Pay money To my Pain @ Zepp Tokyo

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遂にこの日が来た。ヴォーカル、Kの急逝からちょうど一年後となる2013年12月30日。『Pay money To my Pain“From here to somewhere”』と名付けられた、Zepp Tokyoでのライヴ。開催が発表された際には、「本公演につきましては、出演者、演奏曲など公演内容については、当日開催まで事前の公表は一切行いません。予めご了承の上チケットをお買い求めください」という但し書きがあった。それでも、ものすごい数のチケットの申し込みが寄せられたという。その声に応えて、YouTubeでも生配信が決定。運良くチケットが取れた人、グッズだけでも買い求めようと列に並ぶ人、駆けつけた大勢の仲間たち、そして各地で画面を見詰めながら待つ人……全ての思いを想像すると、早くも胸が詰まる。

客電が落ちると、大きな大きなハンドクラップが起こる。すると、ステージを覆っていた白い幕にPTPの歴史が映し出され、初ライヴの音源が流れ出す。さらに、彼らのレコード会社であるVAPのタナケンさんを皮切りに、元SupeのKIHIROやTakeshi、ROTTENGRAFFTYのNOBUYAなど、初期から彼らを知る盟友たちのコメントが挟み込まれていく。なかにはDEAD ENDのMORRIEやLUNA SEAのJといった、大先輩であり、PTPの垣根のない活動を象徴するような人物も。特に印象に残ったのは、RIZEのJesseがKを「ベジータみたい」と評したところ! そして、たっぷりと時間がとられたアメリカツアーの映像では、そもそも彼らが小さなキャパに収まるバンドではなかったことを痛感したり、2011年9月の下北沢シェルターでのKの「死ぬまで突っ走るぞ!」というMCにビクッとしたりしているうちに、あっという間に一時間が過ぎていた。

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いよいよ幕に生のシルエットが浮かび上がってきた。PABLO、T$UYO$HI、ZAX、そしてK。張り詰めた空気を破壊するような轟音と咆哮が響き渡り、ミラーボールも照明も乱反射する中、バッサリと幕が落とされる。1曲目は“Sweetest vengeance”だ! Kの歌声と映像、そして3人の演奏がシンクロした紛れもないライヴに、フロアは速攻でグチャグチャに。さらに“Here I’m singing”のイントロがはじまるなりオイコールが起こり、Kがハンドクラップを煽れば追従。遺伝子、という言葉が脳裏に浮かぶ。それでも最初は、やっぱりカッコいいバンドだなという思いと、でもKはいないのか……という思いが交互に表れていたのだが、“Deprogrammer”あたりからは、何だかステージ上にKが見えてきたような気がしたし、“Gift”では、ステージを転げるKに生々しいエモーションを感じたし、“Weight of my pride”の時には、このウォール・オブ・デスの中にKが紛れてるんじゃないかな?と思ってしまった。ライヴをこの形式にするには、凄く悩んだだろうし苦労もあっただろう。それでも、PABLO、T$UYO$HI、ZAXは、PTPとして再びステージに立つことで、果たさねばならぬ責任感や、水を得た魚のような喜びを、ただひたすら壮絶なエネルギーに代えて爆発させていた。“Pictures”では、ZAXが手を振り上げると、PABLOのギターをバックに誰もがシンガロング。T$UYO$HIも歌っている。綺麗事でも何でもなく、思いは一つだ。

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暫しの間にも「PTP!」コールが沸き起こる中、センターのマイクにスポットライトが当たる。聴こえてきたのは、大切な名バラード“Home”。痛みに染みるKの歌に、堪え切れない人が続出し、終わるなり「K!」という涙交じりの叫びが飛び交う。続いては、ミュージックビデオと共に披露された“Rain”。映し出される《目を閉じると 君を近くに感じるよ 全て書き換えられるとしても それでも終わってしまうのかな?》という和訳が、やけに気になって仕方がない。

メンバーが捌けたステージを見詰めていると、Kの声が聞こえてきた。「『STAY REAL TOUR』、今日がファイナルになります」――それは、2010年6月19日に行われたSHIBUYA-AXでのライヴのMCだった。「みんな、表に出さないけど、痛い思いとかプライドとかを抱えて生きているんだな、と感じたツアーでした。俺は、どうしてもこの場所でしか伝えられないことがあって。『STAY REAL』というのは、本物であれ、という意味ではありません。そのままで、ありのままでいて欲しいという意味です。俺は中学生の頃から、周りの人がだんだん俺の冗談で笑ってくれなくなって、ずいぶんみんなを恨みました。居酒屋から大きな笑い声を上げながら出てくる人たちとか、カップルとかが羨ましかった。でもそれは、みんなが俺から離れていったんじゃなくて、自分からドロップアウトしたと気付くのに、29年という歳月を費やしました。お前なんかいらないとか、死ねとか言われて、自分の存在を疑ってしまっている人は、それも自分なんだってことを認めて、どうか、自分を痛めつけるのは止めてください。でももうひとつ。人は必ず変わることが出来ます。天井ばかり眺めていた俺は今、こうして大勢の人に耳を傾けてもらえています。それは俺にとって、一度しかない人生で、奇跡です。自分は絶対に変われない、と思ってしまっている人に、次の曲を捧げます。“Another day comes”」。そして、いつの間にかステージに戻ってきていた3人が演奏をはじめる。眩しい光に包まれて手を伸ばすオーディエンスを見ながら、ぐるぐると考えていた。KがPTPを通して最も言いたかったこと。そして、3人はそれを熟知していたこと。何で私たちがKを、PTPを愛して止まないかということ。演奏が終わると、Kは「見えてるぞ、ありがとう」と言った。そして、ハンドクラップの中“This Life”と続いていく。

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終盤に向かう予感が漂いだすと、PABLOが口を開いた。「今日まで10年間活動してきました。このZEPP TOKYOでワンマンをするのは、俺たちの夢でもありました」。そして、ファンやスタッフや仲間に感謝を述べると—―「今日は全てを終わらせるために来ました。この日をもって活動を停止します」と宣言したのだ。フロアから漏れ出す嗚咽や「イヤだ」という声。でも、「去年の12月30日から、抜け殻のような日々を過ごしています。でも、どうしても目を見て伝えたかったんです。このバンドで得たことは図り知れません。僕たちはみんなの中に何かを残したんでしょうか? これからもPTPのことを愛していて下さい。本当にありがとう」……そう、彼ら自身が一番辛いのだ。またZAXの「Kがいなくなって、心に穴が空いていると思うけれど、俺も同じで、そのことばっか考えて毎日生きてて、俺なりに思ったことは、この穴はKそのものだから、ふさがなくていい。俺はこの穴と一緒に、これからの人生笑って笑って生きていこうと思います」という言葉は、私たちがこれから生きていく指針になるだろう。そしてT$UYO$HIは「KがいないPTPって成り立たないし、ロックバンドってそういうものだと思うんだよね。この世界ではないかもしれないけれど、また4人で集まった時に、あれからどんな人生だったの?って話して、またやろっかってなれるように」と、PTPの絆が痛いほど伝わる思いを語る。

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さらに驚いたのは、その後だ。「こっからは俺たち3人で演奏するんで、みんなの力を貸してくれませんか? こっから一歩を踏み出してみませんか?」と言い、歌がない“Greed”をはじめたのだ! いや、歌がないわけではない、オーディエンスが泣きながら、暴れながら、歌っていた。バンドも、オーディエンスも、その場にいた誰もが、現実を受け入れ、明日からも生きていくために踏み出した、PTPらしいアグレッシヴ過ぎる一歩。それは、“The sun,love and myself”、“Black sheep”、“Paralyzed ocean”、“Against the pill”と5曲も続いた。最後は、何とオリジナルのお札が噴き出し、雨あられとフロアに降りまくる。そんな中、PABLOはギターを破壊し、T$UYO$HIはセンターのマイクと共に、まるでKと肩を組むようにして帰っていった。そして、このライヴを実現させたスタッフの尽力に感謝するようにエンドロールが流れ、トドメは真っ赤な光に照らされて、堂々とでっかいバックドロップがせり上がる。まるで、自らの存在を永遠に刻み付けるようであり、ここからが俺らのはじまりだよと言っているようでもあるエンディングに、いつまでも拍手が止まなかった。

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ゲストが出るとか、あれこれ憶測が広まっていたものの、蓋を開けてみれば、4人だけで完結させて、自分たちとひたすら向き合い、自分たちで区切りを付けた、これ以上ない形のライヴだったと思う。これからも私たちは、PTPの楽曲を聴きながら、PTPが教えてくれたことを思い出しながら生きていけるだろう。それだけは、濁りのない真実だ。Kの澄みきった瞳のように。(高橋美穂)
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