Hostess Club Weekender 1日目 @ 恵比寿ガーデンホール

Hostess Club Weekender 1日目 @ 恵比寿ガーデンホール - TEMPLES All pics by KAZUMICHI KOKEITEMPLES All pics by KAZUMICHI KOKEI
約半年ぶりの『Hostess Club Weekender』も今回で6回目の開催となる。6月の前回HCWはムームとトラヴィスをヘッドライナーに戴き、インディ高踏派が集うムームの初日とUKロック一派が集結したトラヴィスの2日目と、傾向が分かりやすく別れた2日間だったが、今回のヘッドライナーはニュートラル・ミルク・ホテルとディアハンター。両日共にオルタナ最前線基地たるHCWらしいラインナップが揃った回になったと言っていいだろう。特にこの初日はニュートラル・ミルク・ホテルの初来日という、これまたHCWだからこそ実現できた奇跡のイヴェントも待ちかまえていたわけで、毎回参加させてもらっているHCWだが、昨日はとりわけディープなオルタナ人種が集結していたように感じた恵比寿ガーデンホールだった。

そんなHCW第6回、初日のトップバッターを飾ったのはこの日唯一のUKバンドとなったテンプルズだ。来年2月にデビュー・アルバムを控えた全くの新人である彼らだが、かのノエル・ギャラガーが大絶賛している新星として現在UKでもトップ・クラスの注目を集めている。シド・バレットを彷彿させる顔立ちにもろマーク・ボランなカーリー・ヘアのフロントマン、ジェームス(Vo&G)の佇まいからして思いっきりアシッドだが、テンプルズのサウンドはまさにアシッドでフォーキーな60S~70Sサイケをルーツにしている。全世界的にサイケ・ブームが再来している昨今、中でもこのテンプルズはザ・バーズや初期ピンク・フロイド、はたまた中期ビートルズ辺りを彷彿させるビンテージ・サイケ/フォークを鳴らす、若さに似合わずクラシカルな路線のバンドだ。ライヴで彼らのサウンドとダイレクトに対峙して驚かされたのはとにかく曲の良さだ。キラー・アンセム“Shelter Song”にせよ、来たるデビュー・アルバム『サン・ストラクチャーズ』からの新曲と紹介された“Mesmerise”にせよ、メロディの訴求力、全編パンチラインと言っても過言ではない分かりやすさが凄い。サイケデリックの茫漠たる雰囲気に逃げない、クリアで簡潔な言い切り方のメロディが書けるのが彼らの強みだ。

Hostess Club Weekender 1日目 @ 恵比寿ガーデンホール - DELOREANDELOREAN
続くデロレアンはスペイン・バルセロナ出身の4人組。しばしばドリーム・ポップと形容されるバンドだが、そんな事前のカテゴライズを吹っ飛ばすほど骨太な演奏をぶちかますバンドで驚かされた。トリップ感の強い、たとえば『スクリーマデリカ』期のプライマル・スクリームがチルウェイヴを通過しながらアニマル・コレクティヴの変則グルーヴをオプションで付け加えたような、あくまでもポップの枠組みは守りつつも縦に横に斜めに自在にバウンドしていくアンサンブル。エキ(Vo)のヴォーカルはところどころで思いっきり裏返るエモ唄法だし、ドラムスは無闇にハードだし、ところどころでやりすぎ、過剰さがライヴで初めて見えてきたこのバンドの個性だった。10月にリリースされた最新作『アパー』を含め、音源の段階ではいかにも欧州ポップらしい軽さとセンスが先行していただけに、今回のライヴでは良い意味で裏切られた、可能性が垣間見えたと言える。

Hostess Club Weekender 1日目 @ 恵比寿ガーデンホール - SEBADOHSEBADOH
ニュートラル・ミルク・ホテルと並び、この日のもうひとつの「レジェンド枠」を担っていたのが続くセバドーだ。かなりの頻度で来日しているルー・バーロウ及びセバドーだけれども、何せ今回の来日は14年ぶりのフル・アルバム『ディフェンド・ユアセルフ』をリリースした直後ということもあり、伝説であり、現在進行形でもあるセバドーの両面を目撃できるチャンスなのだ。ステージに登場した3人の、まずは髭もじゃで仙人みたいな風貌になっているルーに驚きつつ、そして出音一発目のセバドーらしからぬクリア&ラウドなサウンドにのけ反ってしまった。セバドーと言えばローファイの代名詞であり、グランジの源流であり、ルーのもう一方のキャリアであるダイナソーJr.よりもさらにロウ&ラフなローファイのピュアイズムで貫かれたバンドなわけだが、この日の彼らのパフォーマンスはそんな前提を吹き飛ばすほどにパワフルでアンチ・ローファイに聞こえたのが面白かった。ローファイやグランジのルーツたる彼らが、彼ら自身の手でそれらのスタイルを2013年度版としてアップデートしたかのような感覚なのだ。ルーとジェイソンがパートを交換し、ヴォーカルをほぼ半々の割合で担当していたのも結果としてパフォーマンスの幅を広げる効果となっていた。“Rebound”、“On Fire”といったルーのヴォーカル曲がよりローファイ色薄めなアメリカン・ロック・アレンジに響いたのが面白かった。

Hostess Club Weekender 1日目 @ 恵比寿ガーデンホール - OKKERVIL RIVEROKKERVIL RIVER
セバドーの後半あたりから会場はぎっしり超満員になってきた。ニュートラル・ミルク・ホテル、セバドー、オッカーヴィル・リヴァーという通好みの面子で恵比寿ガーデンホールが満員になるって改めて考えると凄いことだと思うし、オルタナが常態化した2010年代に日本の私達がそういう環境のど真ん中に身を置けるってつくづく幸福なことだと思う。というわけでオッカーヴィル・リヴァーの登場である。ウィル・シェフ率いるオッカーヴィル・リヴァーのキャリアは既に10年以上、7枚のスタジオ・アルバムをリリースしている中堅バンド、いや、本国アメリカでは最新作『ザ・シルヴァー・ジムネイジアム』がビルボードTOP10入りした堂々たる人気バンドである。オッカーヴィル・リヴァーはアルバム音源とライヴ・パフォーマンスで全く異なる世界観を提示するタイプのバンドだ。たとえばマイ・モーニング・ジャケットやバンド・オブ・ホーセズといったバンドにも共通するが、いわゆるアメリカーナ、オルタナ・カントリーと呼ばれる牧歌的なサウンドにカテゴライズされる音源をとんでもないスケールでビルドアップして飛躍させていく、オッカーヴィル・リヴァーはそんなライヴの凄さで草の根的な人気の広がりを獲得してきたバンドなのだ。“Unless It’s Kicks”、“The Valley”といったアンセムが連発された後半はスタジアム・ロック級のダイナミズムを獲得。USオルタナの底力を感じるのはこういう瞬間だ。

そしてHCW初日もいよいよ残すところあと1組、ついに、ついに実現したニュートラル・ミルク・ホテルの初来日公演である。筆者と同世代の30代リスナーにとっては「Elephant6」の名前と共に90年代後半のUSインディーの特別な思い出を彩っているバンドであり、また、20代のリスナーにとってはアーケイド・ファイアやフリート・フォクシーズの直接のルーツとして学び知る秘境たるバンドだろう。デビュー・アルバムから17年目にしての初来日はまさに奇跡だし、思い出を埋める意味でも伝説を学び知る意味でもあまりにも意義深いステージだった。しかも約15年ぶりのオリジナル・メンバーでの再結成ということもあり、ニュートラル・ミルク・ホテル自身にとっても15年の時を埋める重要な意味合いを持つステージとなったのが今回の初来日である。しかし、結論から言うならば、ニュートラル・ミルク・ホテルの初来日公演は「失われた時を埋める」のではなく、むしろ「時間が彼らに追いついた」ような、不思議な同時代性を感じさせるライヴとなった。彼らはこれまでに2枚のオリジナル・アルバムしかリリースしていない。しかも直近の『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』ですら15年も前のアルバムなのだ。なのに、この夜のパフォーマンスには時差が殆ど感じられなかった。予め時間や時代性から超越した場所にいる、それがニュートラル・ミルク・ホテルの魅力であり、現在のオルタナ・フォーク~サイケ勢が理想とする普遍の在り処なのかもしれない。

NMHの楽曲はジェフ・マンガンのシンプルなギターと歌のソロ・パートから始まり、そこにベース、ドラムス、アコーディオン、ホーンが徐々に合流し、光を浴び、枝葉を伸ばす樹木のように楽曲が成長していく、その有機的なプロセスが基本のフォーマットとなっている。そう、楽曲がその都度いちから「生まれる」ようにプレイされ、それは常に瑞々しく、ワクワクするような体験なのだ。“In the Aeroplane Over the Sea”、そして“Oh Comely”、“Song Against Sex”と、それらの楽曲が連続性を持って一遍の長編小説のように流れ続けた後半は特に圧巻だった。オーディエンスから「Thank you for your existing!」と掛け声が飛んで思わず深く同意してしまったが、まさに2013年の今、ここに彼らがいてくれることの奇跡と幸せを噛みしめずにはいられなかった90分だったのだ。(粉川しの)
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