アリーナ北東側(つまり入場口から見て正面)にステージが設置され、スタンディング・エリア及び上階までのシート・エリアを、来場者は自由に移動してアクトを楽しむことが出来る。それでもステージにほど近いスタンディング・エリアは人気が高いので、ブロック分けされたエリア内には入場規制が敷かれ、お目当てのアクトの前には列を成さなければならない盛況ぶりだが、この自由度の高い参加方式が豊かなヴァイブレーションを生み出しているように感じられた。座席のあるアリーナ公演なのに、フェスに近い雰囲気と言えば良いだろうか。
開場時から、この日最初のDJ出演となる前田博章がアリーナ内を温め、ライヴ本編直前にはOgre You Assholeの出戸学、サカナクションの山口一郎、the telephonesの石毛輝という3人のフロントマンが揃って登場。「この『Version21.1』を初めて新木場スタジオコーストでやったときは、チケット余っちゃったんですよ。それが、横浜アリーナに到達して、1万人! ありがとうございます!」と挨拶する。さてそれでは以下、各アクトの模様を出演順にショート・レポートしていきたい。
●the telephones (13:00〜)
ゴールドからシルバーのミラーボール・シャツに着替えたノブ(岡本伸明)、スパイキーに立ち上がったモヒカン頭の松本誠治。そして巨大な蝶ネクタイをぶらさげた長島涼平。ますますド派手なヴィジュアルに「昼間っから踊ろうぜー! Are You DISCOォォ!?」と石毛の甲高いシャウトが繰り出され、いきなりシート・エリアまで場内総立ちにしてしまっていたテレフォンズである。序盤に先日リリースされたばかりのニューEPから“D.E.N.W.A”が配置され、日本語混じりなのにきっちりテレフォンズするというアクロバティックかつユーモラスな技も見せてくれた。“A.B.C.DISCO”のコーラスがアリーナ一杯に広がった後、“SAITAMA DANCE MIROR BALLERS!!!”の頭でキーボードをトチってしまうノブ。「ミュージシャンがミスしたときは、ブーイングしてもいいんだよ。もっと!」と自ら囃し声を浴び、そこに石毛は「ダンス・ミュージックは、悲しみから始まってるんだよ」と的確なフォローを入れて狂ったようなダンス・ロック・サウンドの後半に突入していった。逆境や障害に立ち向かうほどにヴォルテージが増し、その興奮に人々を巻き込む。『Version21.1』ここにあり、という見事な一番槍だった。
今回のステージでは、3/7にリリース予定のニュー・アルバム『光』から3曲が披露されたことが重要なトピックとなるのだけれども、それ以上に「横浜アリーナで素晴らしいライヴを見せるandymori」そのものが嬉しい衝撃だった。“everything is my guitar”からの、まくしたてる言葉数とタイトな疾走感がぴったりと寄り添って届けられる思い。“ユートピア”での、3人でこのステージに立っているんだという堂々たる宣言。小山田壮平は後になって「こんな大きい会場でやらせてくれて、ありがとうございます」と謙虚に語っていたが、「大きな会場でのロックは、大らかな曲調で鳴らされるべき」みたいな固定観念が片っ端から引き剥がされるような快感があった。それしかないという言葉たちのひとつひとつがメロディを紡ぎ出し、虚栄ではない誠実な野心として心に揺さぶりをかけてくる。“グロリアス軽トラ”は《横浜の空の下》と歌われ、「音楽を愛する皆さんのために歌います」と最後に披露された万感の目映いコーラスは来る新作の“愛してやまない音楽を”だった。いずれこんなスケールのワンマンに辿り着くandymoriを、タイムスリップして観てしまったようなステージであった。
サウンド・チェック代わりに“I’m In Love With You”を放ち、早々にオーディエンスを沸かせてしまう。本編はJIMが実家で保管しているという「THE BAWDIES」のレトロな電飾バックドロップを背負い、「実は! 今年初ライヴなのね。なので、あけましておめでとうございます! え? 遅すぎますか!?」とROYが“IT'S TOO LATE”に繋ぐ手捌きも鮮やか。見事なシンガロング・フレーズを乱発する国民的ガレージ・ロックンロールの手応えだけでも、THE BAWDIESはレトロなようで新しい。「『スタンド・バイ・ミー』っていう映画観たことある? エースっていう悪いお兄ちゃんが出てくるんだけど、それがジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)だって知ってた!?」。ROYがそんなトリビアを投げ掛けてニュー・シングル“ROCK ME BABY”へ。骨太なロック・グルーヴが全開になってゆく。“B.P.B”ではプレイをミスしても「俺は引き摺らねえよ」と居直ったり、終盤は熱いレスポンスを求めながら「怒ってないです! 気持ちが爆発してるだけです!」とROYの麗しき暴君ぶりが冴え渡る。終演後はTAXMANの合図で2012年最初の「ワッショーイ!!」コールがアリーナにこだまするのだった。
生ドラムを加えたライヴ感満載のミックスを披露する前田博章のDJタイムを経て、ステージにはキューミリが登場。滝善充があたかもホース散水するかのようにギターを振り回す。“Living Dying Message”から、エッジが鋭く硬質に響くのに艶もある、という独自の境地に達したアンサンブルが轟き始めた。「俺たちのMovementを(横浜アリーナに)観に来てくれてありがとう!……それは去年の話だったぁ……しかも、その模様がDVDに収められてリリースされるんだったぁ」と余裕の告知兼茶番(本人談)でMCを切り抜ける菅原卓郎である。中村和彦がアップライト・ベースを奏でるジャジーな“キャンドルの灯を”、幻想的なイントロから展開する“カモメ”と、鉄壁にして情感溢れるパフォーマンスが続く。卓郎は「なんだあいつ、って冷めてる人もいるけど、そういう奴を全力で黙殺できる強さを身につけましょうよ」と、震災後11ヶ月の姿勢について語っていた。まるでクライマックスのように聴こえてしまう“新しい光”の後には、掟破りの「Are You Disco!?」コールで“Discommunication”へと向かい、タガが外れたような爆走で終盤を駆け抜ける。和彦はときに、ベースを床に置き去りにしてまで跳ね回っていた。鉄壁さと暴れっぷりの振り幅が凄いのではなく、暴れているのに鉄壁なのだ。このライヴ・アクトとしての高みは何度観ても驚かされる。
ライヴ・アクトとしての高みで言えば、『Version21.1』立役者の一角であるオウガの今も凄い。ほとんど照明のない、オーディエンス頭上の多面スクリーンも使われない、深いブルーに沈んだステージで『homely』の楽曲が並べられる序盤。“ロープ”では、アリーナ一面にギター・サウンドのカーテンが広げられるような光景が生み出され、出戸の歌が鼓膜に柔らかく纏わりついてくる。ファンキーなグルーヴと美しい音響効果を突き詰めた、オウガ独特のエクスペリメンタル・ポップの世界だ。我々の慣れ親しんだポップ・ミュージックの定型とは余りにかけ離れた、しかし決して小さな箱庭ではなくアリーナを丸ごと呑み込んでゆくようなミュージック・トリップ。“バックシート”のような往年のナンバーも、現在のオウガによる確信の力強いサウンドで描き直されている。とりわけ圧巻だったのはやはり、冒頭で一度披露した“ロープ”の超ロング・プレイだろう。ミニマルな展開から徐々に恍惚と戦慄が交互に押し寄せ、腹の底からの興奮を引き出してくれる。その音が鳴り止んだとき、オーディエンスは余韻を引き摺りながら、まるで我に返ったように喝采を浴びせるのだった。
“RL”のイントロダクションを《『Version21.1』、サカナクション》のアナウンスで締めくくり、テレフォンズやオウガもそうだったように『Version21.1』のバックドロップを堂々背追った5人が登場。華々しいダンス・ロック・サウンドを鳴らしてこの日最後のダンス・タイムを形成してゆく。深いリヴァーブがかけられた山口のウェットな歌が響く“モノクロトウキョー”。この日の始まりに「ダンス・ミュージックは、悲しみから始まってるんだよ」と語ったのはテレフォンズの石毛だったが、サカナクションはそれを広く、サウンドによって説明してしまったバンドではないだろうか。“エンドレス”から“『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』”への、ダンス・ミュージックが鳴らされる理由そのものをロジカルに描き出してしまう流れは本当に素晴らしい。ゴーグルを装着したメンバーが横一線に並んで機材を操り、レーザーが飛び交う“DocumentaRy”を経たのちには、満場のハンド・クラップとシンガロングが繰り広げられるアンセム群の連打だ。確かに時代の空気とシンクロする音楽を生み出した、という自身に裏打ちされたステージ。それではレポートの最後に、アンコールに応え再登場した、サカナクション・山口が語った言葉を引用しておきたい。
「音楽を仕事にするってことの意味を、他のバンドを観ながら、自分たちがやってるときも、考えていたんですけど、ミュージシャンも皆さんと一緒で、大変な思いがあって、日常で辛いことがあって。音楽の力、とか、やってる側は軽々しく口に出来ないけどさ、それで音楽を作って、他のバンドと一緒にイヴェントをやって、センスのいいミュージック・ラヴァーが1万人集まって。本当、音楽家として救われます。本当にどうもありがとう。『Version21.1』はこれからも続いていくと思うけど、何日も続けていろんなバンドとやってみたかったりとか、頑張るんで、これからもよろしくお願いします。」(レポート:小池宏和)
セット・リスト
the telephones
01:Urban Disco
02:sick rocks
03:D.E.N.W.A
04:A.B.C.DISCO
05:SAITAMA DANCE MIROR BALLERS!!!
06:I Hate DISCOOOOOOO!!!
07:White Elephant
08:Monkey Discooooooo
09:HABANERO
10:Love&DISCO
andymori
01:everything is my guitar
02:革命
03:ユートピア
04:Sunrise&Sunset
05:投げKISSをあげるよ
06:ベースマン
07:クラブナイト
08:16
09:1984
10:グロリアス軽トラ
11:ベンガルトラとウィスキー
12:Peace
13:愛してやまない音楽を
THE BAWDIES
01:A NEW DAY IS COMIN'
02:IT'S TOO LATE
03:JUST BE COOL
04:LOVE YOU NEED YOU
05:ROCK ME BABY
06:B.P.B
07:HOT DOG
08:YOU GOTTA DANCE
09:KEEP ON ROCKIN'
9mm Parabellum Bullet
01:Living Dying Message
02:Cold Edge
03:The Revolutionary
04:Vampiregirl
05:キャンドルの灯を
06:カモメ
07:新しい光
08:Discommunication
09:Black Market Blues
10:Punishment
OGRE YOU ASSHOLE
01:ロープ
02:フェンスのある家
03:ふたつの段階
04:バックシート
05:ロープ(Long ver.)
サカナクション
01:RL
02:モノクロトウキョー
03:セントレイ
04:仮面の街
05:エンドレス
06:『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
07:DocumentaRy
08:ルーキー
09:アルクアラウンド
10:アンデンティティ
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