ワン・ダイレクション @ 幕張メッセ

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幕張メッセで11月2日、3日の2日間に亙って開催されたワン・ダイレクションの来日公演は、彼らが今年2月から世界中を回って来た大規模な『テイク・ミー・ホーム』ツアーの最後のタームとなる公演だった。また、日本のファンにとってもツアーとしては初来日になるという、ふたつの意味でメモラブルなショウになったのが今回の幕張公演だった。

デビューから2年で全世界トータルセールス3200万枚を記録するワン・ダイレクション、まさに「旋風」と呼んでも過言ではないその人気ぶりは日本にもまったくタイムラグ無しで伝わっていて、幕張メッセは両日完売の超満員、渾身の応援グッズを身に付けた熱狂的なファンがひしめき合い、メッセ内は開演前からすごい熱気だ。「1D」と顔にペイントしたり、揃いの法被を着たり、はたまたメンバーの実寸大のお面を被ったりと、応援グッズのバラエティも実に多種多様で興味深く、思わずきょろきょろと会場を見渡してしてしまった。そんな幕張メッセを埋めたファンの女の子達が生み出す光景は、映画『ワン・ダイレクション THIS IS US』で描かれたワン・ダイレクションの日常を彩る光景そのもので、彼らが今まさにポップ・アイコンとして世界同時進行で頂点を極めつつある存在であることが分かる。

ワン・ダイレクション @ 幕張メッセ
開演時刻を少しすぎたところで場内暗転、つんざくような黄色い悲鳴と色とりどりのサイリウムが振られる中で映像が始まった。ワン・ダイレクション主催のパーティが始まる、そんな演出だ。そして1曲目の“Up All Night”のイントロと共に5人がステージに現れると場内はさらなる悲鳴で埋め尽くされる。ステージ上の5人、ハリー、ナイル、ゼイン、ルイ、リアムはそれぞれに白と黒を基調にしたシンプルなTシャツやタンクトップ・スタイルで、非常にカジュアルだ。

ワン・ダイレクション @ 幕張メッセ
ワン・ダイレクションの歌の基本フォーマットはサビ部分でユニゾンとコーラスを使い分けつつ、AメロBメロはソロで歌い繋いでいくというもので、ライヴもその基本形に則って進んでいく。ソロ・パートを歌うメンバーがスクリーンに大写しになるたびにそのメンバーのファンが声援を送る様が応援合戦みたいで楽しい。さすがにオーディション番組「Xファクター」出身だけあって5人とも歌は上手く、ユニゾンやコーラスではぴたっと息を合わせる一方で、ソロ・パートでは皆わりと自由に自分独自の歌唱法を試している。そして「歌って踊ってほしいな!」と叫ぶと“Heart Attack”へ。ちなみに踊る、と言ってもワン・ダイレクションはイン・シンクやバックストリート・ボーイズのように完璧に振り付けされたフォーメーション・ダンスをするわけではない。5人は思い思いにステージに散らばり、思い思いの場所で好き勝手にリズムを取ったり、駆けまわったり、ファンとコミュニケーションを取ったりしている。いわゆるショウアップされた「ボーイズ・グループ」を想像していると拍子抜けするほど自然体で、Tシャツ・スタイルのカジュアルな衣装といいこのステージングといい、等身大であるということがワン・ダイレクションにとって大きなコンセプトになっているように感じた。そしてそんな等身大の彼らが歌のエンディングになると誰からともなくステージの中心に集まり、5人でぎゅっと固まって美しいコーラスで歌い上げる、その普通の男の子達の仲良しな関係性とプロフェッショナルな歌のギャップが胸キュンのポイントなのかもしれない。

ワン・ダイレクション @ 幕張メッセ
そんな飾り気のないステージングの一方で、かなり凝っているのがステージの転換部分を担う映像で、アメリカのホーム・ドラマのような、はたまたイギリスのモンティ・パイソンのようなストーリー性のある映像がインサートされ、思わず内容に見入ってしまった。そして“Change My Mind”では天井から吊るされたムービング・ステージに乗った彼らが客席頭上を通過してセンターステージへ移動するという、この日の最も派手な演出が披露される。ムービング・ステージが客席にじりじり近付いてくる毎に歓声のヴォルテージがぐんぐん上がっていく様が圧巻だ。

ワン・ダイレクション @ 幕張メッセ
そしてチャリティ・シングルとしてもリリースされたブロンディーの“One Way or Another”からアンダートーンズの“Teenage Kicks”へとリレーされるカヴァー曲のセクションは生バンドの演奏も強めにフィーチャーされたロック仕様のアレンジで、ムービング・ステージ上で5人もエア・ギターしたりヘドバンしたりとはっちゃけまくっている。カヴァー曲セクションが終わると、ちょっとした企画コーナーが始まる。これはファンから事前にツイッターを通じて募ったリクエストにメンバーが応えていくという企画で、「アイリッシュ・ダンスをしてください」「ムーンウォークはできますか?」といったファンのリクエストに5人がわいわいはしゃぎながら応えるたびに客席からは凄まじい悲鳴が上がる。ショウの中盤、まさにアイドルの面目躍如といった感じのコーナーだった。

ワン・ダイレクション @ 幕張メッセ
そんなお楽しみの中盤から一転、後半はバラッド主体で歌をじっくり聞かせていくナンバーが続く。やはりワン・ダイレクションの基幹は歌、コーラス・グループなのだということが再確認できる展開だ。5人がステージの階段に思い思いに腰かけて歌い、スクリーン映像もモノクロやセピア調になったりと、いよいよショウもフィナーレ間近であることを感じさせるセンチメントが漂い始める。“Little Things”や“Teenage Dirtbag”ではナイルがギターも披露するなど、かなり音楽的なセクションだった。

そして“Rock Me”以降は一気にアッパーに転じたパーティー・セクションへ、5人は全力でファンを煽り始め、ファンも力の限り叫び、歌い、サイリウムを振り回す。“She's Not Afraid”で5人がステージから飛び降り、最前列のファンの元に駆け寄ったところで、この日の歓声は最大値を記録したんじゃないだろうか。ツアー・ファイナルのスペシャルな瞬間だったと言っていいだろう。

ワン・ダイレクション @ 幕張メッセ
そしてアンコール、鳴り止まない拍手と「1D」コールを受けて始まった“Best Song Ever”、そしてラスト・ナンバーは鉄板の“What Makes You Beautiful”!無数のバルーンが宙を舞い、大量の紙吹雪が舞い散る中で長いツアーを共に回って来たバンドメンバーとスタッフをねぎらい、そして何度も何度も日本のファンへの感謝のメッセージを口にする5人に、ファンもまた必死に感謝を叫び返し続ける。最後にハリーが「ガンバリマース!!!」と日本語で叫んでいたのも象徴的だったが、ワン・ダイレクションが持つ等身大の親しみやすさは、崇拝の対象としてのポップ・アイコンではなく、ファンと共に「頑張る」という得難い共感を呼ぶ装置なのかもしれない、そんなことを思ったフィナーレだった。(粉川しの)
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