サポート・アクトを務めたのは、昨年のダーティー・プロジェクターズの来日公演にも出演したダスティン・ウォング。客電が落ちる前にステージに登場し、7年前にボルチモアのレストランでビーチ・ハウスと共演したエピソードを語りだす。そして、「今日も楽しんでください」という言葉からステージは始まったのだが、ループ・ペダルによって超絶技巧のギター・フレーズを重ねていくプレイ・スタイルは今回ももちろん健在。約40分に亙って、ほぼノンストップで繊細かつリリカルなアルペジオが積み上げられ、桃源郷のような世界観を花開かせていく。彼のライヴを観るのは2度目だが、今回感じたのは、時折ミスタッチもあるものの、基本的にそのピッキングが美しいこと。だからこそディレイやフィルターをかけることによって、その音は自在に表情を変えていく。靴を脱ぎ、椅子に座って、ペダルを踏みながら演奏するのが彼のスタイルだが、最後は立ちながらスクリームも披露。ダーティー・プロジェクターズの時と同様、ステージ後には感嘆の溜息とともに大きな拍手が送られていた。
そして、ピンク・フロイドの“イビザ・バー”やニルヴァーナの“ビッグ・チーズ”といった、これぞビーチ・ハウスなBGMが流れるなか、ほぼ20時ちょうどに、場内は暗転。ついに本日の主役の登場となる。プリンスの“Beautiful Ones”に乗って、ドラマーのダニエルを含めた3人がステージに入ってくる。中央のキーボード・セットにヴィクトリア、ステージ向かって左にギターのアレックス、そして右にダニエルという配置はフジ・ロックの時と変わらない。ゆるやかなビートと鮮やかなギターのアルペジオから始まった1曲目は、最新作『ブルーム』から“Wild”。ステージのバックには、ハープのようなスリットの入ったスクリーンが何枚も立てられていて、逆光の照明がそれを照らし出す。そのため、ステージ上の3人はほぼシルエットしか見えない。そして、ビーチ・ハウスのライヴで特筆すべきは、なんといってもヴィクトリアのヴォーカルである。「ドリーム・ポップ」という言葉で語られ、儚いイメージのあるビーチ・ハウスの音楽だが、ライヴで聴くことのできるヴィクトリアのヴォーカルは力強い。彼女にとって「夢」は、ファンタジーやフィクションではなく、あくまでリアルなのだと語りかけるように、その声は大きな存在感を持っている。
6曲目に演奏された代表曲の一つ、“Norway”ではイントロの時点で客席から歓声が上がる。ステージのバックには星空を模した照明が広がる。座ってギターを弾くことの多いアレックスだが、この曲では立って演奏し、軽やかにステップを踏んでいる。そして、「とても古いレコード、ファースト・アルバムからの曲をやるわ」というヴィクトリアのMCとともに演奏されたのが“Master of None”。実際、もうファースト・アルバムのリリースからは6年以上が経つわけだが、これまで4枚のディスコグラフィーを積み重ねてきても、なおまったくビーチ・ハウスというコンセプトが不変にして普遍であることを物語るような楽曲だ。再び星空をバックに演奏された“Silver Soul”、夜のドライヴの映像がステージのバックに投射された“The Hours”を経て演奏された“On The Sea”ではヴィクトリアがその長髪をぐるんぐるんと振り回す。このアグレッシヴさこそ、ビーチ・ハウスの深部にある本質だと思う。コーラスでのヴィクトリアの声量もとんでもないことになっている。ここからは『ティーン・ドリーム』と『ブルーム』の名曲群を交互に演奏していく展開。その曲名通りに元旦にビデオを公開した“New Year”、再びイントロで歓声が上がった“Zebra”、強烈なバックライトの演出が印象的だった“Wishes”、『ティーン・ドリーム』の最終曲にしてライヴの定番曲である“Take Care”、そして本編最後は“Myth”。「神話」と題された楽曲によって、アレックスのつまびくアルペジオとともに神々しく、一旦ステージは幕を閉じる。
Wild
Walk in the Park
Other People
Lazuli
Gila
Norway
Master of None
Silver Soul
The Hours
On The Sea
New Year
Zebra
Wishes
Take Care
Myth
(encore)
Tokyo Witch
10 Mile Stereo
Irene