「えー、今日からツアーが始まったんですけど、ちょっと不思議っていうか……変なんですよ。このあと三郷(公演 10/18)があるんですけど、そこから本当の『“SPICE BOYS”』って言うか。ご覧のとおり、セットとか無いでしょ? リハの途中に本番があるって言うか。要するに、中途半端なんですよ。本来なら、ダンサーが出て踊り狂うとかね(笑)……まあ、そのぶん、いつもより頑張りますよ」。それぞれに柄違いのカーペットの上に陣取る湊雅史(Dr.)、小原礼(Ba.)、そして斎藤有太(Key.)ら百戦錬磨のMTR&Yバンドの面々を紹介しつつ、今度は「メンツもガラッと変えました」と冗談めかしている。そういうわけで、今後の日程においては、次回の首都圏近郊公演となる神奈川県民ホール(10/28、及び29)などを含め、件のステージ・セットはきっちりと整えられた状態で臨むはずだ。
決してフォローの意味で書くわけではないが、MCとは対照的に、音が鳴り始めた途端にロックの真髄にリーチしてしまうMTR&Yバンドのパンチはやはり強烈。むしろ、その極端な温度/緊張感の変化にこそダイナミズムが宿されていた。いつもながらに、そこが巧い。「あっつい! 蒸し暑いね!(民生)」「足元のファン(送風機)がないんだけど……(小原)」「自分で言わなきゃダメだよ!(民生)」といった掛け合い(スタッフが小原の足元にファンを設置する)の合間にも演奏が止まっているので、その都度、極端な温度/緊張感の変化が立ち籠めることになる。
来る新作『O.T. Come Home』からは、乾いた哀愁にブルース・ハープの音色をたなびかせ、湊の抜けの良いスネアが8ビートを転がすPUFFYへの提供曲セルフ・カヴァー“マイカントリーロード”をプレイ。「新作は、一人で作ったアルバムなんですよ。だから、今回(のツアーで)は、あまりやりません」と前置きしながらも、フライングVを抱えてタイトル・コールで笑いを誘い、シンプルな中に4人のプレイヤビリティを思うさま発揮させる軽快な50年代ロックンロール“チューイチューイトレイン”も披露された。
好調な広島カープについてはさすがに口がなめらかで、「阪神ありがとう! あれは優しさですよ」「16年も辛酸なめ子で。若い広島ファンって、なんで応援してるんだろうね?」「他球団のファンも、みんなカープ好きって言うんですよ。それがハラ立つの。次に、ってことでしょ」「まあ連絡事項と言えば、明後日(10/16の対巨人戦)、広島を応援してくださいってことですよ」とノリノリで語りまくる。会場内の空気が少々弛み過ぎてしまっても、相変わらず小原が絶妙の間で「ターミオ!」と囃し立てるので安心だ。そんな感じで一曲一曲をじっくりと味わい尽くしてゆく展開から、さすがに喋りすぎたのか、クライマックスは雄々しいシャウトを放ちながら立て続けに楽曲を放ち、楽勝ムードの本編フィナーレを駆け抜けてしまう。