石毛輝 @ 渋谷WWW

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石毛輝 @ 渋谷WWW
2枚目のソロ作品『My Melody(Diary Of Life)』のリリース・ツアー、東名阪3本のファイナル。2011年1月に出た1枚目のソロの時は、ライヴは渋谷タワーのインストアしかやらなかったので(ちなみにドラム:アヒトイナザワ、ベース:ポリのフミちゃん、ギター:HINTO伊東真一、という豪華メンバーでした)、ちゃんとチケット売って行うライヴはこの3本が初めて、ということになります。既報のとおり、ドラムはmouse on the keysの川崎昭、ベースはZAZEN BOYS吉田一郎、あと、自ら参加を名乗り出たというthe telephonesノブ、そして本人、という4人編成でのステージ。
WWWに到着し、ステージに設置された楽器たちを見て、まずびっくりしたこと。ステージ中央のノブの位置に、キーボード、2台ある。その間に、ミキサーだかサンプラーだかわからないけど、なんか機材もある。これ、全部操るのかな、ノブが。結論から言うと、操ってました。1曲目“The New Year Song”は、石毛とノブが2人で1台のシンセを連弾するところからスタート。その後もノブ、「シンセでソロを弾く」「時には座って弾く」「石毛にシンセを任せて自分はギターを弾く」などなど、こう言うと語弊がありますが、まるで、ミュージシャンのようでした。あんなにいっぱい楽器に触っているノブ、初めて観た。

って、これはノブではなく石毛輝のライヴレポなので話を戻します。1枚目のソロ『from my bedroom』とそのライヴの時も思ったが、このライヴも(作品も)、本当にストレスのないものだった。僕にとってとか、お客さんにとってという以前に、本人にとって。音やパフォーマンスに、邪気とか、邪心とか、打算とか、そういうものが本当ににない。聴けば明らかなとおり、1枚目と2枚目、音楽的にはかなり違う内容だけど、そこは共通している。で、ライヴになると、プレイヤーは一流だし、ノイズや効果音みたいなのも含めて出ている音はいちいちきれいだし、石毛とノブ、鉄琴を叩いたり、メロディオン(鍵盤ハーモニカね)を吹いたり、曲によっていろいろパフォーマンスが変わって楽しい。ステージ後方両側のモニターにも、グラフィックとかいろいろ映るし。なので、途中までは、ただただそこに身を任せて、無心に気持ちよさを味わっていたんだけど、7曲目あたりで「しかし、ほんと、これほどソロをやるのが自然な人、いないよなあ」と思ってから、「……ちょっと待て」と気づいた。
思えば、1枚目のソロが出ると知った時も、僕は「へえー」とすら思わなかった。「そうか、そりゃやるよな、ソロ」と、すんなり納得した。なんで? ちょっと考えてみる。

石毛輝 @ 渋谷WWW
そもそも、バンドのフロントマンがソロをやりたくなる時とはどういう時か。大きく分けて3つのパターンがあります(ほんとはもっとあるけど、全部列挙してると大変なので、ここでは3つと言わせてください)。ひとつめは、メンバーが自分の思うような音を出してくれないので、違うミュージシャンの演奏で、あるいはひとりで、作品を作りたくなった時。ふたつめは、フロントマンはどんどん作りたいのに、メンバーはそこまでハイペースで活動をしたがらない、という時。忌野清志郎が1stソロ『RAZOR SHARP』を作った時の事情がこれですが、あの時期の清志郎、ほんとに狂ったようなハイペースで量産していたので、メンバーがギブアップしたのも無理ないと思います。この1と2の場合、音楽性の根本は、バンドとソロとでは、そんなに違いません。で、パターン3は、自分のバンドのフォーマットでは、やるのが難しい曲ができてしまった、という時です。この場合、バンドとソロでは、全然違う音楽性になります。石毛はこれ。しかも、おそらく最初は「バンドとは違うものをソロでも作ろう」とかすら思ってなかったんじゃないかと思う。ただ作ってしまったというか、できてしまったんだと思う。で、できたはいいけど、これthe telephonesでやるにはどう考えても無理がある、じゃあソロかな、みたいなことだったんじゃないかな、と、お察しします。
こんなに明快な、それこそ「聴けばわかる」理由でソロをやっている人、やれている人、今、石毛輝と星野 源だけだと思う。って、並列にする必要はありませんが。あ、ハマケンは除きます、「バンドとソロ両方やってる」と「バンド2つやってる」は、全然違うものなので、意味合いが。

だから、ソロをやっている時の石毛は、すごく無防備だ。the telephonesの時は、時にシニカルだったり、時に攻撃的だったり、時に絶望的だったり怒りに満ちていたりフラストレーションを爆発させていたり、と、あの狂騒的なまでにディスコでパーティーな音の中に、いろんな感情や意志や思想が渦巻いているけど、ソロで出す音は、「うれしい」「かなしい」「さびしい」「せつない」「ここちいい」みたいな、すべて平仮名で書きたくなるような、シンプルな感情だけでできている気がする。下のセットリストを見れば明らかだけど、1曲1曲が「僕が好きなもの」みたいなタイトルだし。みたいというか、実際にそうだ。MCで自ら説明していた。アンコールでやった“I Wanna Go To FLAKE”は、大阪のレコードショップのことだし、ラストの「K.E」は、「ボスのことが好きなので」だそうです。事務所のボス、UKプロジェクト代表取締役の遠藤幸一さんのイニシャルってことです、曲名。the telephonesにも、弦先誠人&神啓文&タイラダイスケのDJチームに捧げた“FREE THROW”という曲があるし、「好きな人(もしくはもの)に捧げて書く」ということを、元々よくやる人ではあるんだろうけど、FREE THROWに捧げるのと、事務所の社長に捧げるのでは、段違いだと思う、無防備さが。

石毛輝 @ 渋谷WWW
だから、言うまでもなく、石毛のソロは、the telephonesあってこそのソロだ。人は普段から、そんなふうに無防備には生きていけない。生きていける人もいるかもしれないが、石毛はそういう地点に立っているアーティストではない。だからthe telephonesでの石毛は、ああいうふうにバンドをやっている。ビートは性急だし、歌詞は英語だし、「気分よく楽しい」んじゃなくて「強迫的でヤバくておかしくなっちゃうくらいの楽しさ」を追い求めるような音を作っている。
じゃあソロは余暇なのか? そうだと思う、ある意味では。ただし、この石毛ソロの、心配になるくらいの無防備さには、聴く人、観る人のテンパリをぐずぐずに溶かしていくような、そんな伝染性がある。つまんないこと言いますね。つまり、観ていると、幸せになってしまうのです。で、俺は、こんなふうに、邪心や計算や打算ゼロで、本当に「これがやりたい」というピュアな衝動だけでもって、何かを作ったり、何かをやったり、何か行動を起こしたりしたことって、あったっけ。というようなことまで、考えてしまったりするわけです。
何か、自分が丸腰にされたような、もっと言うと丸裸にされた感覚になっていた、本編が終わる頃には。つまり、聴く人に「自分と向き合う」ということをさせる音楽である、ということだ。石毛本人は、きっと、そんなこと意識してないだろうけど。でもなんか、すごい威力があった、この無防備さには。

蛇足。ことあるごとに、しゃべってみたり、Winkみたいな振り付けをくり出したり、ZAZEN BOYSのあの人とは同一人物とは思えないほどいろいろやっていたベーシスト吉田一郎、アンコールではサングラスをかけ、ノブと掛け合いでラップ合戦みたいなのまで披露しました。「ノブ! 元気なのか!」とか言いながら。石毛も川崎昭も、オーディエンスもみんな爆笑。もちろん私も。これ、ビデオに撮って向井秀徳さんに見せたいなあ、と、思いました。(兵庫慎司)

セットリスト
1 The New year Song
2 Fireworks
3 Flowers On The Wall
4 Lunar Eclipse
5 Machu Pichu
6 Through Dark Night
7 Memory of Eternity
8 My Love
9 Untitled
10 Mount Tsukuba
11 Red Cat
12 My Hometown

アンコール
13 My Sweet Cat
14 I Wanna Go To FLAKE
15 K.E
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