アウル・シティー @ 品川ステラボール

最新作『ALL THINGS BRIGHT AND BEATIFUL』を引っ提げての、アウル・シティーことアダム・ヤングの1年ぶり3回目の来日公演である。まず何と言っても驚かされたのが、1階のフロアはもちろん2階席までギッチギチに埋まりきったステラボールの様相だった。そりゃもちろん、デビュー・アルバム『OCEAN EYES』をアメリカで100万枚以上売ったアーティストなのだから日本でも人気があってしかるべきだし、実際昨年の渋谷AXも盛況だったし、当然と言えば当然の光景ではあるのだ。でも同時に、じゃあ日本のロック・リスナーの一体どんな層がこのアウル・シティーの音楽を聴き、彼にシンパシーを寄せているのかがいまいち見えないのも確かで、ファンの傾向性が測りづらい点もこのアウル・シティーというプロジェクトの面白さだ。

ざっと場内を見渡してみると、どうやらベースとなっているファンはエモ・リスナーのようだ(皆々の着用しているバンドTから推測)。そこにもうちょい文系寄りのインディ・ロック・ファンもいれば、逆に普段はレディー・ガガを聴いてそうなポップ・ミュージック・ファンもいるという、つまりは広義の意味で「洋楽リスナー」と呼ぶべき層が集っている会場。物販ではアウル(OWL)・シティーだけにフクロウのぬいぐるみまで売られており、しかもそれがなかなか可愛かったりして、ますます不思議な気分になる。アウル・シティーはオルタナティヴなのかメインストリームなのか。外向きなのか内向きなのか。ベッドルーム・ミュージックなのかアリーナ・ロックなのか――昨夜のライブとは、そんな二元論では語れない奇妙な音楽にして奇妙な自意識の塊こそがアウル・シティーなのだと証明したライブではなかったか。

オープニングの“The Real World”で、暗闇のステージ上に3人のドラムス&パーカッションと1人のキーボード、そしてバイオリン&チェロの計6人が登場する。ぱっとライトが灯ると、ドラムセットに座っていた彼こそがアダム・ヤングだとわかる。初っ端からベースもギターも不在なその編成にも象徴的だが、アウル・シティーの音楽は俗に「シンセ・エモ」と形容されるエレクトロニカ寄りのロックであり、いわゆるギター・ロック・バンドのフォーマットが絶対ではないそのユニークなライブ編成には、究極の宅録くんとしてキャリアをスタートさせた彼のバックグラウンドが垣間見える。2曲目は“Tip Of The Iceberg”、ここでアダムはギターをかき鳴らしてのシンガロング・スタイルを見せる。女声コーラスとも相まってキュートなエモ・ポップな趣のナンバーで、こういうフレンドリーな歌モノの楽しさもアウル・シティーの大きな魅力のひとつだ。

デビュー当時は対人恐怖症かと思うほどシャイな引き篭り体質で知られた彼だが、この夜はとにかくハイテンションでとにかくよく喋る。微妙にピチピチした白シャツにこれまた微妙にムチムチしたデニムといういかにもなギーク・ヒーローの装いで、「アメイジング!」と「オーサム!」を連発しながら、時にギターを弾き、時にタムをブチ叩き、時にエレピアノに向かい、時にスタンドマイクで朗々と歌い上げる。そんなアダムの立ち位置の多様さに同調するかのように、曲調もナンバーによってくるくると表情を変えていく。前述の宅録くんのバックグラウンドが嘘のようにオープンな歌、オーディエンスのコール&レスポンスを求めるエモ・アンセムがあるかと思えば、モノトーンなシーケンスの微妙なピッチの変遷に心血注ぎ切るかのようなエレクトロでエクスペリメンタルな瞬間もある。それはコミュニケーションとディス・コミュニケーションが順繰りに入れ替わるような不思議なムードであり、100万枚以上のアルバムを売って今なおどこか閉じたアウル・シティーの本質を感じさせるものでもあった。

前半戦は特にそんなアウル・シティーの個性を強く感じたセットだったが、“Lonely Lullaby”のアダムのピアノ弾き語りをインターミッションとして始まった後半戦はアンセミックなナンバーが集結した流れで、随所で満を持しての大合唱が巻き起こる。中でもキーボード4人+ヴァイオリン+チェロという歪にも程がある編成でポップ・ソングとしか言いようのない分かりやすいカタルシスを生んでいった“Galaxies”、エレクトロニカとギター・ロックが完璧なマリアージュを見せた“Angels”の2曲はアウル・シティーの「内と外」の美しき混沌を象徴するナンバーだったし、“Fireflies”はもちろんこの夜のハイライトになった。「日本に来るたびに日本のことが好きになる。日本に来るたびに好きな人が増えていく」と感無量な表情で言っていたアダム。間違いなく過去最高の来日のステージだったと思う。(粉川しの)
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