all pics by 俵謙介8月の「ROCK IN JAPAN FES.2012」出演以来となるライヴ。彼女は、この夏から秋にかけて全国各地のフェス~イベント出演が続いており、そんな間隙をぬってのライヴハウス出演。意識もそうだが、なによりカラダがすっかり大会場でのライヴマナーを会得していて、ライヴハウスには過剰とも思えるエネルギーが放たれる、堂々のステージだった。
この日はライヴハウスDESEOの企画「natural mode.」の一番手に登場。より多くの人に自分のライヴを見てもらおうとする彼女はホームページでの無料ご招待企画も一部行っていたのだが、そのためかDESEOの場内は開演時からなかなかの賑わいとなった。そんな中、3人のホーン隊を含む総勢7人といういつものバンドとともに登場した彼女。まずはオープニングで、バンド一体となった音出しから伸びのあるヴォーカルのフェイクで一気に場の色を作っていくのだが、この様子からしてすでにライヴハウスのスケールではない。夏フェスでの、目の前に集まってくれているオーディエンスだけでなく、遥か遠方を通り行く人々をも振り向かせて本懐とする、「伸び」だけでなく「想い」をしっかり封じ込めた声色が、たちどころに場内の空気を豹変させていく。しかし、そこから勢いで押し倒すのではなく、どちらかというとミディアムスローなテンポであなた(達)と出会えたことの奇跡を噛みしめるように歌う“here”で聴き手との親密感を丁寧に築いていくところが、この人のライヴの面白いところ。こちらも冒頭からいきなり登場するコントラストにちょっとした目眩を覚える瞬間が、いい快感になりつつある。もっとも、歌い終わるや今度は満面の笑顔で「こんばんは、溝渕 文といいます。ありがとうございます。頑張ります」といった素朴な一言ですぐさま軽快な2曲目“key”に突入し、そこからはフレンドリーな場を作っていく気の置け無さもポイントなのだが。
間奏部分でサックスがフィーチャーされるところでは、手拍子を交えながらステージを左右にステップする様子もすっかりフェス慣れした軽快さで、オーディエンスにもジャンプや手拍子を行き渡らせ場内の風通しを爽やかなものに変えて行く手法も最早お手のもの。普段はここで挨拶~自己紹介を入れてくるところなのだが、この日は意外にも間髪入れず「ワン、ツー…ワン、ツー、スリー、フォー!」の掛け声とともに、さらにたたみかける新展開が登場。曲は“CHARGE”という、昨年のメジャー・ファースト・アルバム『アサガタノユメ』に収録されている曲なのだが、ここではスカ風の跳ねるビートでアレンジした新バージョンで登場。ララララ~という覚えやすく合唱しやすいコーラスも効果的なこの曲を、一層ライヴ向きに仕立て直してくる意欲も見せる。
ここで入った挨拶で「およそ1ヶ月ぶりのライヴになります。この間、ライヴをやりたくてうずうずしていました。今日はそんな気持ちを出し切ります」とやたら熱っぽい様子を見せるも、しかし話は手短に、続いてはマイクスタンドを用意し両手にハンドべルを握りしめて歌う “結晶”へ。ここでは一転してスローテンポ、ステージ上も暗転するなどミステリアスなイントロの中、彼女が時折両手を合わせてベルの音色を響かせるアイデアがステージに良い緊張感を持ち込む。それでもいざ歌い出すや、敢えて抑えめに演奏するバッキングからどんどんはみ出して行くように自由自在な歌声で、生きていくこと~歌うことへの情熱をてらいなく歌い込んで行く光景はいつもながらにシリアス。彼女のライヴを見る度に、この場面での情感がどんどん高まっていく姿を見るにつけ、表現する者としての終わりなき業のようなものが一層顕わになっているような気がする。
そんな濃いめのメニューによるステージは時間が経つのがあっという間で、「ありがとうございます。あと2曲です」という彼女の言葉で、こちらも深いトランス状態からふと我に返ったりする。ここからは赤いエレキギターを抱えて歌う彼女。「最近ますますギターが好きになって、手放せなくなりつつあります」と無邪気な調子で語ったところから始まる曲は 、ギターをじっくりとしたアルぺジオでつま弾く姿も美しい“マリー”。序盤、出会えたことの大切さを噛みしめるように歌いながら、途中からバンドの演奏が入るや一気にエモーショナルな叫びが放たれるこの曲も、彼女の持つダイナミズムをうまく1曲に封じ込めたもの。そしてラストは明日に向かう勇気と決意を歌う“坂本橋”。ぐんぐんラウド感を増して行くバンドの音量に負けない、というか渾然一体となってギターをかき鳴らし、残されたエネルギーを全て出し切るかのようにマイクに向かって熱唱する姿はまるで野外フェスの佇まい。届け!という想いが声に姿にギターストロークにみなぎった、それこそ凄味さえ漂わせた締め括りとなった。
最後の最後、バンドの演奏が終了しても彼女の弾いていたリズムギターの余韻だけが響き渡っていた場内。その残響をビシッとしたストロークで豪快に締め括る姿も、また新たな見せどころになりそうな予感を漂わせながら、悠然とした足取りでステージを後にしていった彼女。今月もまだまだフェス・イベント参加が続く彼女は、今月15日(土)に地元・香川県小豆島での「shima fes SETOUCHI 2012」に登場。そして30日(日)には福岡で開催される「MUSIC CITY TENJIN」への出演など(15時のソラリアプラザゼファステージと、17時のMCTin博多駅ステージと2回出演)、今後も活発にライヴを重ねていく予定だ。(小池清彦)
セットリスト
1 here
2 key
3 CHARGE
4 結晶
5 マリー
6 坂本橋