『Star Fes.』@お台場特設会場

「日本一早い夏フェス誕生!?」というキャッチ・コピーそのままに、3月末に初開催されることになった『Star Fes.』。全23組の洋邦のライヴ/DJ・アクトたちがお台場に集結し、3つのステージで午前11:30の開演から午後8時の終演まで、パフォーマンスが繰り広げられた。ヴィーナスフォート南側の埠頭に設けられた特設会場(ゆりかもめ青海駅のそば)は、しばしば音楽イヴェントが企画される場所で、これぞまさしく都市型フェス、といった印象を受ける。

フェスの周辺情報についてもう少し触れておくと、20歳未満の入場は不可で、IDの提示が必要。午後8時に終演するフェスなのになぜクラブみたいな年齢制限があるのかというと、この『Star Fes.』はSeven Starsの特別協賛によって催されていて、つまりたばこのPRが行われる場でもあるから、という配慮だろう。そちらの方でも様々な企画が行われていた。会場に入ってまず気付くのは、喫煙エリア及び吸い殻入れの充実ぶりだ。唯一のオープンエア型ステージであるSTAR STAGEでは、PAエリアのやぐらを挟み込むように、左右に大きな喫煙スペースのやぐら(屋根付き)が組まれていて、たいへん見晴らしがいい。ほとんどVIPエリアである。テント型のFOREST STAGEとSUN STAGEのフロア内はさすがに禁煙だが、隣接してしっかり喫煙スペースが設けてある。フードコートにも吸い殻入れが幾つも設置してある。今どき、これほど喫煙者に優しいフェスがあるだろうか(筆者は喫煙者です)。

フェスの開催告知中から気になっていたのだけれど、早割が¥3,000、前売りが¥3,500、当日券は¥4,500と、チケット代が安い。それもあってか前売りはソールド・アウト。かなりの節制フェスかと思っていたら、STAR STAGEには両側に大型スクリーンが設置されているし、FOREST STAGEは前面がグリーンのカーペット敷きだし、クラブっぽい雰囲気のSUN STAGEでは頭上に3Dマッピング仕様の球状スクリーンが浮かんでいる。誘導スタッフも多く配置され、ゴミをひとつひとつ手渡しで受け取って分別して捨ててくれる人までいた(ちょっと面白かったので、紙ゴミとビニールゴミを一人ずつに渡してみたりした)。かなりお金がかかっていると思う。つまりそれだけ、音楽フェスのひとつのスタイルとして、企業PRを軸にしているということなのだろう。

前置きが長くなってしまったが、以下はステージの模様をダイジェストで進めたい。先に触れたように3つのステージはひとつが屋外、ふたつはテントで、ステージ間の距離は近いがパフォーマンス中の音漏れはさほど気にならない。個人的にSUN STAGEはちょこちょこっとしか覗かなかったけれど、こちらは割とミニマルなダンス・ビートが鳴り続けていて、暗いフロアにマッピングのスクリーンも良い雰囲気。むしろ、ここでずっと踊っている、という楽しみ方もありだった。

ひときわ大きなオープンエア型のSTAR STAGEでは、トップを飾ったDAMAGEに引き続き、正午になるとDEXPISTOLSがDJセットで登場。ロック色の強いエレクトロからダブステップ風にミックスされたJレゲエ、メロウなジャジー・ヒップ・ホップと縦横無尽なブレイクビーツで盛り上げる。メンバー全員がスーツ姿のダンス・ロック・バンドJOUJOUKAは、DJ TSUYOSHIのトラックとFUNKY GONGの強いフェイザーが効いたギターがけたたましく鳴らされる、アップリフティングで緊迫したサウンドを展開していた。爽やかなイメージのフロアとのミスマッチがおもしろい。

KEN LLOYD、SHIGEO、ケイタイモ、桜井誠という面々からなるスーパー・バンドのATOM ON SPHERE。メンバーそれぞれのキャリアや嗜好が透かし見えるのに、それを重荷とせずスタイリッシュに纏め上げるところがバンドの実力というところだろうか。えらくカジュアルな装いながらフェロモン全開になってしまうKEN。都心の真っ昼間の屋外にこの男達がプレイしているというだけで、なにかいけないことが起こっている気がする。今回はゲスト・ヴォーカルに名取香りも登場。サクさんはこの後もステージの衣装のまま、会場内を歩き回って楽しんでいるところを見掛けた。LITTLE TEMPOは入場規制の人気ぶりだ。TICOと田村玄一のツイン・スティールパンは、聴かなければ気が済まないほどの快楽指数を誇っている。リトテンで夏を想うというのは偏見が過ぎるかも知れないけれど、「日本一早い夏フェス」は確かにここで感じた。今度はぜひ屋外ステージで触れたいところ。

ちょっと潮風が吹き込んでいたので、DJ KENTAROの屋外プレイを心配してしまったのだが、これはまったくの杞憂に終わった。繊細にして華麗極まりないターンテーブリズムが炸裂である。オールドスクールからアブストラクト、ダブ、ドラムンベースまで、余裕さえ伺わせる佇まいで見せて、聴かせて、踊らせる。プロフェッショナルの技巧と経験に裏付けられたステージだ。そして生々しいファンク・ロック・アンサンブルを展開するSLY MONGOOSEは、抜けの良いパーカッションの音色とエキゾチックな鍵盤の旋律が楽曲の深みと興奮を増幅させてくれる。FOREST STAGEの床が揺れてしまうぐらいの盛り上がりであった。

性急なフレーズがスリリングに交錯してゆく中、社長(アジテーター)が憂いを帯びたヴォコーダーを披露するなど、「立ち止まったら死ぬ」とばかりに独自のクラブ・ジャズの枠を押し広げてゆくSOIL&”PIMP” SESSIONS。「DEATH JAZZ」というキーワードは、そういう意味でもあったのではないか。フリーキーな爆発を見せつけたあと、社長は「この東京で、屋外で、みんなが笑顔で、歌って、そういうことが当たり前になるといいですね」と語り、コール&レスポンスを巻き起こしながら最後に“SATSURIKU ニューウェイブ”に傾れ込むという、エモーショナルなパフォーマンスだった。

邦人アクトについても世界を舞台にキャリアを築いてきた出演者が多い『Star Fes.』だが、ソイルに続いてSTAR STAGEに登場したのは仏レコード・レーベル/ファッション・ブランドKITSUNÉのトップでもあるジルダのDJ。フォスター・ザ・ピープルやガガやケミカル・ブラザーズをフレンチ・エレクトロにミックスするという、むしろどうやって盛り下がればいいのか訊きたいぐらいのプレイだ。でも、ダンス・トラックとして機能させながらビートを強調し過ぎず、上物をきっちりと活かしてゆく音のバランスは上品。飲みながらゆっくり聴いて楽しむ人がいてもいい。それにしても、グレーのスウェットとストレートデニムをシンプルに合わせただけジルダの装いは、なんかフランス人のおしゃれだなあという印象である。

次は電気グルーヴで、にわかに人が詰めかける夕焼けのSTAR STAGE。真ん中正面から観たいので、ジルダの後、移動せずに待機することに。牛尾憲輔がサポートに入ってDevice GirlsがVJを務めるという盤石の体制だけれど、“Upside Down”からスタートしたパフォーマンスは、まったく飛び道具(つまり瀧のコスプレや被り物なども)を用いない、ストイックにダンス特化されたものだった。卓球と瀧のヴォーカルがリレーし、VJでは鍋を被った女の子の頭をもう一人の女の子がスティックで打ち鳴らす、といったまさに電気なシュール映像とともに繰り出される新曲も。こじ開けられた感覚に後半、“ガリガリ君”、“Flashback Disco”といった往年のキラー・チューンが投下される展開がやばかった。

DJ NOBUの目映くトランシーな音像のフィニッシュを経て、いよいよSTAR STAGEトリのジェームス・ラヴェルによるUNKLEのDJへ。卓球も「寒いね!」と手をこすり合わせていたが、日が暮れると急激に温度が下がる。そこにノースリーヴ一枚で登場するジェームス。だから、寒いって! さすがに途中からは上着を羽織っていたけど、これにはびっくりした。序盤にダフト・パンクをコズミック&アブストラクトにミックスして放つなど、UNKLE印の鋭利な音像をがっちり展開してゆく。寒いのに平気でビートをぶっこ抜いて見せたり、時代を築いた音をきっちり引き受ける、もはや意地にも似たサウンドだ。ベース音が凶悪で気持ちいいので、スピーカーの前でたっぷり浴びる。その「時代の音」がこの体にも染み付いてしまっているのだから仕方ない。ラスト15分ぐらいでようやくしっかり踊らせてくれたけど、折角だから“ロンリー・ソウル”や“ビー・ゼア”あたりも、聴きたかったな。(小池宏和)
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