The SALOVERS@渋谷CLUB QUATTRO

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「The SALOVERS秋集ワンマンツアー2012 サラバーズ珍道中~あきあきするよ~」と銘打たれたツアーの最終公演となる今夜、ライヴは古舘佑太郎(vo、gt、pf)の「生物生育空間へようこそ!」というMCからの“ビオトープ-生物生育空間-”~“チンギスハンとヘップバーン”、つまり9月5日にリリースされた彼らのメジャーデビュー作『珍聞完聞-Chin Bung Kan Bung-』のオープニングを再現する流れで幕を開けた。乾いたスネアとゴリゴリのベース、さらにリヴァーヴを抑えた2本のギター(今日は最初から最後まで、ギターの出音が素晴らしかった。余剰な装飾を剥いだ、ルーツ・ロックンロールのそれに限りなく近い音が鳴っていた)が織りなす無骨なグルーヴに、いきなりフロアも大興奮の様相を呈している。初っ端からトップギアである。

 その後、“仏教ソング”、“サイケデリックマリー”と『珍聞完聞-Chin Bung Kan Bung-』からの曲が矢継ぎ早に畳みかけられていくと徐々に、「ツアー初日と比べれば(自分たち)別人ですから。そこを皆さんが味わってくだされば嬉しいです」と古舘も自信に満ちたMCをしていたが、音源の演奏と比べてもずっとタイトに、アンサンブルにまとまりが増していることに気付かされる。個人に目を向けても、特に、観る度に派手に流麗になっていく藤井清也(gt)のギターソロの成長速度には目を見張るものがある。バンドとしても個のミュージシャンとしても成長期にあるというのは、ロックンロール・バンドにとって最も健全かつ幸福な季節に立っていると言えるだろう。

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 ライヴ中盤では、長時間のセットを組めるワンマンだからこそ今までやったことがないことに挑戦する、と断りを入れた後、暗転した舞台の上スポットに照らされた古舘がピアノを弾き語るシックなスタイルで“サイゴンで踊ろう、雨のダンス”が披露される一幕も。そのまま“雨降りのベイサイド”、“夏の夜”とスロウ・ナンバーを3つ続けて歌い上げたのだが、このスロウ・ナンバーの固め打ち、各曲の良さももちろんだけれど、加えて、そこから再び激しい曲(=“狭斜の街”)に戻った際、まるで振り続けたコーラのキャップを開けたかのように一気にフロアの温度が上がっていたのが痛快だった。転調による緩急を多用するバンドだが、曲単位でもこうしたメリハリを付けられることは、今後さらに曲が増えていくにつれ益々大きな強みとなっていくのではないだろうか。

 今日のハイライトは、「ツアーをまわって一番もらった言葉が、「MCが下手すぎる」だった」という苦笑混じりの告白をきっかけに披露された古舘の落語でややリセットされたフロアの熱気を再度爆発させた“China”~“オールド台湾”~“ディタラトゥエンティ”の流れ。特に、「台湾行きたいかー!!」という古舘のアジテートにオーディエンスの大多数が両手を挙げて応えた“オールド台湾”の一体感は格別だった。≪オールド台湾 行ってみたいわん まさに理想の国 眠る獅子と龍と爆竹がチンドン 目を閉じればそこは 台湾!≫というサビで(しかしこの曲、今さらながら、全リリック写経したくなる衝動を抑えるのが大変だ。ユーモア、野心、ロマン、その全てが簡易な言葉でやけくそ気味に詰めこまれた発明モノの大傑作だと思う)声を張り上げ続けるところで、古舘のヴォーカルがやや辛そうになる場面もあったのだが、フロアのシンガロングの大音声がそれを覆っていく様が却って感動的であった。
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『珍聞完聞-Chin Bung Kan Bung-』の何が最高だったかといえば、若いバンドのメジャーデビュー作にありがちな無駄に豪華なサウンド・プロダクションなど眼中にすらないといった趣で、メッキもハリボテも纏わない裸のサラバーズを封じ込めていたところだったと思っている。裸のサラバーズ、それはつまり、暴発スレスレのところで弾け続けるリズム、かなりの割合でビートを叩き出すための打楽器と化しているギター、そして「歌う」というより「言いたい言葉を出来得る限りデカイ声で放つ」ようなヴォーカルである。今、目の前にいるままの彼らである。それはもちろん、はっきり言ってしまえば、極端で、不完全で、未成熟なものだ。しかし、その未成熟ゆえに聴き手が入りこむ隙が生まれ、この“オールド台湾”の一体感に繋がっていることを思うと、まさにそれこそが今のこのThe SALOVERSというロックンロール・バンドの最大の魅力となっていることを認識させられる。欠落をただのマイナスではなく、チャームとして宿すことができる、いや、恐らくは自然とできてしまっているバンドなのである。

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 アンコールでは古舘の弾き語りにて「秋に似あう曲が出来た」という新曲を披露したり、次の“何処かの土地に”では音源にも参加しているシンガーソングライター田中茉裕をステージに招き、アウトロで軽めのセッションを繰り広げたり(コーラスも担当)と、早くも新しいフェーズの幕開けを垣間見せてくれたサラバーズ。今日も告知があった、来年2月に決定している2マンツアー「The SALOVERS LOVER MATCHシリーズ 対バンツアー」の頃には、また今日からは別人のように新しい姿になっているのかもしれない。目が離せない、というか、目を離してはいけないと思う。(長瀬昇)

セットリスト
1. ビオトープ-生物生育空間-
2. チンギスハンとヘップバーン
3. 仏教ソング
4. サイケデリックマリー
5. Hey My Sister
6. SAD GIRL
7. City Girl
8. フランシスコサンセット
9. サイゴンで踊ろう、雨のダンス
10.雨降りのベイサイド
11.夏の夜
12.狭斜の街
13.曇り空
14.パエリア
15.サルたち
16.China
17.オールド台湾
18.ディタラトゥエンティ
19.愛しておくれ

En1. 新曲
En2. 何処かの土地に
En3.サリンジャー
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