuto(Dr.)の打ち鳴らす硬質なボディ・ビートがびりびりと聴く者の皮膚を震わせ、Naoya(Vo./G.)がステージ・パフォーマンスの象徴と言える漆黒の旗を振りかざしながら姿を現す。オープニング・ナンバーの“Eins,Zwei,Drei”を繰り出しながら彼は、早々にフロアへと飛び込んでしまった。“Suicide Candy”の、まるで電動工具のような騒音を撒き散らすKokubuのギター・サウンドといい、彼らのダーク・ウェーヴ路線の不穏で攻撃的なバンド・アンサンブルは、『Kings』のシーンへの刺客としての役割を最も顕著に体現していると言えるだろう。汚れた愛と夢を燃やし尽くすように、Naoyaはときに一筋の光明のように差し込むシンセ・フレーズを全身に浴びながら「We are PILLS EMPIRE! We are Kings!」「何かを起こしてくれみんな!」と扇動者そのものと化してステージ上で転げ、のたうちまわる。挙句の果てにはラスト・ナンバー“Kubrick Syndicate”でステージからPAブースまでのフロアを縦断し、PAブースの柵の上に乗り上がってまでオーディエンスを焚き付ける。09年にリリースされたアルバム『Mirrored Flag』からの楽曲が中心で新曲は控え目だったものの、その兵器のような音塊と体を張ったパフォーマンスには鮮烈なメッセージが漲っていた。

『Kings vol.3』 @ 新木場スタジオコースト
■QUATTRO
ステージを正面に見て左に90°向いたエリアにはDJブースが設けられており、つまり深夜のageHaスタイルでFREE THROWが洋邦のロック・ナンバーでライブ間を繋ぐ。笑顔でひたすら踊り続けるオーディエンスも少なくない。さて、ライブ2番手はQUATTROの登場だ。5ピースのテクニカルな絡み合いでダンス・ロック・ナンバー“Magic J”から演奏がスタートする。のだが、潮田雄一(G.)の機材トラブルか、ギターが鳴らない。それでも4人でプレイし切ってしまったのは見事だったが、「1曲目から丸々弾かなかった人がいるんだけど、Tシャツが売り切れたらしいんですよ、『Kings』の。物販を担当したのは、俺!」と岩本岳士(Vo./G.)が語って喝采を浴びる。その後もブルージーであったり心地よいサーフ・サウンド風であったりと多彩で奥行きのあるポップな楽曲群を繰り出し続ける。ルーツへの思い入れをバンドに持ち込み、それぞれがきっちり個性を発揮する、というスタイルは『Kings』出演バンドに共通したスタイルだけれど、中でもQUATTROは無節操なまでに多岐に渡るルーツをガッチリとしたアレンジのポップ・サウンドに落とし込む、という点でまるでカメレオンのようなバンドだ。潮田は不運にも最後までギターの音に納得がいかないようだったが、7インチでリリースした最新シングル収録の“Oh Suzanna”を1フレーズ歌って傾れ込む“Question#7”ではバンジョーを奏でて面目躍如。ラストの爆裂R&Bナンバー“Hey”までを駆け抜けてみせた。なお、パンツ一丁で力強いプレイを見せてくれていたドラマーのカディオは、この日がちょうど20歳の誕生日。多くの人々の祝福を受けていた。

『Kings vol.3』 @ 新木場スタジオコースト
■THE BAWDIES
スタジオコーストの大型ミラーボールが回り、ブルーグレーのスーツ姿でステージに登場したTHE BAWDIES。“IT’S TOO LATE”からのスタートは夏フェスでもお馴染みだが、「俺たちが、THE BAWDIESだあぁぁぁぁぁ! に、煮えたぎる! 楽しみましょう今日はね!」と告げるROYや、ギターを掻きむしりつつやたらめったらステップ&ジャンプをくり返しているJIMの姿からも明らかなように、『Kings』への想いが開けっぴろげになった気合いの込められたパフォーマンスだ。「迷うな! そのまま“KEEP ON ROCKIN’”!」とシンガロングを求め、「アーティストが『Kings』じゃないですよ! ここにいるみんなが『Kings』だと何度も言ってます!」とバンド演奏をストップしてオーディエンスのハンド・クラップだけをフロアに響かせる。なぜこの、おらが街のパーティ・バンドのような佇まいの兄ちゃんたちが、日本のヒーローと成り得たのか。それは、ヒーローが不在だったからである。歴史が作り上げた真っ直ぐなロックンロールというエネルギー効率の高いエンジンで、痛みや苦悩や絶望を燃焼させ大きな歓喜を生み出す、そういうバンドがいなかったからである。ロックンロールにとって痛みや苦悩や絶望は廃棄物ではなく、燃料だ。“A NEW DAY IS COMIN’”で、ROYは言った。「日本にこれだけのエネルギーがあるんだって、世界に見せつけてやりましょうよ! 楽しんでるってことがどれだけ重要なことか!」と。最後にTAXMANが「僕ら11月に、夢の舞台、武道館でやるんで、皆さん遊びに来てください!」と告げ、彼らはステージから去っていった。

『Kings vol.3』 @ 新木場スタジオコースト
■The Brixton Academy
さて、メンバー全員が黒スーツで登場、でもこちらはノータイだったり、早々にジャケットを脱ぎ捨てるとサスペンダー姿だったりするところがとても彼ららしい、TBAのパフォーマンスが“So Shy”からスタートだ。80年代ニュー・ロマンティックス直系の、耽美的で湿り気を帯びた、そして強い美意識に裏打ちされたシンセ・ポップが響き渡る。「盛り上がっていきましょう」と言われても、正直言ってこの音楽性では目に見えるような盛り上がり方を見せるのは不可能だ。どっぷりと浸って、ゆらゆらと、オーディエンスがまちまちに踊る、これが最高。これまた80’sマナーな幾何学模様のCGがステージ上に映し出され、絶妙に照明が絞られていることも「浸り」を加速させてくれる。この日のTBAは、物販で彼らの作品を購入した来場者に対し、9月リリースの新作のダイジェストCDを進呈する、という企画も行っていて、ステージではその新作からの楽曲“Youth”も披露された。くぐもった毎日をメロディとともに進んでゆく、そんな印象のナンバーだ。Yoshimura(V./G,)やYone(G./Syn.)はステージ上で遠慮がちにシャンパンを高く掲げ、それを開封してラッパ飲みし勢いを付けるという退廃的で恍惚としたパーティ気質を見せつける一幕もあり、多角的なロックの楽しみ方を提案する『Kings』の一側面を見事に演出してみせていた。新作、とても楽しみである。

『Kings vol.3』 @ 新木場スタジオコースト
『Kings vol.3』 @ 新木場スタジオコースト
■the telephones
FREE THROWが最後のDJピーク・タイムを作り上げたのち、いよいよ今回のトリを務めるthe telephonesが登場。ノブこと岡本伸明は肩がはだけてしまうシャツでいきなりステージを右へ左へと走り回っている。“Monkey Discooooooo”からの、まさに横綱相撲と呼ぶべき狂騒のエレクトロ・ダンス・ロックがスタートした。長丁場であるにもかかわらずあっという間に渦を描き出してシンガロングが広がるフロア。これだけハイテンションのサウンドを繰り出しているのに、テレフォンズの演奏は不思議なほど揺るぎない安定感を誇っている。以前、ノブの四肢が高速で飛び交うダンスを「あれだけ動いてどこにもぶつからないのが凄い」と評した人がいたが、つまりステージ上のノブはあのスピードの中を普通に生きているのであって、テレフォンズはあのテンションを普通に生きているバンドなのである。石毛輝は、ニューヨークに渡って制作したこちらも9月リリースの新作『ROCK KINGDOM』を「最強のアルバムが出来た。あからさまに『Kings』に引っ掛けたタイトルみたいだけど」と語り、その新作に収録された“YEAH YEAH YEAH”を披露する。タメの効いたビートが大きな爆発力を約束する、真に王様のロック・グルーヴと呼ぶべき貫禄のナンバーであった。ノブはここで赤ラメ・シャツの人間ミラーボールと化してオーディエンスの火に油を注ぐ。“HABANERO”の後には石毛が「みんなでシーンを変えるための『Kings』だろ!?」と『Kings』コールを巻き起こして“I Hate Discooooooo”だ。「この時代に生まれてきて良かったです。ありがとう!」と最後には感無量の様子であった。

沸き上がるアンコールの催促にテレフォンズが再度登場。「俺たちが知らないだけで、他にもいいバンドがたくさんいると思うから、みんなで探していい時代にしましょう」と石毛が語る。折角感動的に締めているところに、脈絡なくいまだパンツ一丁のカディオ(QUATTRO)が登場し、なし崩し的に“Love & DISCO”がスタート。他の出演者全員もステージに姿を見せて賑々しいフィナーレを迎えた。そしてフロア一面のオーディエンスとともに記念撮影だ。石毛は12月のテレフォンズ・さいたまスーパーアリーナ公演を告知したときに「『Kings』ももっと大きなところでやりたい」と語っていたが、回を重ねるたびに規模を拡大してゆくこの共闘イベントは改めて凄い。第4回開催の決定を、今から心待ちにしていたいと思う。(小池宏和)
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