People In The Box @ Zepp DiverCity

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「緊張するね! COUNTDOWN JAPANを抜いたら、俺たち3ヶ月お休みしてたから。その間メンバーとは連絡もとらず、会いもせず……」と中盤のMCで明かしていた山口大吾(Dr)。そのブランクを埋めるかのように、3人の生々しいエネルギーが激しくぶつかり合った夜だった。COUNTDOWN JAPAN 13/14で見事MOON STAGEのカウントダウンを務めてくれた、People In The Boxによる恒例の自主企画イベント「空から降ってくる vol.6」。これまでは日比谷野外音楽堂や全国各地の劇場を舞台に、チェロ奏者を招くなどしてコンセプチュアルな内容で行われることの多かった当イベントだが、今回はオールスタンディングのライヴハウスで、メンバー3人のみでのステージだ。

People In The Box @ Zepp DiverCity
暗転した場内にチクタクと時を刻むSEが流れ出し、拍手に迎えられてメンバー登場。「People In The Boxです、よろしくお願いします」という波多野裕文(Vo/G)の挨拶から“She Hates December”へ。しーんと静まり返った場内に、靄がかった早朝の風景を思わせる、柔らかで透明感のあるサウンドスケープが広がっていく。しかし、次の“ペーパートリップ”で状況は一変。ソリッドかつエモーショナルなアンサンブルが堰を切ったように走り出し、福井健太(B)のベースプレイが冴える“天使の胃袋”、三位一体の真っ白なノイズが放たれる“火曜日 / 空室”と畳み掛けると、早くも盛大なクライマックスを迎えたような狂騒感が場内を包み込んでしまった。とはいえ、ダイブやモッシュのような、絶頂を絵に描いたような光景は皆無。呆然と立ち尽くしたり、ゆらゆらと身体を揺らしたりと思い思いにリアクションするオーディエンスを前にして、波多野も「オールスタンディングでも椅子ありのときと(皆の様子が)変わらないんだね」と語る。

複雑に変化する曲展開で会場まるごと異次元へトリップさせた“昏睡クラブ”。鋭利なギター・リフがフロアいっぱいに降り注いだ“6月の空を照らす”。ダイナミックなビートと流麗なアルペジオが世界の矛盾を暴く警鐘のように鳴り響いた“サイレン”……。しなやかに、ハードに、エモーショナルにカオスを鳴らす3人の熱演がその後も続いていき、未知の世界に踏み込むような期待と不安の入り混じる空気感が徐々に色濃くなっていく。この日の舞台装飾はシャンデリアひとつだけ、映像や照明を使った演出も最小限に抑えられていて、リリースツアーとは別枠のライヴにしては驚くほどシンプルなステージ。しかし、それにより絶妙なバランスで均衡を保つアンサンブルや、シュールレアリスティックな世界を綴る波多野のヴォーカルの狂気性がいつになくダイレクトに伝わってきたのも、この日の大きなポイントだった。

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そして。昨年10月16日にリリースされた最新アルバム『Weather Report』の楽曲を連打した、中盤のパートが素晴らしかった。軽やかなリズムの“潜水”にはじまり、中毒性たっぷりのオルタナ・サウンドが疾走した“開拓地”を抜け、伸びやかな開放感と浮遊感に満ちた“気球へと至った約15分の物語。1音ごとに時間も空間も超越していくような一連のドラマツルギーの中で、万物流転の法則も、生命の神秘も丸ごと受け止めるような壮大なテーマが描き出されていく。冒頭に記した山口のMCにもあった通り、アルバムリリース以降、約3ヶ月間の休養に入っていた彼ら。アルバムリリース後のワンマンライヴではこの日が初ということもあり、生で聴く『Weather Report』の楽曲群の得も言われぬ豊潤さに、深く感じ入ってしまうパートであった。

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“真夜中”では波多野のギター・ソロがブルージーに鳴り響き、“マルタ”では先端に布を巻いたドラムスティックによって山口がダイナミックなリズムを打ち鳴らす。さらに“子供たち”で3人一丸のコーラスと共に放たれた、圧倒的な音圧とオーケストレーション! 3人だけの演奏とはにわかに信じがたい、豪快な爆発を遂げるアンサンブルの勢いは、山口の「本日も全力でぶっ殺しに行くんでヨロシク!」という決まり文句から更なる加速度を増していき、パンキッシュに駆け抜けた“ユリイカ”、疾走と徐行を繰り返しながら熱狂の只中へ迷い込んだ“水曜日 / 密室”、クセになるメロディが高らかに響きわたった“ニムロッド”、ワルツ調のリズムでフロアを揺さぶった“日曜日 / 浴室”と畳み掛けて、あっという間に本編ラストの“ヨーロッパ”へ。波多野は絶叫と共にエモーションを炸裂させてギターを掻き毟り、張りつめた轟音を会場いっぱいにまき散らして壮絶なラストを飾った。

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アンコールでは「ピープルの演奏は1曲1曲本当に神経を使うから、本当に疲れるんですよ」と、堪らず本音を漏らす波多野。残りのエネルギーをすべて燃やし尽くすように“はじまりの国”“ダンス、ダンス、ダンス”“球体”を連打すると、「今年いちばんの元気を見せてくれるかな?」(山口)と“完璧な庭”でハンドクラップを誘い、目まぐるしいテンポチェンジと波多野のスピーディーなリリックの炸裂により、おそらくピープルの楽曲の中でも最もエネルギーを使う曲のひとつであろう“旧市街”を最後にブチかまして終幕。恐るべき集中力でスリリングなアンサンブルを奏でていく3人の姿に、畏怖にも似た戦慄が押し寄せる圧巻の幕切れだった。

最新アルバム『Weather Report』の楽曲からライヴ定番曲まで惜しみなく並べた全25曲で、バンドの「今」をダイナミックに提示したこの日のアクト。シンプルなステージ上で生々しいエネルギーを爆発させたこのライヴを経て、彼らはさらに大きく飛躍していくことだろう。4月4日からは、計17公演の全国ツアー「空から降ってくる vol.7 ~空想する春のマシン~」も開催。この日も圧倒的な輝きを放っていた『Weather Report』の楽曲が、ここから3ヶ月間の熟成期間を経て、どのように化けていくのか。観るたびに新たな驚きと興奮を呼び起こしてくれる過去曲の進化と共に、その成長を今から楽しみに待っていたい。(齋藤美穂)

セットリスト
1. She Hates December
2. ペーパートリップ
3. 天使の胃袋
4. 火曜日 / 空室
5. 昏睡クラブ
6. 6月の空を照らす
7. サイレン
8. 笛吹き男
9. 潜水
10. 開拓地
11. 気球
12. 真夜中
13. マルタ
14. みんな春を売った
15. 子供たち
16. ユリイカ
17. 水曜日 / 密室
18. ニムロッド
19. 日曜日 / 浴室
20. ヨーロッパ
アンコール
21. はじまりの国
22. ダンス、ダンス、ダンス
23. 球体
24. 完璧な庭
25. 旧市街
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