向井秀徳アコースティック&エレクトリック @ 赤坂BLITZ

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「向井秀徳アコースティック&エレクトリックツアー2013」

終わってみれば時刻は22時。全28曲、きっちり3時間に及んだアクト。しかしその間、時計を覗きたくなるようなダレた空気は一度もなかった。それだけ、向井秀徳がたったひとりで、ギター2本とエフェクターのみを用いて構築する音世界には、片時も目が離せないビシビシとした緊張感が宿っていたのだ。向井のひとりライヴ・シリーズ=向井秀徳アコースティック&エレクトリックの全国ツアー、全18公演の15本目となる赤坂BLITZ公演。アコエレ・オリジナルは勿論、ナンバーガール/ZAZEN BOYS、さらには思いつきのカヴァーまでバラエティ豊かな曲で彩られた3時間は、「ソングライター」および「ギター・プレイヤー」としての力量と、マイペースに観客を酔わせるパフォーマーとしての力量を、それこそ日本屈指のレベルで兼ね備えた向井秀徳のすごみを、なんの雑味なしにダイレクトに体感できた時間だった。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック @ 赤坂BLITZ
向井秀徳アコースティック&エレクトリック @ 赤坂BLITZ
ガランとしたステージには、テレキャスとアコギ、アンプとエフェクター、椅子とマイクと譜面台、そしてわずかな照明器具だけ。オール着席スタイルのため椅子が整然と並べられたフロアでは、ライヴTシャツを着た若者から、ワンピースを着た女性、仕事帰りでスーツ姿の男性まで、実に様々なお客さんがおとなしく席についている。そこに、白いシャツ&黒いパンツ姿でふらりと現れた向井。アンプの上に置かれたドリンクをごくりと飲むと、アコギでプレイされたのは“CITY”。弦を弾いてフレーズを、ギター本体を叩いてビートを鳴らし、およそギター1本とは思えない奥深いサウンドを響かせていく。続く“SAKANA”では「ウッ! ハッ!」とエレキ・ギターを掻き鳴らし、ループ・マシンを駆使した重層的かつドラッギーなアンサンブルを構築。さらに“CRAZY DAYS CRAZY FEELING”“Delayed Brain”とZAZEN BOYS/ナンバガのレパートリーも開陳し、椅子に座った観客の上体を心地よく揺らしていくのであった。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック @ 赤坂BLITZ
「MATSURI STUDIOからやって参りました、ディス・イズ・向井秀徳!」というお馴染みの口上に続けて、「星野 源さんではないので、ご了承ください」と観客を笑わせていた向井。この日の本編は、15分の休憩を挟んだ2部構成になっていたのだが、とりわけ第1部で披露されたアコエレ・オリジナルの楽曲には「本当に星野 源じゃないか!?」と思いたくなるようなアコースティック・ナンバーが多かった。フォーキーなテイストの“NEKO ODORI”しかり、情景豊かなサウンドスケープが広がる“KARASU”しかり。特に「ソフトリーで、“ゆるふわり”な曲をやります」とプレイされた“夏のユーレイ”は、夏祭りに興じる子供たちの姿を牧歌的なメロディで綴った楽曲だったのだが、そこに漂う「夏の終わり」や「儚さ」を想起させるような、もの哀しい空気感にハッとさせられた。あくまでも優しい眼差しでありながら、逃れられない哀しみや、人間の暗部や真理を鋭く突きつけてくるような、歌とメロディ。それを高いレベルで表現している点において、向井と星野源は共通しているということを痛感させられた名演だったし、なにより、バンドでの絶叫ヴォーカルと違って、どこまでも心地よく伸びやかな向井のヴォーカルをじっくりと堪能できたセクションでもあった。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック @ 赤坂BLITZ
その後は、“感覚的にNG”“性的少女”“はあとぶれいく”とグランジ臭の強いセルフ・カヴァー曲で場内を轟音の渦に落とし込み、eastern youthの“細やかな願い”をアコースティックでカヴァー。さらに“Omoide In My Head”“Water Front”をしっとりと奏でて第1部終了。「さて、ブレーキング・インターバリング・タイムです。皆さん、お手手洗いは扉の向こうです」という向井のアナウンスによって休憩時間に突入し、ライヴは第2部へと続いていく……。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック @ 赤坂BLITZ
第2部は、アコギ・スタイルの“6本の狂ったハガネの振動”で幕開け。伸びのある歌声とキレのあるライム、さらにはヴォイス・パーカッションも繰り広げ、一人二役どころか三役も四役も担っているような圧巻のパフォーマンスで観客の目をくぎ付けにしていく。「お手手拍子よろしく」と言いながら不規則な変拍子で観客を翻弄した“SI・GE・KI”、≪あの子の前髪はいつも短すぎて≫≪正直な目ん玉が俺を 睨みつける≫という歌で場内の空気を切り裂いた“前髪”を経て、エレキに持ち替え“Sentimental Girl's Violent Joke”へ。それまで単調なゴールドの光だった照明は真っ赤に変わり、ここからは色彩豊かな照明の下でアグレッシヴなエレクトリック・ナンバーが届けられていく。“PIXIE DU”のカポを用いた軽妙なコード・ストローク、“Tuesday Girl”の切っ先鋭いギター・リフ、“Tatooあり”の鈍色のアルペジオ……と、曲ごとにギラギラとした殺傷力を増していくギター・サウンド。それは“鉄風鋭くなって”で豪快に爆発し、荒廃的なアコースティック・ギターがエモーショナルに響きわたった“転校生”にも、その熱量を伝播させていく。そして、エレキとアコギを持ち替えながらアシッドなループを構築した“The Days of NEKOMACHI”を経て、エンドロールさながらに畳み掛けられる言葉によって、鮮烈なイメージが表れては消えていく“自問自答”で本編フィニッシュ。「2013年6月12日、皆さんにお会いできて本当に楽しかったです」という言葉を残して向井が去った後には、万雷の拍手と歓声がいつまでも場内に響きわたっていた。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック @ 赤坂BLITZ
アンコールでは、宮藤官九郎の舞台『サッドソング・フォー・アグリードーター』にて作曲を手がけた劇中歌“ああ正当防衛”をアコースティックで披露。さらにナンバガのアンセム“IGGY POP FAN CLUB”で大団円を迎えると、鳴りやまないアンコールに応えて再びオン・ステージした向井、ダブル・アンコールとして最後を締めくくったのは“KIMOCHI”。ループ・マシンで音を重ね、自らはハンドマイク片手にフロアに降りると、アコエレのライヴでは恒例、女の子をひとりステージに上げてデュエット。そのまま女の子とお辞儀をして一緒にステージ袖に退場し、爆笑の渦の中、この日のアクトは幕を閉じた。ツアー終了後の6月22日には、七尾旅人とともに台湾にてライヴ・イベントを実施。7月にはZAZEN BOYSの東名阪ツアーも控えているので、そちらも乞うご期待。(齋藤美穂)

セットリスト
第1部
1. CITY
2. SAKANA
3. CRAZY DAYS CRAZY FEELING
4. Delayed Brain
5. Young Girl 17 Sexually Knowing
6. NEKO ODORI
7. KARASU
8. 夏のユーレイ
9. 感覚的にNG
10. 性的少女
11. はあとぶれいく
12. 細やかな願い
13. Omoide In My Head
14. Water Front

第2部
15. 6本の狂ったハガネの振動
16. SI・GE・KI
17. 前髪
18. Sentimental Girl's Violent Joke
19. PIXIE DU
20. Tuesday Girl
21. Tatooあり
22. 鉄風鋭くなって
23. 転校生
24. The Days of NEKOMACHI
25. 自問自答

(encore 1)
26. ああ正当防衛
27. IGGY POP FAN CLUB
(encore 2)
28. KIMOCHI
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