同名のベストアルバムを携えた「SUPER ME-GUMI COLLECTION TOUR」を見事完遂しため組。7/5の千葉・柏DOMe、7/19の愛知・名古屋ell.SIZE、7/21の大阪・梅田Zeelaというスケジュールを駆け抜けて、辿り着いたファイナルの舞台は8/3東京・渋谷クラブクアトロだ。この7月に晴れて結成10周年を迎えため組のキャリアにおいても最大規模となるワンマン公演である。思いを乗せた名曲名演が咲き乱れながらも、過去の物語だけではないめ組の新しい季節を紡ぎ出すようなステージの模様を、振り返ってみたい。
盛況のフロアを前に、まずは麦わら帽子と虫取り網、虫籠という夏休み感満載の出立ちで姿を見せた菅原達也(Vo・G)が、この日は開場アクトということで弾き語りを披露するスペシャルな企画が盛り込まれていた。自身が近々誕生日(8月8日)を迎えるということで、好きな夏ソングをセレクトし披露する趣向だ。まずは軽快なアコギのリフを奏でながら桑田佳祐“波乗りジョニー”を伸びやかに歌い上げてゆく。そこから井上陽水による不朽の名曲“少年時代”、ゆず“夏色”という鉄壁のメドレーで繋ぎ、さらには菅原がめ組結成前に活動していたバンド=さよなら、また今度ねのレパートリーである“僕あたしあなた君”を披露。声マネで笑いを誘いながらも、誰もが知る名曲連打に堂々若き日の菅原作品を連ねるという不敵な自信を伺わせる一幕であった。
さて、ファンキーな発火点の入場SEにオーディエンスの手拍子が重なり、いよいよめ組の出番だ。小気味よいピアノの旋律が並走して切り出される“Amenity”でポッキーギターを携えた菅原は《誰にも自分を渡さないでね》と歌いながら自身の胸を拳で打ち、フロアにハンドウェーブを巻き起こしながら華々しく疾駆する“マイ・パルプフィクション”では、我らがギターヒーロー富山京樹(G)が巧みに音色を変化させながら鮮やかなソロを挿し込んでくる。
キャッチーさとテクニカルさを兼ね備えた“お茶の子再々!”を経て菅原は、「僕ら図々しくもですね、皆さんにおめでとうって言って欲しくて、この場に参上しました」とバンド結成10周年の節目について告げ、浴びせかけられる祝福の声に照れたりしている。「歌おうが泣こうが喚こうが、今日はもう好きにやってください!」と煽り立てて披露されるのは、ベストアルバム『SUPER ME-GUMI COLLECTION』製作に向けたファンによる楽曲投票でも大きな支持を獲得した“僕らの匙加減”だ。1コーラスを歌ったところで菅原は「この曲を1位にしてくれてありがとう!」と感謝の思いを添える。恋愛の、人間関係の、一筋縄ではいかない匙加減を歌い込んだこの奥ゆかしいポップチューンこそが、め組とファン(=組員)の絆なのだ。
“ななこおねいさん”では導入部のミスで仕切り直したものの、完璧に軌道修正して会場全体がめ組と化すような大合唱を導いてしまう。ベストアルバムに収録されていない楽曲でもこれである。寺澤俊哉(B)の暴れん坊ベースが、ユニークな楽曲展開をぐいぐいリードしてゆく“お化けだぞっておどかして”の盛り上がりも素晴らしい。
ヘアスタイルを一新してきた久佐賀麗(Key)は、学生時代から憧れてきたステージに立つ感慨について語り、寺澤はファンによる楽曲投票に添えられていた数々のコメントの中には文章の長さに熱を感じるものがあったと語る。そして菅原による「ここからは皆さんと僕らの測りあいをしたいな」という思いで切り出された“故愛(ゆえあい)”は、冒頭の1コーラスがしっとりとしたピアノのバッキングのみで届けられるアレンジだ。歌詞の一言一句を噛み締めるようにして歌われるさまも印象深い。
僕はツアー初日の柏公演(菅原の故郷だ)も観たのだが、いかにもライブハウス型の前のめりな近距離戦で思いを投げかけた柏公演とは違い、このファイナル公演ではきっちりフロアを盛り上げながらも、どこかどっしりと構えて組員に愛されてきた名曲の数々を大切に未来へと手渡すようなめ組が感じられていた。そしてそれは、今後さらに大きな会場で堂々パフォーマンスするめ組の姿を予感させるものでもあったのだ。さらに、近頃のライブや『SUPER ME-GUMI COLLECTION』のレコーディングにも参加しているサポートメンバーの茄子川(Dr)は、鋭角でロックなスネアの一音だけで“あの恋をなぞれば”のムードを一変させるような、新鮮な化学反応をもたらしている。
現代生活の優しく力強いソウル“YOLO”を披露したあと、菅原は「この曲を作ったときに、めっちゃいい曲だねってものすごい笑顔で褒めてくれました、大恩人の渋谷陽一に捧げます」と語り、さよなら、また今度ね時代に制作した“夕方とカミナリ”のめ組によるカバーへと向かった。つい先頃の7月14日に74歳でこの世から旅立った渋谷陽一は、まさに菅原とめ組の10年を陰で支え続けてきた人物だ。感謝や労い、入り混じったたくさんの思いがあったろう。しかし多くを語るわけでもなく、め組はこの1曲にすべての思いを込めてパフォーマンスしたのだ。
「10周年って謳ってますけど、このバンドのメンバーの中で10周年を迎えたのはこの2人(菅原と富山)だけなんですよ」と菅原から話を振られた富山は、ツアー各地で待ってくれていたファンの姿にキャリアの手応えと喜びを見つけたと語る。
富山「10年経って、ひと段落ついた感がありますけど…」
菅原「ないよ! これからだよ!」
富山「そう。それを言おうとしたんですよ! この噛み合わなさがまたいいですよね」
さすがの10周年コンビというべきか、絶妙な掛け合いで湿っぽくなりそうなムードを吹き飛ばしてみせる。「僕たち、これからも真剣に楽しんで、真剣にふざけたりしていきますので、何卒よろしくお願いします!ね!!」と告げながら向かう終盤戦は、“咲きたい”を手始めとする怒涛の沸騰必至ナンバーつるべ打ちだ。久佐賀がハンドマイクで「クアトロのみんな、ワクワクしようぜーっ!!」と煽り立て壮観なタオル回しの光景を生み出す“あたしのジゴワット”では、組員にしたためた手紙を紙飛行機にして飛ばしたりもする。「悪魔のタンバリン」がフロアのそこかしこで打ち鳴らされる狂騒のアンサンブル“悪魔の証明”の《ちゅるりらら》コールは、間違いなくキャリア最大規模だ。そしてライブ本編は、大団円の名スタンダード“さたやみ”で締め括られるのだった。
さて、新たに決定した「ME-GUMI ONEMAN LIVE 2025 -SUPER MANIAC COLLECTION-」(12月20日@SHIBUYA FOWS)の告知を済ませてからのアンコールは、ミュージックビデオも素晴らしかった生成AI時代のラブソング“AIのうた”を披露。続いては本邦初公開の新曲で、トロピカルな曲調と和の情感が巧みにミックスされたエモーションの結晶“二の舞”という最新モードの片鱗も覗かせてくれた。
「これから11年目も、みんなとでっかい花咲かせてくんで、ついて来いよぉーっ!!」と菅原が景気の良い言葉を投げかけ、最後の最後に届けられたのは始まりの楽曲のひとつ“500マイルメートル”だ。め組は最初から、こんなふうに《君》との距離を必死で測り続け、歌にしたためてきた。あの「My Singin’ in the Rain!」と大合唱を誘うフレーズは、実は歌詞カードに記されていない。め組と組員が、互いに距離感を押し測りながら生み出した合唱であり、10年を共に歩んだ証なのである。これからもめ組は、目一杯腕を伸ばしてあなたの掌を掴むように、或いは投げキッスをするように、あなたとの距離を歌で埋めてゆくのだろう。10周年、おめでとう。(小池宏和)
●セットリスト
め組「ME-GUMI SUPER COLLECTION TOUR 2025」
2025.8.3 渋谷・クラブクアトロ
01. Amenity
02. マイ・パルプフィクション
03. お茶の子再々!
04. ぼくらの匙加減
05. ジュゴンの背中に乗って
06. ななこおねいさん
07. お化けだぞっておどかして
08. 故愛(ゆえあい)
09. あの恋をなぞれば
10. YOLO
11. 夕方とカミナリ (さよなら、また今度ねカバー)
12. 咲きたい
13. はっとすりゃ喜劇
14. あたしのジゴワット
15. 悪魔の証明
16. さたやみ
Encore
17. AIのうた
18. 二の舞(新曲)
19. 500マイルメートル
●リリース情報
ベストアルバム『SUPER ME-GUMI COLLECTION』
発売中
●ライブ情報
「ME-GUMI ONEMAN LIVE 2025 -SUPER MANIAC COLLECTION-」
2025年12月20日(土) 東京・SHIBUYA FOWS
OPEN/START:16:30/17:00
前売 ¥4,000(税込・ドリンク代別)