開演前BGMの“ボレロ”が終わるのと同時に場内暗転、ステージを覆い尽くした紗幕をスクリーンとして映し出された映像とリンクする形で、オーディエンスの腕に巻かれたLED内蔵リストバンド「ザイロバンド」が一斉に輝き出し、スタンディング形式のアリーナと客席をカラフルに染め上げていく。やがて、地面を揺るがす“Stage of the ground”のパワフルなビートが鳴り響き、スクリーンに升秀夫のシルエットが浮かび上がり、さらに増川弘明、直井由文の影が見えると、そのたびに巨大な歓声が巻き起こっていく。そして、ギターを高々と掲げる藤原のシルエットが映し出された瞬間、すでに沸点を超えていた武道館の高揚感がさらに熱を増し、紗幕が落ちると同時にキャノン砲の銀テープが会場一面に舞い踊る中、藤原の歌声が熱く響き、観客の情熱をさらに奮い立たせていく。そこから流れ込んだ“firefly”では、アリーナの頭上をチームラボが開発した「チームラボボール」が跳び回る展開。そこに鳴り響くコーラスとアグレッシブなアンサンブルは、もちろん武道館一丸のシンガロングを生み出していく。そのまま続けて、配信限定の最新シングル曲“虹を待つ人”へ。新たな音楽世界への扉を大きく開け放つような壮麗なサウンドスケープも、藤原が歌う凛としたメロディも、QVCマリンフィールドで観た時から2ヵ月でさらに壮大なスケール感と強靭さを獲得していて、思わず嬉しくなった。
「ツアー『WILLPOLIS』へようこそ! BUMP OF CHICKENです! 4人を代表して言わせてください。みんな、会いたかったぞ! そして、ただいま!」という直井のコールに、満場の観客が「おかえり!」とでっかく応える。「今日は『WILLPOLIS』ツアー・ファイナル! 全国でさ、本当にカッコいいやつらに会ってきたんだよ。その締めが今日ここだから、カッコ悪いとこ見せらんねえよな! 最高のライブにしようぜ!」という言葉に沸き上がる歓声を、「おい、ちょっと待ってくれよ。それじゃさ、今日来れなかった人に届かねえよな! もっと聞かしてくれ!」とさらに煽っていく。“アルエ”のエネルギッシュなサウンドに会場一面の拳が突き上がり、“ゼロ”の荘厳な音世界に全神経を傾ける。《気が狂う程 まともな日常》を《気が狂う程 愛しい日常》と歌詞をアレンジして藤原が歌い上げた“ギルド”。ザイロバンドが色鮮やかにきらめく中、どこまでも雄大に咲き誇った“花の名”……これまで幾度となく聴いてきたはずのバンプの楽曲。日本の音楽史を彩ってきた名曲のひとつひとつが、この最高の舞台でこの上なく美しく、力強く輝いていく。そして、そのことに胸を熱くしていたのは、オーディエンスだけでなくステージ上の4人も同じだったようで、直井の機材トラブルの間に話し始めた藤原も「今日、みんなに会えて、とても嬉しくて。今日はツアーの最終日で、しゃべるとヤバいなと思っていて。たぶん泣くなあと思って……」とこぼしていた。「年取ると涙もろくなるんだから。ヤバいんだから……ギターもしくじり気味になっちゃうけど(笑)」と語りながら、ギターで奏で始めたイントロはメジャー・デビュー曲“ダイヤモンド”。格段に逞しさを増した4人のアンサンブルが、藤原の勇壮な歌が、あたり一面を大ジャンプへと導き、武道館をがっつり揺らしていく。
「15年ぐらい前に書いたのかな、この曲? 15年だぜ? 『俺生まれてねえよ』っていう人いるでしょ? この中にもね」と藤原。「みんなカッコいいっすよ。すげえキレイです。君らが思う以上に、美しいですよ」とオーディエンスの歓喜に満ちた表情を見回して語る増川。「昨日・今日は『恥ずかし島』が作れないということで、スペシャルなことしたいなと思って、古い歌もやろうかなと思ったし……新しい曲もやっちゃおうかなって」という藤原の言葉に、会場の期待感が一気に高まる。「今年、去年、一昨年、ずっとレコーディングをコンスタントに続けてきたんですね。で、みなさんに聴いてもらってない曲がそこそこあって。その中から、今日は1曲、新しい曲を聴いてもらいたいなって。“ray”っていうんだけど……」と説明すると、驚きと感激に満ちた声が会場中から沸き上がる。さらに、「これ昨日は言わなかったんだけど……『RAY』って今度は大文字で書いて、それをタイトルにしたアルバムを出すことにしました!」と藤原が告げると、その歓声は武道館を揺さぶるほどに天井知らずに高まっていく。「ヤバいヤバい! 思わぬところで泣かされるところだった!(笑)」という藤原の言葉とともに流れ込んだ“ray”のファンタジック&エレクトロなシーケンスと揺るぎないビート感が、ザイロバンドの輝きと競い合うように晴れやかに、僕らの「今、ここ」を目映く照らし出していく。「“ray”、完成してません! まだ藤くんの歌入れも終わってません!」と後に直井が明かしていたが、この日鳴り響いたサウンドの中には、さらなる高みを目指し続けるバンプの音楽冒険心がヴィヴィッドに結晶していた。
そのまま“メーデー”、さらに“K”“車輪の唄”と立て続けに披露、「ラスト2曲になっちゃった……」という藤原の声に悲しみの声が吹き荒れる。その後、いつもしゃべらない升に向かって「秀ちゃん!」コールが巻き起こったのに応えて、「あと2曲、全力でやります!」とWピースサインを掲げて絶叫する升。金テープのキャノン砲とともに、圧巻のダイナミズムをもって響いた“天体観測”。ラストの“supernova”ではハンドウェーブとともに波打つザイロバンドの光の中、藤原は「聴こえてるか! 武道館、届いてるか!」と呼びかけ、《本当に欲しいのは 君と唄った今日なんだ》と歌詞をアレンジし、最後の♪ランラーラーラーのコーラスの主旋律を合唱するオーディエンスの声に、ハモリのメロディで寄り添ってみせる。どこまでも美しく、感動的な終幕だった。
「みんな昨日まで知らない同士でさ、今日バッて会ってさ……すごいことだよね。音楽を中心にして会ってさ、俺が『イェー!』って言ったらみんな『イェー!』って返してくれたりしてさ。本当に僕らの中で、かけがえのない思い出になりました。君の人生のほんの少しの時間だけど、僕たちに貸してくれてさ、それが嬉しくて、貴重でさ、大事でさ、終わりたくねえんだけど、心をこめて歌います」と、ひときわ強く、高らかに鳴り響かせたのは“宇宙飛行士への手紙”。9000人それぞれの人生の軌道が今日この場所で重なり合った奇跡に対する4人の感激と、果てしないロマンに満ちた世界観が、藤原の熱唱とともに武道館いっぱいに広がってフィナーレ――のはずが、鳴り止まない手拍子に応えて再び藤原がギターを手にすると、会場の歓喜はさらに温度を増していく。正真正銘のラスト・ナンバーは“ガラスのブルース”! 「ガラスの眼をしたみんな大好きだ」と歌詞を変えて叫ぶ藤原に、感極まったような声が響き渡り……終了。ステージを降り、スタンディング・エリアの観客とハイタッチして回る4人。「僕ら、これからも、ガンガン活動していくんで! よろしくお願いします!」と直井。「今日は幸せだったー。寂しいっすね。でも、また絶対やるんで。来てください!」と増川。最後、ひとり舞台に残った藤原、「真っ白だ。何も浮かばねえ……新しい曲ができたら、思い出して、聴いてやってください。よろしくお願いします」と挨拶し、「おやすみ、またね! バイバイ」と舞台を去りかけたところで、もう一度マイクのところに戻ってひと言、「大好き」。たまらず場内から特大の大歓声! デビュー以来バンプが鳴らし続ける「真摯な蒼さ」と、デビュー14年目で逞しいロック・バンドへと成長した「今」の音、そして音楽という名のコミュニケーションへの切実な想いが渾然一体となった、最高の武道館公演だった。