メトロノミー @ 代官山UNIT

連日の来日公演ラッシュに沸くこの1月、代官山UNIT一夜限りのステージに降り立ったのはデヴォン州出身・ロンドン拠点のUKバンド、メトロノミーだ。2011年に発表した3作目のアルバム『イングリッシュ・リヴィエラ』がマーキュリー・プライズにノミネートされ、各方面の年間ベスト・ディスク・リストにおいても好意的に取り上げられるなど、目下バンド・キャリアのピークに差し掛かっていると言える彼ら。昨秋からは世界を股にかけたツアーに明け暮れ、年明けをオーストラリアで迎えたというだけに、練り上げられたライヴ・パフォーマンスにも俄然期待が高まる。一夜限りとはいえ、このタイミングでワンマンが組まれるのは道理というものだろう。フロアはソールド・アウトの盛況ぶりである。



喝采に包まれてメンバーが登場し、まずは軽くジョセフ・マウント(Vo./G./Key.)が味のある、通りの良い声で挨拶。ステージのバックドロップには、メンバー4人の巨大な肖像画がそれぞれの立ち位置と同じ順に並べられている。すっきりとした今現在の風貌とは違って、モコモコとしたパーマ・ヘアに濃い髭がしっかり書き込まれたジョセフの肖像画や、大きな目をギョロリと覗かせたベーシスト=ベンガ・アデレカンの肖像画が可笑しい。さて、ステージ本編は『イングリッシュ・リヴィエラ』序盤に配置されていた“ウィ・ブローク・フリー”からスタートだ。ファルセットを効かせた、意図的なまでにソウルフルなコーラスがじわじわと熱を帯びる。ベンガのベースはビンビンと下腹部を直撃するようなパンチの効いたサウンドを響かせていた。そして一気にアルバム終盤のハイパーなダンス・チューン“ラヴ・アンダーラインド”へ。湿り気を帯びた詩情とファンキーなバンド・グルーヴが渦を巻いて熱狂を形作ってゆく。やはり、メトロノミーのライヴは飛躍的な成長を遂げている。



オーディエンスの好反応を目の当たりにして「またこの東京に戻って来れて嬉しいよ! メトロノミーへようこそ!」と笑顔で告げるジョセフ。彼らは2011年のサマーソニック以来の来日公演だが、筆者が彼らのステージを観るのは2009年のサマーソニック以来。それだけに成長ぶりが一層くっきりと伝わってきた。当時は、ライトスピード・チャンピオンのバッキングを務めていたリズム隊=ベンガと紅一点ドラマーのアンナ・プリオールが加入したばかりで、ライヴ・バンドとしてはまだまだ過渡期だったのだろう。今では“バック・オン・モーターウェイ”や“ホリデイ”といった往年のダンス・パンク・ナンバーも、オスカー・キャッシュのフリーキーなサックス・ソロを挟み込みながらガッチリと噛み合ったアンサンブルで届けられる。メトロノミー・ライヴの象徴でもある、メンバーの胸にあてがわれたLEDの光源が、音と同期してピカピカと点滅するのも何か異様に楽しさを増幅させてくれるのだった。



そんなメンバーの再編を経て、改めて4人組バンドとして制作したアルバムが『イングリッシュ・リヴィエラ』というわけだが、ジャケットのアートワークにも顕著だったどこかAOR的な、まるで職人気質の作り込まれたポップ観が新鮮な驚きをもたらしてくれていた。しかしライヴにおけるメトロノミーは、熱狂のダンス性を一貫してキープしている。正直、“シー・ウォンツ”辺りの乾いたエモーションはより整合性のとれたバランスで聴いてみたかったのだけど、相変わらずベンガのベースはブンブンと前面にせり出しているし、バンドの一体型リフを軸に盛り上がってしまうのだった。それでも、普段は内気な男が目一杯ハジけてしまっているという感じでキテレツなダンスを踊っているオスカーや、一生懸命フィジカルにクソファンキーなベースを弾こうとしているのだけれどどうも文系臭が抜け切らないベンガや、鋭角なビートを刻みながら美しいコーラスを乗せて来るアンナや、“コリーヌ”で捩れたコード進行のギターを詰め込むジョセフを観ていると、ああ、メトロノミーなのだな、という感慨が沸いてくる。彼らは、自分たちの楽曲をどのようにプレイすればオーディエンスをエンターテインできるか、それを考え続けて今のライヴのスタイルに辿り着いているのだろう。



デビュー・アルバムから披露されたカチ上げのロックンロール“You Could Easily Have Me”。浮遊感に満ちたシンセ・フレーズとスリリングなブレイクが盛り込まれた“ジ・エンド・オブ・ユー・トゥー”。一曲ごとに余韻を残さず、ビシッとフィニッシュするデジタルな感性もメトロノミーの空間では重要だ。オスカーがウインド・シンセを披露していた“ハートブレイカー”ではメンバーが揃って最敬礼を決める。しまった、筆者の位置からではジョセフの陰に隠れてしまってアンナが見えない。彼女も最敬礼していたのかな。そして、この夜のハイライトと呼ぶべき盛り上がりを見せたのは“ザ・ベイ”から青い閃光の中でプレイされた“ザ・ルック”の流れだ。『イングリッシュ・リヴィエラ』の最もドラマティックな部分が再現される。本編の最後には、アンナが気怠いリード・ヴォーカルを務めながらダンス性を纏ってゆく“エヴリシング・ゴーズ・マイ・ウェイ”、そして夢見心地のポップ・ナンバー“サム・リトゥン”が披露された。



ものの数秒でステージに舞い戻って来た4人は、アンナの叩くスネアと胸の光源を同期させつつまたもや歓声を浴びて“オン・ダンスフロアズ”を、そしてオスカーがユーモラスな一本指奏法でシンセ・フレーズを繰り出した“レディオ・レディオ”でシンガロングを巻き起こし、笑顔まみれのステージに幕を下ろすのだった。ジョセフは最後まで、「ありがとう」と響きが似ているからといって「オブリガード!」を連呼していた。キャッチーなダンス・ポップのライヴを繰り広げながら、この個性的な4人のギクシャクしつつも人生を謳歌する姿がありありと伝わる、まるでメトロノミーという小さな独立国家に招かれたような音楽の世界であった。ジョセフとオスカーの、そこはかとなく漂わせる「相棒」な雰囲気も、なんか観ていて嬉しくなる。(小池宏和)
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