mudy on the 昨晩×ストレイテナー @ 渋谷クラブクアトロ

「今日はリリース・パーティーなんだよね? 楽屋に進行表が貼ってあって、『mudy on the 昨晩リリース・パーティー』って書いてあったんだけど、mudyにいちばん似合わない単語だよね(笑)。今日はmudy on the 昨晩のリリース・パーティーへようこそ!」(ナカヤマシンペイ) 「レコ発おめでとう! 俺たちもレコ発だからね(笑)」(ホリエアツシ)と先輩たちがエールを贈れば、「リリース・パーティーへようこそ! 確かにね、『パーティー』は似合わん(笑)。『なんでお前らテナーとやっとんねん』と思ってる人もいるかもしれないけど……いないか? やっとこさアルバムが完成しまして、これは自信作だと思ってひなっちに夜(オファーの)電話をしたら、次の日の朝『いいよ』って返ってきて」(フルサワヒロカズ)とmudy on the 昨晩が応える……インスト・ロックで狂騒も歓喜も描き上げる稀代の5人組=mudy on the 昨晩の2ndフルアルバム『mudy in squall』(8月10日発売)の発売記念ライブのゲストとして駆けつけたのは、その1週間前に7枚目のフルアルバム『STRAIGHTENER』をリリースしたばかりのストレイテナー! 鋭利な音の切っ先と果てしなき音楽的自由度を誇るバンド同士の競演は、もう全曲決定的瞬間とでも言うべきスリリングでエキサイティングな時間を生み出していた。

mudy on the 昨晩×ストレイテナー @ 渋谷クラブクアトロ
mudy on the 昨晩×ストレイテナー @ 渋谷クラブクアトロ
mudy on the 昨晩×ストレイテナー @ 渋谷クラブクアトロ - pics by 橋本塁(SOUND SHOOTER)pics by 橋本塁(SOUND SHOOTER)
まずはストレイテナー。いきなり新作『ストレイテナー』のオープニング・ナンバー“A LONG WAY TO NOWHERE”で幕を開け、“VANDALISM”“VANISH”とさらに最新モードの楽曲を畳み掛けていく。その1つ1つのギター・サウンドには金属の切断面のようなギラリとした輝度と剛性が備わっているし、シンペイ&ひなっちこと日向秀和のビートは空気丸ごと揺さぶるほどの躍動感に満ちている。が、使い方によっては凶器のような破壊力と、気を抜いたら誰彼構わず振り落とすほどの爆発力を持ち得るテクスチャーでもって、鮮烈で風通しのいいロックンロールを鳴らしていくのが「最新型」のストレイテナーだ。かつての「荒ぶる魂で世界の最果てを彷徨う音の冒険」としてではなく、聴く者1人1人を自然に、ダイレクトに突き動かしていく鼓動としてのロック・ミュージックで、クアトロの温度をぐいぐいと上げてみせる。

「mudy on the 昨晩とガチンコで試合しに来ましたストレイテナーです。よろしくお願いします!」というホリエの挨拶に続いて、セルフカバー・アルバム『STOUT』から“A SONG RUNS THROUGH THE WORLD”“BIRTHDAY”。「大山純&ホリエのWギターで旧曲を再構築」というよりは、「あるべき音を感性のままに掘り当て、フレーズとして輝きを放つまで磨き鍛え上げた」とでも言うべき大山のギター・プレイは、どこまでもしなやかでスリリングだ。さらに、ひなっちのベースが光るハイブリッド・ファンク“DONKIE BOOGIE DODO”、ギター・ロックとハウスの接点から荘厳な風景を立ち上らせるような“Man-like Creatures”、と前作『CREATURES』からの楽曲、そしてホリエのエレピをフィーチャーした“Lightning”(『Nexus』収録)……と、1時間足らずのセットリストの中に「今」のテナーを完全凝縮。ロック最前線を切り開き続け、日本のロック・シーンを代表する存在となった今でも、フェスだろうと対バンのステージだろうと常に自らを全力で提示してみせるテナーならではの、潔いくらいに充実した内容だった。「ストレイテナーは、9月22日、ここクアトロからツアー回ります。来てください! アルバムもね、絶対聴いてください。俺たちのほうが今日はレコ発です!」というホリエの言葉から、“羊の群れは丘を登る”のひときわ目映いメロディとギター・アンサンブルがあふれ出し、必殺ナンバー“Melodic Storm”でクアトロを揺らして最高のフィニッシュ!……かと思いきや、「渋谷クアトロの、バーサーカーに捧ぐ!」というシンペイの絶叫から“BERSERKER TUNE”(もちろん『STOUT』の超高速バージョン!)で完全燃焼! すべての音が止み、肩を組んで一礼する4人に、熱い拍手喝采が惜しみなく降り注いだ。

mudy on the 昨晩×ストレイテナー @ 渋谷クラブクアトロ
mudy on the 昨晩×ストレイテナー @ 渋谷クラブクアトロ
mudy on the 昨晩×ストレイテナー @ 渋谷クラブクアトロ - pics by 橋本塁(SOUND SHOOTER)pics by 橋本塁(SOUND SHOOTER)
そして本日のホスト=mudy on the 昨晩。気合い一閃、こちらも最新作『mudy in squall』の1曲目“PERSON! PERSON!!”でスタート! アルバムではLOSTAGE・五味岳久が歌っていたコーラス・パートをフルサワが担当し、フルサワ/森ワティフォ/桐山良太のトリプル・ギター、伊藤浩平&朴木祐貴の変幻自在なビートと絡み合うーーという極彩色のアンサンブルだけでも十二分にエモーショナルだが、決して広くはないステージをフルに使って動き回り、飛び跳ね、痙攣し、ギターを振り回すそのステージ・アクションが、音をそのまま身体表現になったようなアグレッシブさをもって、目と耳と脳裏に同時に襲いかかってくる。ヴォーカルのいないインスト・バンドであることは「制約」ではなく「武器」であり、逆に言葉や意味という「制約」から解き放たれることで音楽は無限のイマジネーションを獲得できる――ということを、シャッフル・ビートとスクエア・ビートが波のように寄せては返すロックンロール・ナンバー“BEA”、フィードバック・ノイズ越しの錯乱ニューウェーブ“パウゼ”、水でできたナイフのような質感の“ZITTA”……といった迷宮のような楽曲を次々に全身で体現しきっていく5人の姿は如実に物語っている。

もっとコアな方向性だったり、あるいはジャム・バンド的なものだったり、ダンス・ロック的な表現だったり、インスト・バンドをやるにもいろいろな可能性があるし、表現として/存在としての「わかりやすさ」を獲得するにはそのどこかに振り切ったほうがラクなはずだ。が、mudyはそのどれも捨てることなく、踊れて、熱くて、壮大で、身近で、わかりやすくて、深い森みたいに不穏で……といった音楽の魔力を全部、自分たちの音楽に叩き込もうとしてきた。5人がその卓抜したテクニックと情熱で響かせているのは、「うた」と「音源」には収まりきらないどでかい心象風景そのものだ。80年代クリムゾン的な“geller / sun / flight”の冷徹ギター・サウンドから、静寂を織り重ねた果てに真っ白にスパークする轟音へと辿り着いたような“メッセージとは”への流れは、まさにインスト・バンドだからこそ鳴らせる「言葉なきメッセージ」の結晶のような瞬間だった。終盤“ユアイへ”でのクラップの嵐! 渦巻く激情そのままに轟々と鳴り響くアンセム“YOUTH”! 最後、“mudy in squall”の轟音土砂降り状態でクアトロに圧巻の熱狂を巻き起こし……本編終了。

アンコールでは、なぜか全員でストレイテナーTシャツを着て登場したmudy on the 昨晩の5人。「歌あるとかないとか、どっちでもいいし。そんなふうに音楽聴いてないしね。大きい音出して帰ります!」と、アンコールで上気した顔で語るフルサワヒロカズの言葉が、そしてアンプに立ち上がりダイブを決め、と躍動しまくる森のエネルギーだだ漏れの姿が、何よりの闘争宣言として心地好く胸に響いた。10月からは改めて新作を引っ提げて『mudy in squall リリースツアー「ファインディング・アディ」』を回るmudy。その進化と挑戦はまだまだ止まらない!と確信させてくれるアクトだった。(高橋智樹)


[SET LIST]

■ストレイテナー
01 A LONG WAY TO NOWHERE
02 VANDALISM
03 VANISH
04 A SONG RUNS THROUGH THE WORLD
05 BIRTHDAY
06 DONKIE BOOGIE DODO
07 Man-like Creatures
08 Lightning
09 羊の群れは丘を登る
10 Melodic Storm
11 BERSERKER TUNE

■mudy on the 昨晩
01 PERSON! PERSON!!
02 BEA
03 パウゼ
04 ZITTA
05 秘密
06 geller / sun / flight
07 メッセージとは
08 Your entrails and laughter.
09 ユアイヘ
10 YOUTH
11 this squall
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