ザ・エックスエックス @ LIQUIDROOM ebisu

ザ・エックスエックス @ LIQUIDROOM ebisu - pic by TADAMASA IGUCHI (IN FOCUS)pic by TADAMASA IGUCHI (IN FOCUS)
ザ・エックスエックス @ LIQUIDROOM ebisu
9月に全世界が待望する新作(という言葉がこれほど似合う作品も珍しい)『Coexist』をリリースすることを発表し、その前哨戦とも言う形で一夜限りの来日公演が実現したザ・XX。会場となったリキッドルーム恵比寿はソールドアウトの超満員。一昨年のフジ・ロックで来日を果たしているものの、その前の単独公演がキャパシティ数百人単位の代官山UNITだったことを考えると、少なからず感慨を覚えてしまう。ダブステップでもなんでも呼び方はどうでもいいが、ジェイムス・ブレイクと並んでUKの新世代を象徴する彼らの表現は、寡黙にして静謐なものだ。しかし、ファースト・アルバムのリリースから約3年の時を経て、彼らの表現はこうした形で市民権を得ることになった。そして、今日のライヴで注目していたのは、世界レベルで100万人単位のリスナーを抱えてしまった今、来たる新作からの楽曲も含めて彼らのパフォーマンスがどれだけのスケールを獲得しているのか、ということだったのだが、初めに言ってしまえば、その答えはあまりにも鮮やかなものだった。

ステージの上には所狭しと機材が並べられている。遠目から確認できたものだけでも、簡単なドラム・キット、ミキサーの卓、MPCと思われる叩いて使うサンプラー、キーボードが2台、グロッケンシュピール的なるもの、電子ドラムが2種類。これ、すべてジェイミーが一人で扱う楽器になる。ステージ向かって左にはロミーのギターが、右にはオリヴァーのベースが立てかけられている。この構図を見ても分かる通り、バンドの佇まいでは最も地味と思われる(失礼)ジェイミーだが、彼こそがこのバンドの頭脳でありプロデューサーであることが一目で分かるステージになっている。そして、それは物理的な面だけを見ても、ファースト・アルバムのツアーと較べて随分と拡張されている。

定時をだいぶ過ぎて、ようやく満員の観客が会場に入りきった頃、客電が落ちる。照明がぐるぐるとサーチライトのようにステージを照らすなか、3人が登場する。黒ずくめの衣装、まだ20代前半の若さ、そのあたりはファースト・アルバムの頃とまったく変わらない。髪型のせいだろうか、いくぶんジェイミーが凛々しくなったように見える。ロミーが静かにギターを弾き始める。ファースト・アルバムで聴いてきたあの音色だ。でも、聴いたことのないメロディーに新曲であることを確信する。ジェイミーは生ドラムでリズムを刻む。こんな光景は前回のツアーでは見たことがなかった。ストロボの閃光がステージを覆うが、彼らの音楽が内包する沈黙は変わらない。曲が終わった後、一回間が起きる。そこから拍手と歓声が巻き起こる。そう、その静けさに予定調和はない。これこそがザ・XXのライヴだ。

2曲目は、代表曲の一つと言っていい“Islands”。なのだが、出だしでオリヴァーがベースの入りどころを間違えてやり直し。客席からは笑い声も起こっていたし、実際、今回の来日公演はこれからのフェス・シーズンに向けてのテストの意味合いも多分に含んでいたと思う。だけど、個人的にはこのミスにぐっと来たというか、ザ・XXの音楽は非常にシンプルなアンサンブルで構成されているが、その間合いという意味での難易度の高さを象徴するようなシーンだったと思うのだ。2回目は当然のことながら、うまくいったが、彼らのアンサンブルが持つ繊細さを、一つも聴きもらすまいといった様子で客席も聴き入っている。そのまま間髪入れずにダブステップ風のリズムトラックから“Heart Skipped A Beat”へ。この日のライヴで驚いたのは、ファーストの楽曲も新たにリアレンジされていることが多かったこと。この“Heart Skipped A Beat”のイントロも象徴的な場面だったが、ジェレミーの扱う楽器の幅が広がったことによって、もう一度ファーストの曲も再発明しているような印象を受ける。でも、相変わらずジェイミーはMPCの手打ちでリズムトラックを紡ぎ出していく。

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3曲目まで終わったところでオリヴァーが話し始める。「コンニチワ」「アリガト」といった日本語を交えたMCで、今時珍しくもなんともないMCだが、あれ、こんなに日本への距離感が近いバンドだったっけ?という驚きも感じる。4曲目からはバックに引かれた白い幕に映像が映し出される。オリヴァーはハンドマイクで歌いながら、手元のウィジェットからも音を出している。ジェレミーは電子ドラムを叩きながら、片手でピアノを演奏。これも新曲だろうか。続く“Basic Space”もキックの音が、ファーストのツアー時に較べて格段に太くなっている。楽曲のインターミッションもまったく違う展開に。ザ・XXが2009年に登場した時、彼らを「コンセプト」のバンドと感じた人は多いのではないだろうか。透徹した視点で、愛と、孤独と、悲しみを静かに鳴らす弱冠20歳の若者たち。けれど、こうしてファーストの曲を刷新して、どんどん肉体化していく姿に逞しさを感じる。それを象徴していたのが次の“Infinity”だ。「Give it up」「I can't give it up」というロミーとオリヴァーの掛け合いが印象的な曲だが、劇的にしようと思えばいくらでも劇的にできるこの曲を、彼らはその緊張感だけを残したまま、過度に盛り上げることなく締めくくってみせる。そのリアリズム、それこそがザ・XXの肉体であり、彼らのロックの形と言える。

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“VCR”“Crystalised”というファーストのシングル群の後に演奏されたのは“Fantasy”。アルバムでは小曲と言える曲だが、非常に太いベースラインはこれまでの彼らのライヴでは聴くことができなかったもの。おそらくジェイミーが出していたものだと思うが、大きな成長を感じる。そして、その真骨頂とも言えたのが、アルバムと同様の流れで演奏された“Shelter”だった。そもそも、このバンドが不思議だったのは、非常にダンス・ミュージックに近い音楽性を誇りながら、部分的にしか打ち込みは使わず、人力で、あの独特のグルーヴとアンサンブルをするのは何故なのか、ということだ。しかし、この日のライヴを観て、ようやく分かったというか、生演奏が生み出す揺らぎ、そうした打ち込み全盛の現在からは零れ落ちてしまうもの、そこにこそ彼らの本質があるのではないか、“Shelter”のパフォーマンスを見ながら、そんなことを考える。そして、だからこそザ・XXというバンドは、非常にミニマムな表出として現れるマキシマムな感情を表現できるのだ。

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本編最後は“Night Time”を挟みつつも新曲の嵐。さきほどの“Shelter”からは一転、ファットな四分打ちのトラックをバックに、メドレー形式で演奏されていく。手元のメモではこの日全体で6曲の新曲が演奏されたと思うのだけど、この時“Shelter”の後に演奏された楽曲がなかでも素晴らしかった。そして、最後に演奏された新曲はロミーのギター・ソロで終わる珍しいタイプの楽曲。ザ・XXらしい、形だけの熱狂とは違った余韻を残して3人はステージを降りていった。あまり間を置くことなく始まったアンコール、1曲目に演奏されたのはファースト・アルバムの冒頭を飾る“Intro”。この日最大かと思うような歓声が客席から巻き起こる。“Intro”というインストの楽曲がこれだけ盛り上がる事実に、このバンドの特別さがある。そのサウンドが、アンサンブルが、ビートがちゃんと物語を語る装置になっていることを証明するような光景だ。非常にグルーヴィなベースラインを持つ新曲を挟んで、最後の最後に演奏されたのはファースト・アルバムの最終曲“Stars”。素晴らしい歌詞も含めてソリッドな情感を湛えた曲だが、なにかを鎮めるかのように3人はこの曲を演奏していく。3人の呼吸の微妙なズレや交感がそのまま、曲にエモーションを与えていく。まだセカンド・アルバムの全貌は分からない。でも、この日のライヴを観て抱いたのは、その本質をまったく変えることなく、サウンドを拡大させることによって、二度目の「革命」を起こす準備が整っているという実感だった。9月リリースの新作『Coexist』、その全貌を聴くことができる日が楽しみでしょうがない。(古川琢也)
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