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    ビーチ・ハウス @ LIQUIDROOM ebisu

    ビーチ・ハウス @ LIQUIDROOM ebisu - All pics by KAYOKO YAMAMOTOAll pics by KAYOKO YAMAMOTO
    ビーチ・ハウス @ LIQUIDROOM ebisu
    2011年のフジ・ロック以来、1年半ぶりとなった今回のビーチ・ハウスの来日公演。単独公演としては初めての公演になる。前回のフジ・ロック時は、大出世作『ティーン・ドリーム』を引っ提げてのお披露目的な意味合いが強かったが、続けて『ティーン・ドリーム』に負けない傑作、『ブルーム』を完成させ、昨年末のイヤー・エンド・チャートでも軒並みランクインすることになった。その意味で、今回の単独来日公演は、ついにこのバンドの全貌が見られる、そんな機会だったと言える。

    サポート・アクトを務めたのは、昨年のダーティー・プロジェクターズの来日公演にも出演したダスティン・ウォング。客電が落ちる前にステージに登場し、7年前にボルチモアのレストランでビーチ・ハウスと共演したエピソードを語りだす。そして、「今日も楽しんでください」という言葉からステージは始まったのだが、ループ・ペダルによって超絶技巧のギター・フレーズを重ねていくプレイ・スタイルは今回ももちろん健在。約40分に亙って、ほぼノンストップで繊細かつリリカルなアルペジオが積み上げられ、桃源郷のような世界観を花開かせていく。彼のライヴを観るのは2度目だが、今回感じたのは、時折ミスタッチもあるものの、基本的にそのピッキングが美しいこと。だからこそディレイやフィルターをかけることによって、その音は自在に表情を変えていく。靴を脱ぎ、椅子に座って、ペダルを踏みながら演奏するのが彼のスタイルだが、最後は立ちながらスクリームも披露。ダーティー・プロジェクターズの時と同様、ステージ後には感嘆の溜息とともに大きな拍手が送られていた。

    そして、ピンク・フロイドの“イビザ・バー”やニルヴァーナの“ビッグ・チーズ”といった、これぞビーチ・ハウスなBGMが流れるなか、ほぼ20時ちょうどに、場内は暗転。ついに本日の主役の登場となる。プリンスの“Beautiful Ones”に乗って、ドラマーのダニエルを含めた3人がステージに入ってくる。中央のキーボード・セットにヴィクトリア、ステージ向かって左にギターのアレックス、そして右にダニエルという配置はフジ・ロックの時と変わらない。ゆるやかなビートと鮮やかなギターのアルペジオから始まった1曲目は、最新作『ブルーム』から“Wild”。ステージのバックには、ハープのようなスリットの入ったスクリーンが何枚も立てられていて、逆光の照明がそれを照らし出す。そのため、ステージ上の3人はほぼシルエットしか見えない。そして、ビーチ・ハウスのライヴで特筆すべきは、なんといってもヴィクトリアのヴォーカルである。「ドリーム・ポップ」という言葉で語られ、儚いイメージのあるビーチ・ハウスの音楽だが、ライヴで聴くことのできるヴィクトリアのヴォーカルは力強い。彼女にとって「夢」は、ファンタジーやフィクションではなく、あくまでリアルなのだと語りかけるように、その声は大きな存在感を持っている。

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    2曲目は、前作『ティーン・ドリーム』から“Walk in the Park”。後ろのスクリーンが照明の具合によって透けて、この曲の湛える幽玄な世界が視覚的にも広がる。このスクリーンにしても、いわゆる豪奢な演出ではなくて、むしろ照明のバックライトとスクリーンだけによるアナログなものなのだが、それが実にこのバンドらしい。キーボードとギターとドラムという、決して十分とは言えない編成でありながら、自身の世界を毅然と立ち上げようとするバンドの姿勢が、こうしたところにも象徴的に表れている。「コンバンワ」という日本語のMCを挟んで、“Other People”“Lazuli”と新作からの楽曲が続く。どちらの曲でもヴィクトリアのヴォーカルもすさまじいことになっている。フジ・ロックで観た時も、そのブレない声には驚かされたが、『ブルーム』という作品を経ることによって、彼女の声は一段と逞しくなった印象がある。その印象は、セカンド・アルバム『Devotion』の楽曲である“Gila”でも変わらない。結成から8年近くをかけて積み上げてきた凄みとも言える説得力が今のヴィクトリアにはある。

    6曲目に演奏された代表曲の一つ、“Norway”ではイントロの時点で客席から歓声が上がる。ステージのバックには星空を模した照明が広がる。座ってギターを弾くことの多いアレックスだが、この曲では立って演奏し、軽やかにステップを踏んでいる。そして、「とても古いレコード、ファースト・アルバムからの曲をやるわ」というヴィクトリアのMCとともに演奏されたのが“Master of None”。実際、もうファースト・アルバムのリリースからは6年以上が経つわけだが、これまで4枚のディスコグラフィーを積み重ねてきても、なおまったくビーチ・ハウスというコンセプトが不変にして普遍であることを物語るような楽曲だ。再び星空をバックに演奏された“Silver Soul”、夜のドライヴの映像がステージのバックに投射された“The Hours”を経て演奏された“On The Sea”ではヴィクトリアがその長髪をぐるんぐるんと振り回す。このアグレッシヴさこそ、ビーチ・ハウスの深部にある本質だと思う。コーラスでのヴィクトリアの声量もとんでもないことになっている。ここからは『ティーン・ドリーム』と『ブルーム』の名曲群を交互に演奏していく展開。その曲名通りに元旦にビデオを公開した“New Year”、再びイントロで歓声が上がった“Zebra”、強烈なバックライトの演出が印象的だった“Wishes”、『ティーン・ドリーム』の最終曲にしてライヴの定番曲である“Take Care”、そして本編最後は“Myth”。「神話」と題された楽曲によって、アレックスのつまびくアルペジオとともに神々しく、一旦ステージは幕を閉じる。

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    けれど、この日の公演が更にスペシャルなものになったのはアンコールだった。サプライズとして演奏されたアンコールの1曲目は、なんとファースト・アルバムに収録の“Tokyo Witch”。もちろん、その曲名ゆえだろうが、今回のツアーでは演奏されることのなかったこの曲を、この日は演奏。ゆったりとしたリズムの上に乗るヴィクトリアのファルセットが美しい。そして、こういうサプライズをできることこそが、如何にビーチ・ハウスがライヴ・バンドとしての筋力を持っているかを証明している。そして、後半のダニエルのドラムが途轍もないダイナミズムを生んでいた“10 Mile Stereo”を挟んで演奏された“Irene”にはサポート・アクトのダスティン・ウォングがゲストとして参加。《It’s a strange paradise》というビーチ・ハウスの世界を象徴するこの曲の一節を、ヴィクトリアは何度も繰り返す。そして、ダスティン・ウォングのギターが徐々にその音圧を上げ、臨界点を迎えると同時に、気づいてみれば、全18曲90分にも及んだステージは終わった。rockin’on編集部のブログでも触れられている通り(http://ro69.jp/blog/rockinon/77418)、この日の公演では外国人の観客から「何から隠れてるんだ?」という野次が飛ぶ一幕があった。でも、この日の公演を観て痛感したのは、曖昧模糊としたイメージで、どこかフラジャイルなものとして語られがちだったビーチ・ハウスが、むしろ逃げも隠れもせず自身の強靭な肉体によって彼らが目指す世界を体現しているということに他ならなかった。それは、多くのインディ・バンドより、ずっと逞しく、精悍なものだった。(古川琢也)

    Wild
    Walk in the Park
    Other People
    Lazuli
    Gila
    Norway
    Master of None
    Silver Soul
    The Hours
    On The Sea
    New Year
    Zebra
    Wishes
    Take Care
    Myth
    (encore)
    Tokyo Witch
    10 Mile Stereo
    Irene
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