クラムボン @ 両国国技館

「ツアーでもらったものを全部出そうと思います!」とライブ序盤に原田郁子が告げれば、終盤には「ベスト・オブ・ベストのライブにします!」とミト。その言葉通り、初っ端から感動と熱狂が押し寄せた今夜のアクトは、バンドにとって大きな意味を持つメモリアルな内容となった。クラムボンの両国国技館公演。2枚のベスト・アルバムをリリースした春、蔵や小学校の旧校舎など全国各地の「ナイスな会場」を巡る「ドコガイイデスカツアー」を展開した夏・秋、と2011年を精力的に駆け抜けてきた彼らは、その勢いのままにバンド初のアリーナワンマンを、ここ両国国技館で見事に完遂してみせたのである。

「上半身『白』を中心にしたコーディネイト」というドレスコードが設けられた本公演。最寄りのJR両国駅に降り立つと、早速白尽くめの人々がホームに溢れ返っている。さらに場内へ足を踏み入れると、中央の土俵ステージをぐるりと取り囲んで白一色の客席が。その特異な光景を見ただけでも、今日のライブがすごいことになりそうな予感がして胸が躍る。そして開演時刻の16時半、ステージに現れたのは、「国技館にふらっと遊びにきた近所のおっちゃん」という態の落語家・林家彦いち師匠。「ネズミ捕まえた! 大きい? 小さい? するとネズミが…」「チュ~(中)!」などと下町人情あふれる小噺を披露して、場内の空気をあたためる。さらにお馴染み・伊藤大助の開演を告げる影アナウンスが流れたところで、彦いち師匠の音頭による「おーい、クラムボン!」という観客全員の呼び込みに迎えられて3人が登場。伊藤のドラムソロからジャム・セッションに突入すると、そのまま1曲目“シカゴ”へと流れてこの日のライブはスタートした。

ほぼベスト・アルバムからの楽曲で構成された、この日のアクト。それだけに、曲のイントロが鳴るたびに歓声とハンドクラップが沸き起こる場内は、1曲目から大きな一体感に包まれていく。ミトが獰猛にベースを掻き鳴らした“パンと蜜をめしあがれ”、伊藤の破壊力あるビートが炸裂した“ドギー&マギー”。「信じられないくらい懐かしい曲をやります」(原田)と、鳴らされた“ジョージ”“GLAMMBON”の2連打では、原田の野性味溢れるオルガンの音色がキッチュに弾ける。そこから一転して“波よせて”のしっとりとしたヴァイブでコバルトブルーの海を出現させてしまうあたりは、さすが高いプレイヤビリティを誇るクラムボン。新曲“はなくさいろは”では、花のつぼみが開花する瞬間を捉えたようなカラフルで生命力あるサウンドが、オーディエンスを躍動的に鼓舞していった。

「今日は長いからちょっと座ってもいいよ」(原田)と観客を座らせた中盤は、スロー・チューンの連続。透明なピアノの旋律が響きわたった“コントラスト”、ミトのアコギがノスタルジックな光景を描いた“便箋歌”と、序盤のカラフルな熱狂とは打って変わってディープなサウンドスケープが場内に広がっていく。中でも圧巻は、“ナイトクルージング”“あかり from HERE”“KANADE
Dance”の3連打。スピリチュアルなピアノの旋律(“ナイトクルージング”)が、場内の磁場を歪めんばかりの巨大なグルーヴに発展(“あかり from HERE”)し、眩い閃光を放つ凛とした音世界へと上り詰めていく(“KANADE Dance”)さまは、まるで得体の知れないモノノケが美しい不死鳥へ変貌する瞬間を見ているかのように神秘的でドラマティック。かと思えば「楽屋で食べたちゃんこが旨すぎて……」(ミト)→「俺も食べたい!」(観客)→「じゃあ次はちゃんこ付きのチケット売ろう。もちろん炊き出しは3人で」(原田)なんて、観客とフレンドリーな掛け合いを展開してしまうところも、どこまでもラフなスタンスを失わないクラムボンなのであった。

「まだまだ行けるだろー!」というミトのシャウトから“GOOD TIME MUSIC”へ突入した後は、クライマックスへ向けて一気に加速! グルーヴィーなサウンドが客席を揺らした“はなれ ばな
れ”、この日いちばんの熱狂とシンガロングを生み出した“サラウンド”、3つの疾走するサウンドがカオティックにせめぎ合った“NOW!!!”――と、まさにジェットコースターさながらのスリリングな展開で駆け抜けていく。そして“バイタルサイン”“Re-Folklore”と畳み掛けて本編終了。
アンコールではミトひとりが登場し、「郁子が着替えている間に“312”という曲をやります」と、アコギ1本でインスト・ナンバーを披露。さらに原田と伊藤を交えて“ある鼓動”を演奏し、「最後はみんなで歩んできたよって曲をやって終わりにしようと思います」(ミト)として、“tiny pride”へ。これで終わりかと思いきや、拍手と歓声が止むことのない客席を見わたして「……終わりたくないね」と原田。「ちょっと作戦会議!」(ミト)と緊急会議が設けられた後、クラムボンからの最後のプレゼントとして鳴らされたのは、“雲ゆき”。「また近いうちに集ろうね」と告げるかのように、明るく優しく放たれる歌声が場内を染め上げて、2時間半のステージは大団円を迎えた。

冒頭の発言にもある通り、並々ならぬ気合で「バンド初のアリーナ公演」に臨んでいたクラムボン。しかし、そんな力みや緊張感とは無縁と思えるほど、ステージ上の3人は自然体だった。3人が放つヴァイブは、かつてないほど開放的であったかかったし、そんな3人が鳴らすサウンドは、どこまでも伸びやかで眩い輝きに満ちていた。気負わず、気張らず、まるで「音楽の中にいることの気持ちよさ」を自らがいちばん堪能しているかのような演奏の数々。そんな飾らないスタンスから、音楽的な先鋭性と親しみやすいポップ・センスの両端を持ち合わせたクラムボンの音楽が生み出されていると思うと、改めて驚かされるばかりである。まるで「音楽はこんなにも自由で、神秘的で、開放的になれるんだよ」ということを実証するような、魔法のような2時間半。終演後、会場限定グッズとして配られた「苦楽無凡」座布団が宙を舞う光景を目の当たりにしながら、その強靭さを思い知った。(齋藤美穂)

セットリスト
1.シカゴ
2.パンと蜜をめしあがあれ
3.ドギー&マギー
4.ジョージ
5.GLAMMBON
6.波よせて
7.はなさくいろは
8.コントラスト
9.便箋歌
10.ナイトクルージング
11.あかり from HERE
12.KANADE Dance
13.GOOD TIME MUSIC
14.はなれ ばなれ
15.サラウンド
16.NOW!!!
17.バイタルサイン
18.Re-Folklore
アンコール
19.312
20.ある鼓動
21.tiny pride
22.雲ゆき
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