後藤まりこ×ねごと @ LIQUIDROOM ebisu

リキッドルーム主催で行われるライヴ企画『LIQUIDROOM presents “UNDER THE INFLUENCE”』によって相見えるのは、7/25にソロ・デビュー・アルバム『299792458』のリリースを控えて本格的にシーン復帰を果たす後藤まりこと、5月には東名阪ツアーを成功させ、タイアップ付きのシングルを放ちながら破竹の勢いで躍進するねごと。女性アクトたちの華やいだ共演というだけでは到底括り切れない、表現衝動と未来への意志にまみれたスペシャルな一夜を、レポートしたい。


■ねごと
暗転したステージに沙田瑞紀(G./Cho.)の情感に溢れたコード・ストロークと蒼山幸子(Vo./Key.)による《夜が少しだけ灰色になって》の歌い出しが響き渡り、先行するのはねごとだ。徐々にノイズにまみれながら切々としたエモーションにオーディエンスを引き摺り込んでゆく“NO”。説得力と存在感の大きさを伝えるバンド・サウンドが、ねごとの驚異的な成長速度を物語っている。続けざまに藤咲祐(Ba./Cho.)のベース・フレーズがグイグイと力強く牽引してゆく“メルシールー”を放ち、オーディエンスたちは逃れようもなく一様に体を揺らすのだった。

「リキッドルームの皆さんこんばんは! ねごとです! 今日はせっかくの木曜日の夜なんで……なんて言うか分かりますか? サタデー・ナイトですよ! 間違えました。サーズデー・ナイトなんで、後藤まりこさんと一緒に、マリモのように、優しく強く、盛り上がっていきましょう!」と澤村小夜子(Dr./Cho.)のツッコミどころ満載なMCには笑顔が広がる。続けて蒼山が「次の曲で月までいきませんか?」と呼び掛け、“ループ”ではコズミックなムードのキラキラした高揚感の中に誘ってくれる。シングル『sharp #』に収められていたザ・クリブスのカヴァー曲“Tonight”においてさえ、軽やかに弾けるシンガロングを促してくれる。もはや信頼のバンド・グルーヴだ。

ドリーミーなキーボード・フレーズとギターのリフレインが織り成すのは、8/8にリリース予定のニュー・シングル曲“Lightdentity”。ちょっとメンバーの呼吸が乱れた部分もあったけれど、これまた記憶の深い部分にタッチしながら感情と情景を引き出してくれるナンバーだ。捩れたメロディが小気味好い“ランデブー”では、演奏の途中に澤村が放つ一言を聴き取り、後ほど物販で答えを伝えるとおみやげが貰える、というクイズ・コーナーが。正解は「ゴルゴ13」。さすがに僕は遠慮したけれど、おみやげって何だったんだろう。「どうですかサヤコさん?」「今日は、うまく言えたと思います。さっき、楽屋で読んでました」と絶妙にヒントも付けるサーヴィスだ。

「フェスのポスターとか見ると、英語のバンド名が並んでいる中で、3文字って浮き立つんじゃないかと思っていて。けむし、とか、よだれ、とか、まあ、ねごとにして良かったんですけど(笑)。デビューした頃は、くるり、ミドリ、ねごと、って言われたいねって言ってて。だから今日は、元・ミドリの後藤まりこさんと一緒にやれて嬉しいです」と蒼山。そんなひとつの達成感とその先へと向かう気持ちをまんま引き受けてしまう“季節”のドライヴ感も素晴らしい。“drop”の後には、両A面シング『Lightdentity/Re:myend!』の後者、“Re:myend!”も披露された。和の情緒を大胆にキーボード・フレーズに織り込み、バンドの進化・深化の表れをひしひしと伝えてくれる。

そして“sharp ♯”を披露するとき、蒼山は「自分の中にある優しさとか愛とかって、もしかしたら独りよがりなものなんじゃないかなって思うときが、私にはあります。でも、一歩じゃなくて半歩でも前に進みたいし、自分の中で信じてる光を信じたいし、皆さんをちょっとでも押せたらなって思って、この曲を書きました」と語っていた。思考するが故に人類が逃れられないその普遍的なテーマを抱え込んだまま、彼女たちは力強いバンド・サウンドと共にまた一歩を踏み出す。最後は堂々の“夕日”だ。短い時間ながら、ねごとの躍進の原動力に触れるようなステージであった。

■後藤まりこ
手元のヴォイス・エフェクターのサンプリング機能を使って「後藤まりこです後藤まりこです後藤まりこです光の速さで299792458リキッドルームお久しぶり後藤まりこです」とぶっ飛んだループ挨拶からスタート。ねごとの澤村が予想していたとおり(知ってたのかもしれないけど)純白のワンピース姿で登場した後藤まりこである。バンド・メンバーは、A×S×E(G.)、千住宗臣(Dr.)、仲俣りぼんちゃん和宏(Ba.)、渡辺シュンスケ(Key.)という屈強のメンツ。狂音のアンサンブルとメロウ&スウィンギンなパートとの間を行き来しながら《それよりもこっちへおいでよ》と甘い危険の中へ誘い込む“ドローン”からパフォーマンスがスタートだ。

まず、このバンドはヤバい。仲俣の力強いことこの上ないベースと、スコンと突き抜けるスネアをはじめ鋭利なビートを乱舞させる千住のドラム。ノイズを撒き散らしながら不協和音のスリルを思うさま描き出してゆくA×S×Eのギター、そして情緒の根幹に触れるためだけに繰り出されるような渡辺のジャジーなピアノの旋律。いまにも破綻しそうなのに絶妙にキャッチーさをキープし続けるという、バンド全員で一台の一輪車に乗って綱渡りをしてみせるかの如き演奏なのだ。

そんなバンドの描き出すサウンドが、そのまま後藤まりこの危ういパーソナリティでもあるということ。彼女が喚き立てまくしたてるヴォーカルは、音程を外しまくっているのに、その向こうに楽曲が予め備えた鮮烈で瑞々しいメロディを受け止めさせてくれる。愛らしく、暖かいヴァイブレーション。後藤まりこは、我々の知っているあのミドリの後藤まりこに他ならないのだが、表現衝動をより大きな肯定性で包み込み未来に届けようとしている。この歌は、このポップ・ミュージックは、凄い。この時点で確信した。今後世界は、以前よりも一層強く、後藤まりこを抱きしめることになるだろう。

パンキッシュに疾走する“ままく”から“M@HφU☆少女。”。 アドリブの歌詞まで詰め込み、ワンピースの裾から太ももを晒す。パフォーマンスの凄絶さに息を呑むようにしながら、交互に押し寄せる痛みと巨大な肯定性に後押しされて、オーディエンスは一曲ごとに爆発的な歓声を浴びせていた。シンバルが割れてしまったのか演奏中に交換しているときにさえ、後藤もスティックを力一杯振るっている。ゼンマイ仕掛けのようなガジェット感が溢れるユーモラスなナンバー“うーちゃん”が滅茶苦茶かっこいい。シャウト気味なのにキュートに響く歌。ギターを手放した後藤まりこは、余りにも奔放だ。

チャーミングなメロディのラヴ・ソング“ゆうびんやさん”では「プルプルプルプル、ダーリンですかー?」とミュージカル風の寸劇も挟み込まれる。「じゃあリキッドルームに会いにきて! わかったー!?」とオーディエンスを喜ばせながらノリノリだ。チープな演技ではあったけれどこのとき、彼女が出演するミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(上演台本/演出:大根仁、共演:森山未來)のことを思い出し、ぜひ観に行ってみようと考えてしまった。

「まだこの機械(手元のヴォーカル・エフェクター)と仲良くなってないから、頑張って仲良くなるわー。ねごとちゃんはどうやった? 良かったやろ? これからまた、僕もねごとちゃんも頑張ってやってくんで……いま、プシュっていったー!!」。ギターを手放した後藤まりこは、A×S×Eへのツッコミも鋭い。この後には、アルバム『299792458』にすら収録されない新曲も披露された。彼女は、圧巻の爆走アンサンブルを完璧に着こなしてみせる。

ワンピースのままフロアのオーディエンスに支えられて立ち、歌う“ユートピア”を、頭上で仰向けに倒れ込むようにフィニッシュ。そして最後は“あたしの衝動”だ。こんなにも混沌としたパフォーマンスとサウンドなのに、楽曲の開放的なキャッチーさと艶が際立っていて驚かされる。マイク・スタンドを思い切りステージの床に叩き付けて、後藤まりこは完全にシーンへと帰ってきた。アンコールでは、バンド・メンバーが楽器も手に取らずに手拍子やダンスで囃し立てるアカペラ曲“HARDCORE LIFE”を披露。今後もライヴ・イヴェントへの出演(さしあたって6/9には心斎橋BIG CAT)、そしてアルバム・リリースにミュージカルと、今夏の後藤まりこはまた強烈な存在感を見せつけてくれそうだ。(小池宏和)


セット・リスト

ねごと
01: NO
02: メルシールー
03: ループ
04: Tonight
05: Lightdentity
06: ランデブー
07: 季節
08: drop
09: AO
10: Re:myend!
11: sharp #
12: 夕日

後藤まりこ
01: ドローン
02: ままく
03: M@HφU☆少女。
04: うーちゃん
05: ゆうびんやさん
06: 新曲
07: ユートピア
08: あたしの衝動
EN: HARDCORE LIFE
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