奥田民生 @ 新木場スタジオコースト

奥田民生 @ 新木場スタジオコースト - pics by 山本倫子pics by 山本倫子
この日ジャケット・アートワークや収録内容も公開されたニュー・アルバム『O.T. Come Home』のリリースを控え、奥田民生はお馴染みMTR&Yバンドの新ツアーに出陣。全国16公演が予定され、ニュー・アルバムのリリース日である11月27日と、翌28日の東京・中野サンプラザ2デイズにおけるファイナル目がけて邁進するわけだが、その初日、オーディエンスがみっちみちに詰めかけた新木場スタジオコーストで、開演後ほどなくして民生が言い放ったのはこんな言葉である。

「えー、今日からツアーが始まったんですけど、ちょっと不思議っていうか……変なんですよ。このあと三郷(公演 10/18)があるんですけど、そこから本当の『“SPICE BOYS”』って言うか。ご覧のとおり、セットとか無いでしょ? リハの途中に本番があるって言うか。要するに、中途半端なんですよ。本来なら、ダンサーが出て踊り狂うとかね(笑)……まあ、そのぶん、いつもより頑張りますよ」。それぞれに柄違いのカーペットの上に陣取る湊雅史(Dr.)、小原礼(Ba.)、そして斎藤有太(Key.)ら百戦錬磨のMTR&Yバンドの面々を紹介しつつ、今度は「メンツもガラッと変えました」と冗談めかしている。そういうわけで、今後の日程においては、次回の首都圏近郊公演となる神奈川県民ホール(10/28、及び29)などを含め、件のステージ・セットはきっちりと整えられた状態で臨むはずだ。

決してフォローの意味で書くわけではないが、MCとは対照的に、音が鳴り始めた途端にロックの真髄にリーチしてしまうMTR&Yバンドのパンチはやはり強烈。むしろ、その極端な温度/緊張感の変化にこそダイナミズムが宿されていた。いつもながらに、そこが巧い。「あっつい! 蒸し暑いね!(民生)」「足元のファン(送風機)がないんだけど……(小原)」「自分で言わなきゃダメだよ!(民生)」といった掛け合い(スタッフが小原の足元にファンを設置する)の合間にも演奏が止まっているので、その都度、極端な温度/緊張感の変化が立ち籠めることになる。

奥田民生 @ 新木場スタジオコースト
さて、以下は少々、演奏曲などにも触れる内容になっているので、閲覧の際はご注意を。民生は喋るだけ喋っておいて「あ、俺か」と慌てて“荒野を行く”のギター・イントロを奏で、そこから一気にロック・サウンドが燃え盛る。なんだろう、この達人の技巧としか思えない、異様な瞬発力は。斎藤のオルガンによる圧巻のインプロへと傾れ込んでゆく展開だ。「iPadも足で操作出来るようになったのよ。便利なものは便利になるけど、古いものは古い。それが一番古いんじゃない? シンセ弾けばいいじゃん」と斎藤のハモンド・オルガンを指して身も蓋もないことを言っている。民生が抱えた白いレスポールは実は新しいモデルで、これまで使用してきたレスポールの傷まで再現したレプリカなのだそうだ。そのレスポールで広がりのあるサウンドのリフを繰り出しつつ、披露されるのは“あくまでドライブ”。伸びやかな歌メロにオーディエンスの掌がかざされる“風は西から”なども含め、この辺りはツアー・バンドのムードにオーディエンスを巻き込むような、「移動」「旅」のイメージが膨らむ選曲である。

来る新作『O.T. Come Home』からは、乾いた哀愁にブルース・ハープの音色をたなびかせ、湊の抜けの良いスネアが8ビートを転がすPUFFYへの提供曲セルフ・カヴァー“マイカントリーロード”をプレイ。「新作は、一人で作ったアルバムなんですよ。だから、今回(のツアーで)は、あまりやりません」と前置きしながらも、フライングVを抱えてタイトル・コールで笑いを誘い、シンプルな中に4人のプレイヤビリティを思うさま発揮させる軽快な50年代ロックンロール“チューイチューイトレイン”も披露された。

好調な広島カープについてはさすがに口がなめらかで、「阪神ありがとう! あれは優しさですよ」「16年も辛酸なめ子で。若い広島ファンって、なんで応援してるんだろうね?」「他球団のファンも、みんなカープ好きって言うんですよ。それがハラ立つの。次に、ってことでしょ」「まあ連絡事項と言えば、明後日(10/16の対巨人戦)、広島を応援してくださいってことですよ」とノリノリで語りまくる。会場内の空気が少々弛み過ぎてしまっても、相変わらず小原が絶妙の間で「ターミオ!」と囃し立てるので安心だ。そんな感じで一曲一曲をじっくりと味わい尽くしてゆく展開から、さすがに喋りすぎたのか、クライマックスは雄々しいシャウトを放ちながら立て続けに楽曲を放ち、楽勝ムードの本編フィナーレを駆け抜けてしまう。

奥田民生 @ 新木場スタジオコースト
で、詳しくは書かないが、MTR&Yバンドの底なしの演奏技術とアイデアを見せつける、鳥肌を立てながら大笑いしてしまうような大胆なパフォーマンスもあった。大胆すぎて場内にどよめきが巻き起こり、「なんだよ! 初めてやったけどすごい良かったじゃん! こんな扱い、初めてだよ!!」と民生がやり返すほどであった。各地公演に参加予定の方は、ぜひ楽しみにしていて欲しい。(小池宏和)
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