岡村靖幸 @ SHIBUYA-AX

岡村ちゃん、最高。セルフ・カバー/リコンストラクション・アルバム『エチケット』2作品を携えシーンに舞い戻って来た岡村靖幸の最新ツアーは、9/7~8の新木場スタジオコースト2デイズから始まり、9/16のZepp Osaka、9/18のZepp Nagoyaと駆け抜けて追加公演のSHIBUYA-AXに到達。いよいよ開演時間を迎え、“どぉなっちゃってんだよ”の同期ビート混じりの強力なファンク・ビートに、スーツ姿の岡村ちゃんが四肢を鋭く跳ね回らせ、忙しなく眼鏡をずり上げる。フロアからは絶叫ともつかない黄色い歓声が上がるのだった。こうでなければならない。女性ファンは澱みない「ヤスユキー!!」の声を飛ばし、男性ファンは舌打ちでもしながらステージを睨みつけるぐらいでなければならない。どちらでもない人は好きな方を選べばいい。岡村靖幸は、それぐらいカッコイイ存在でなければならない。先にスタジオコースト2日目も観させてもらったのだが、今回のツアーはまごうかたなき、岡村ちゃんの完全復活ライブなのである。

豪腕ファンク&脅威のダンス・パフォーマンスで攻め立てるかと思いきや、2曲目に意表をつく珠玉のロマンチック・ソウル・ナンバー“カルアミルク”を配置。オーディエンスの間の手を巻きながら、たっぷりとそのソウルフルで切ない歌声を届けてくれる。この対称的な序盤の2曲だけで、岡村ちゃんの復活は明らかにされてしまったようなものだった。シャイ・ガイぶりを楽曲に盛り込んで爆発力へと転嫁させる岡村節「なんというか……つまりその……Let’s go!!!」と“ア・チ・チ・チ”からはシームレスに、“Vegetable”、“聖書(バイブル)”、“Punch↑”と往年のアルバムのオープニング・チューンも交えつつ怒濤のファンキー・タイムを形成してゆく。岡村ちゃんはハンド・マイクでクルッとスピンを決め、或いは80’sマナーのディスコ風ステップを踏みながら現在の彼のバイタリティをこれでもかと見せつけるのだった。“C’mon”で更にダンスを加速させると、一時ステージを捌けて衣装チェンジに向かう。アウトロではトランペットのソロに始まる、バンドのフリーキーなジャム・セッションが繰り広げられていった。

歓声を受けながらの長いドラム・ソロをくぐり抜けると、一転して高級感漂わせるジェントルかつジャジーな演奏の中に岡村ちゃんが再登場し、呼吸も整ったところで“イケナイコトカイ”へ。オーディエンスと共にファルセットの効いたコーラスを歌い上げ、ブレイク部では足を踏み鳴らしながら圧巻のシャウトを轟かせる。アゲまくるダンスも良いけれど、“カルアミルク”と並んで歌にフォーカスした素晴らしいひとときだ。そしてフロアから届けられるハンド・クラップを浴びながら“19(nineteen)”、続いてイントロのフレーズに歓声が上がり“いじわる”と再びステージはアッパーに展開していった。スタジオコーストでは披露されなかった“モン・シロ”までが届けられて嬉しい。

『エチケット』の制作において岡村ちゃんをがっちりサポートし、ステージではマニピュレーターとして、更にはパーカッションやギターと八面六臂の活躍を見せていた白石元久が、ここでMCを務める。彼はMCもめちゃめちゃ上手い。「ツアー・ファイナル、SHIBUYA-AXです。でも、終わりはすべての始まりです。いろんなことがありました。すべて参加されたという方! おお、いらっしゃいますねえ」「FAXが届いています。今日渋谷で歌うことになっているという方、東京都北区赤羽の〈家庭教師〉さん。あ、新木場でもお便りをくださった方ですね。《みなさんと感動を分かち合いたい曲がありますので、僕といっしょにワン、ツー、スリー、ジャンプ!しませんか?》それでは今週のパワー・チューン! “あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう”!!」とステージ本編は最高潮へと向かう。実はスタジオコーストで観たとき、迂闊にもここで鳴り響いたイントロに落涙してしまった。そうそう何度も泣かされてたまるか。活力に満ちた岡村ちゃんがギターをかき鳴らしてこの曲を歌い、若いファンも、あの頃に戻って若くなっているファンも、弾けている。この素晴らしい男子ポップに続いては、女の子のために歌われる“だいすき”。「東京ベイベ! だいすきです!!」とチャーミングな岡村ちゃん爆発である。『エチケット(ピンクジャケット)』にはムード一杯の落ち着いたアレンジで収録されていてそちらも良かったが、ここではやはり賑々しく華やかにプレイされていた。

アンコールは、色気たっぷりセクシー路線の岡村ちゃんが解き放たれる。“DATE”、“祈りの季節”、“マシュマロハネムーン”とまたもや立て続けにプレイ。小指! 岡村ちゃん小指! そして凶悪なダンス・ビートに速射砲ボーカルが火を噴く“セックス”である。この流れも凄まじく、岡村ちゃんというアーティストの引き出しの多さと、それを全解放にするバイタリティに改めて驚かされてしまう。「しらいしー!!」「野太い歓声ありがとうございます。そういう声、嫌いじゃないです」とすっかり人気者の白石元久がここでバンド・メンバーを順に紹介し、最後に岡村ちゃんをオーディエンスと共にコールするのだが、「いつもなら思いっきり呼ぶところですが、今日はそーっと呼んでみましょうか。いきますよ。岡村、やすゆきぃぃぃ……」と岡村ちゃんを呼び込んで“アルファ イン”。これもスタジオコーストでは披露されなかった曲だ。すこぶるエロい。そしてこの日、個人的に最も胸に響いたナンバーはこの後の“SUPER GIRL”だった。「《本当の Dance Chance Romanceは自分しだいだぜ》みんなもそうだろ!」と、まるで岡村ちゃんは、自ら歌詞を噛み締めながら、オーディエンスに投げかけるようにしていた。

ダブルアンコール。眼鏡とネクタイで装った岡村ちゃんの、才気が迸るようなピアノ弾き語りである。サービス精神に満ちたステージをたっぷり堪能した後にこれを観れるのが嬉しい。うお、この曲なんだっけ!? 渡辺美里! 岡村ちゃん作曲の“Lovin’ You”! さらにレイ・チャールズ“わが心のジョージア”! そして切々と歌われる“友人のふり”からバンドと合流しての“どうかしてるよ”と名バラードが続く。今度はジャキジャキと一人ギターを掻きむしり、川本真琴“愛の才能”から“ターザンボーイ”と次々に楽曲を飛ばす。デビュー曲“Out of Blue”の最初のワンコーラスまでをギター一本で歌い倒し、そこでまたバンドに戻って全力のコール&レスポンスと最後の力を燃やし尽くすようなダンスを繰り広げる。凄い。しつこさ満点の投げキッスも放ちまくり、完全燃焼のステージにマイクをゴロン、と落として深く頭を下げ去っていった岡村ちゃん。彼はやった。これ以上無いまでに復活を見せつけてくれた。ゆっくり休んで欲しい。だけどまた会える日を、きっと多くの人が心待ちにしているだろう。もちろん、僕も。(小池宏和)
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