ここまで期待と注目が集まるなかで行われる新人バンドの初来日公演も珍しい。メンバー4人の平均年齢が弱冠16歳というアイルランド発のザ・ストライプスが日本に初上陸を果たした。少し前まではほぼ無名と言っていい存在だった彼らだが、昨年4月にブルースのカヴァーを収録した4曲入りのEPを発売してからというもの、地元アイルランドで盛り上がりを見せ、メジャー・レーベルによる争奪戦が勃発し、ライヴを観たエルトン・ジョンはすぐさま自分のマネージメントと契約を交わし、ジェフ・ベックから、ポール・ウェラー、ノエル・ギャラガー、デイヴ・グロールまでが彼らのライヴに足を運ぶという事態となった。そして、日本でのリリースは4月10日にリリースされた『ブルー・カラー・ジェーン-日本デビューEP』のみという状況のなか、ソールド・アウトの超満員で行われたのが、この日の初来日公演である。
この日の午前中には地上波の情報番組『スッキリ!!』に出演し、“ブルー・カラー・ジェーン”のパフォーマンスを披露した彼ら。ポケットに手を突っ込んでいて、その貫禄を早速、加藤浩次に突っ込まれていたが、そうした器の大きさはこの日のステージからも存分に感じることができた。19時8分、客席の照明が暗くなるのと同時に、渋谷クラブクアトロはすさまじい歓声に包まれる。そのなかで飄々とした風情で4人がステージに姿を現すと、更に歓声は大きくなる。ジョシュのギターが巨大なフィードバック・ノイズを立てるなか始まった1曲目はオリジナル曲の“Mystery Man”。間奏でヴォーカルのロスはタンバリンを手に取り、ジョシュは前に乗り出してギター・ソロをきめる。YouTubeでしか観ることのできなかったザ・ストライプスのステージが目の前で展開している。そんな当たり前の事実に、まずは少し感動してしまう。
その上で、ギターの上手な隣の席の男子とでもいうような身近さを纏っているのが印象的で、2曲目の“She’s So Fine”に入る時には、ベースのピートがロスに話しかけようとするものの、そんなことをしてる場合じゃないとでもいうように、すぐさま曲に突入していく。その様子は、平均16歳という彼らの日常の風景をそのまま感じさせるものだ。この曲ではジョシュもリード・ヴォーカルを披露し、このバンドの非凡さ・ポテンシャルの高さを見せつける。ロスがダミ声でドストレートなパブ・ロックを“I’m the Hog For You”で叩きつけたところで、この日初めてのMC。MCを担当するのはギターのジョシュで「コンニチワ、トーキョー、タノシンデル?」と日本語を繰り出してみせる。とはいうものの、決して饒舌なタイプではない。この後のMCも、「サンキュー」と「次の曲は……」というものが基本で、そこからも少年の顔が見え隠れする。
演奏にもまだ若い部分はあった。“I Can Tell”“29 Ways”“My Babe”と珠玉のカヴァーを次々に披露していくのだが、この日演奏された唯一のスロー・ナンバー“Stormy Monday Blues”は親心目線で見てもなかなか厳しかった。ゆったりとしたテンポ感のなかでの間(マ)やフレーズのアイディアなど、熟練のブルース・バンドと較べると見劣りしてしまう部分は確かにあった。けれど、この日会場でそんなことを気にしていたのは、ごく少数だと思う。そのカヴァー曲のセレクトも含め、「早熟」「年齢からは考えられない本格派」といった形容で語られることの多いザ・ストライプスだが、ティーンエイジャーがティーンエイジャーとしてロックンロールをやることにこそ、今のザ・ストライプスのマジックは存在している。
ロスの「オーオー」というコーラスから始まった“Ooh Poo Pah Poo”、ジョシュが「オドッテ」と言って始まった“Perfect Storm”、続いて演奏された“Hometown Girls”、このあたりは、パフォーマンスから若さが爆発している。BPMの速いナンバーを勢いそのままに乗りこなしていく様は、10代ならではである。激渋のブルース・ナンバーを再解釈してロックンロールとして撃ち放つザ・ストライプスには、確かに背伸び感がある。けれど、モノマネ感や御仕着せ感はまったくない。2013年に10代後半を迎えた彼らが、自分たちの体温としてブルース/ロックンロールを演奏する。そこがザ・ストライプスのすごいところだ。なによりその象徴と言えるのは、ショウ全体のハイライトでもあった“Blue Collar Jane”、そして“You Can't Judge A Book By The Cover”だろう。この日のライヴもセットリストの多くはカヴァー・ナンバーで占められていたが、そうした名曲が並ぶセットリストのなかでも、この曲は飛び抜けた煌めきを放っていた。軽快かつ平熱の表情を持ったこの曲は、ブルース解釈という点で彼らのクレヴァーさを体現している。そして、“You Can't Judge A Book By The Cover”は、走るのも構わずに一気に突っ走っていき、そのままの性急さで“I Wish You Would”~“See See Rider”へと突入していく。彼らはある種のクレヴァーさを持ちながらも、けっして伝統芸としてのブルースを再現しようとは思ってないのだ。ピートがベースを置いてハーモニカを担当した“It Ain’t Right”“Got Love If You Want It”を挟んで、「最後の曲だよ」と言って客席のハンドクラップと共に始まった“I’m A Man”~“Rollin’ and Tumblin’”も素晴らしかった。どちらの曲も数多くカヴァーされてきた曲だけれど、ジョシュのギターが派手に炸裂するそのアレンジは、ティーンエイジャーとしての彼らを代弁していた。
そして、アンコールは、彼らのライヴでは定番となっている“Route 66”と“Heart Of The City”の2曲で締め。全21曲、約75分。なぜ彼らが錚々たるロックの偉人たちに愛され、中等部課程を終えたばかりで、すぐに世界へと飛び出すことになったのか、証明するには十分な時間だった。しかし、彼らの真価が決まるのは、ファースト・フル・アルバムがリリースされた、その時なのも事実だろう。昨日、発表された通り、次の来日公演は10月(
http://ro69.jp/news/detail/81367)。より逞しくなった彼らを観られるのが楽しみでならない。(古川琢也)
1. Mystery Man
2. She’s So Fine
3. I’m the Hog For You
4. I Can Tell
5. 29 Ways
6. My Babe
7. What The People Don’t See
8. Stormy Monday Blues
9. Ooh Poo Pah Poo
10. Perfect Storm
11. Hometown Girls
12. Blue Collar Jane
13. You Can't Judge A Book By The Cover
14. I Wish You Would
15. See See Rider
16. It Ain’t Right
17. Got Love If You Want It
18. I’m A Man
19. Rollin’ and Tumblin’
encore
20. Route 66
21. Heart Of The City