「THE BAWDIESです! や、もう今日は楽しみましょう! この後、伝説のバンドが歴史を作ってくれますから。観れること自体が奇跡です!」と、いつものライブにも増して序盤からエキサイトしまくったTHE BAWDIES・ROY(Vo・B)の声が、むせ返るような熱気と祝祭感に満ちた新木場スタジオコーストをさらに熱くする! ROY自身「この日のためにバンド結成したようなもんなんで!」と明言して止まない、元祖ガレージ・パンクと言うべき60sのロック・レジェンド=THE SONICSと、ほぼ半世紀の時を越えた今なおここ日本でその魂を受け継ぎドライブさせ続ける若き精鋭=THE BAWDIES。「THE SONICSを聴いて、『こんなカッコいい音楽がこの世にあったんだ!』って。今まで活動してるバンドなんて知らなかったので、『こういう音楽を知ってもらいたい!』と思ってTHE BAWDIESを組みました」(ROY)と自らMCでも語っていた通り、レコードショップでたまたま聴いた音に「すごい新人バンドが出てきた!」と狂喜したら実はそれが60年代のTHE SONICSの音で、でもそこに紛れもない「今」の衝動とソウルを見出してバンドを結成したTHE BAWDIESの4人にとってはまさに原点との邂逅。当初昨年4月に予定されていた対バン・ツアーは震災の影響でキャンセルになってしまったものの、あれから約1年の時を経て稀代の師弟(?)共演ツアー=『THE SONICS×THE BAWDIES JAPAN TOUR 2012』がついに実現!
といったバックグラウンドのおかげもあってか、東名阪ツアー初日となるこの日、先攻でステージに立ったTHE BAWDIESが放射するサウンドも、開演早々いきなりレッドゾーンを突き抜けんばかりの爆発力に満ちていた。とはいえ、沸き立つ衝動とテンションを楽曲の勢いや加速度に直結した暴走アクトというわけではなく、というかむしろその逆で、ビートとアンサンブルのスケール感と強度と包容力へと変えていくような、ロックンロール王道ど真ん中を破顔一笑しながら闊歩するような、堂々たるライブを展開していた。“JUST BE COOL”や“IT'S TOO LATE”でフロアをでっかく揺さぶってみせた強烈なヴァイブも、今や国民的ロックンロール・ナンバーと化した“ROCK ME BABY”で満場の新木場スタジオコーストを踊らせまくった圧巻の多幸感も、THE BAWDIESの「今」の無敵のダイナミズムを証明するものだった。
そして、MCのたびに「もう、そこ(フロア最前列)で観てたいっすもん!」とか「マジでリハやばかったっすよ。だって、ソニックスいるんですよそこに!」とか少年のように目を輝かせまくる堰を切ったようにTHE SONICSへの想いを語っていくROY。「メンバーが自己紹介する時—―TAXMAN(G・Vo)の名前はだいたいウケるんですけど――MARCY(Dr・Cho)は声が小さすぎて、前にLOCKSLEY(NYガレージ・ポップのバンド)とやった時(2010年3月)はずっと『ナンシー』だって思われてて(笑)。たぶんソニックスには『マシュー』だと思われてるよね?」(ROY) 「それか『マーチ』ね(笑)」(JIM/G・Cho) と憧れのレジェンドとの対面の様子を語ったり、ROYが「THE SONICSが入ってきてすぐに楽屋に行きたかったけど、メンバーに止められた上にバックステージのカメラマンに『愛が強すぎますよ』とたしなめられた話」「シングルにサインしてもらおうと思ったら、一緒に持ってた貴重なオリジナル盤のレコードのほうにロブ(Sax・Harp・Vo)がサインしようとしたんで、慌ててロブの手を掴んで止めてレコードを引っ込めようとしたら、今度はロブがROYの手を掴み返した話」などで、THE SONICSを知ってる人も知らない人もぐいぐい巻き込んでいく。急に話を振られたMARCYがぽつりと「憧れのバンドなんで、肩を借りるつもりで……」と言ったところでROY/JIM/TAXMANから「胸だよ!」と口々に突っ込まれたりするのはご愛嬌。「『俺らソニックスを観たんだぜ!』って、孫の代まで自慢していいと思います!」と、THE SONICSのカバーも含め全14曲の中でありったけの情熱とプレイアビリティを炸裂させてみせた、至上の1時間だった。
そして……THE BAWDIESのメンバーも2F客席で見守る中、20:30、ついに御大THE SONICS登場! ジェリー(Key・Vo)が、ロブが、ラリー(G・Cho)が、リッキー(Dr)が、フレディ(B・Vo)がオン・ステージした瞬間、歓声と同時に会場に流れたざわつきは、すっかり白髪の似合う5人の佇まいのせいだろう。が、ラリーが軽くギターのチューニングを施し、フレディが「ウワァァァアァァァオゥ!」とハード・ロック・シンガーばりのシャウトを聴かせた後、至って自然な空気感のまま演奏に突入した瞬間の、その音の迫力! ハモンド・オルガンこそ弾いていないものの、ジェリーの鍵盤さばきとソウルフルな絶唱は聴く者の心にひりひり焼きついてくるし、ラリーのリフはスタジオコーストの熱気を鮮やかに切り裂くエッジ感に満ちているし、時にリフと一体になって/時にソロで暴れ回るロブのサックス・フレーズは驚愕必至の輝度を放っている。オリジナル・メンバーでこそないものの、フレディの爆裂シャウトは明らかに再結成後のTHE SONICSには不可欠な動力源になっているし、ギズモかってくらいにぎくしゃくとしたフォームでリズムを刻むリッキーのリムショットが実は1音1音スコーンと強烈に頭と身体に響いてきて驚かされたりもする。が、何より驚かされたのは、ガレージやパンクの薫りなど微塵も感じさせないジェントルな出で立ちとは裏腹の、音が鳴った瞬間にその指先と喉から噴き上がる不屈の魂そのものだ。
ツアー初日ということで、本編17曲+アンコール3曲の内容についてはまだ書けないのだが、それこそ1stシングルから昨年リリースの最新音源『8』の曲まで幅広く披露――というか、60年代ナンバーで押し切るのかと思いきや『8』の曲も要所要所に組み込んでいたりいて、しかもそれが昔の曲よりむしろエッジが利いてたり荒々しかったりラウドだったりしていて、不言実行型の「現役」感をアピールしていたのも、心強いのを通り越して畏怖にも似た感激を覚えずにはいられなかった。60年代シアトル郊外のタコマで生まれた歪みまくりのガレージ・ロックンロールの炎が、バンド解散後もその熱を放ち続け、70年代パンクへ至る導火線となり、00年代ガレージ/ロックンロール・リヴァイヴァルのムーブメントを経た今、バンド再結成によってこうしてリアルタイムで鳴り響いている――というサイクルの壮大さに、思わず頭がクラクラした。
時折ロブのサックス・ソロがビートに置いていかれても、曲中でラリーのチューニングが狂っても、5人のリズムが怪しくなっても、焦らず騒がず瞬時に態勢を立て直してみせるのも、円熟世代ならではの余裕。「コニチワ! グレイト・フレンド、THE BAWDIESに呼ばれてユナイテッド・ステイツから来ました」というロブの朗らかなモードと「MORE ROCK'N'ROLL!」と狂騒のその先へぐいぐいオーディエンスを導いていくフレディの野性味が絶妙の温度で交錯する中、17曲を1時間弱で駆け抜けてみせた5人。アンコールの最後では「じゃあ、THE BAWDIESを呼ぼうじゃないか!」というフレディの声とともに、再びTHE BAWDIESがステージに登場。「いいんですか? 本当に、夢が叶います!」と上気しまくった顔のROYら4人とともに、9人編成でのグランド・フィナーレ! ロックの「歴史」と「今」が交差した、至福の時間がここにはあった。3月31日・名古屋CLUB DIAMOND HALL/4月1日・なんばHatchとツアーが続いた後、4月3日には新代田FEVERにてTHE SONICS単独公演も開催!(高橋智樹)