まず、事前にアナウンスされていた『Live「O」』『Live「E」』の趣旨をおさらいしておきたい。「O=Odd(奇数)」「E=Even(偶数)」という意味で、これは9mmがこれまでに発表して来たミニ・アルバム、アルバム、シングル作品の中でのトラック番号を表している。初日の『Live「O」』には奇数のトラック番号の曲が、2日目『Live「E」』には偶数のトラックが披露されるということで、つまり両日の演奏曲に一切の重複がなくなるわけだ。当然、バンドにとっては、パフォーマンスの仕込みがえらいこと大変なものになる。ドSなのかドMなのか、何しろ楽しみを押し広げるためのチャレンジング・スピリットが発揮されているのは間違いない。なお、EPやシングルの表題曲は、アルバムのトラック番号でカウントするというのが基本ルールとなっている。
迎えた初日の『Live 「O」』では、卓郎がステージ中央で腕を大きく振って深々とお辞儀するお馴染みの挨拶から、パイロの炸裂音とともにデビュー・アルバム『Termination』のオープニング・ナンバーだった“Psychopolis”が鮮烈なサウンドとスピード感でぶっ放される。中村和彦(Ba.)による強烈な咆哮も早々に繰り出されるわけだが、この序盤でいきなり、良い方向にイメージを裏切られた。2日分の演奏曲を仕込んで来ているというのに、とてつもなく演奏の精度が高いのだ。あらためて恐るべし9mm。瞬く間に武道館全域を沸騰させながら、観ていて背筋に冷たいものが走るような、それほどの精度である。流麗なギター・フレーズを奏でては、大きく両腕を広げてオーディエンスの歌声を誘う滝善充(G.)。そして“荒地”の伸びやかで切々とした歌を届けると卓郎はあらためて挨拶し、「今日はみんな、奇数大好きな人なわけでしょ」「俺たちもこの日を楽しみにしてました! その点だけはみんなに負けらんねえから!」と意気込みを露にする。
“Trigger”と“Starlight”の間には、“Caucasus”が挟み込まれてしまっていた。中村がファンキーなベース・プレイでダンサブルな展開を支えているけれど、一辺倒な享楽性には振り切れない、奥ゆかしい感情表現を込める、そんな9mmの一貫性を味わうことになる。「ありがとう! そろそろ、新曲をば、本邦初公開しようと思うんだが……タイトルは“オマツリサワギニ”で、一応、『Live「O」』で“オマツリサワギニ”だからね。意外と、ああ、って感じだね(笑)」。いや、祭典グルーヴの上でユーモラスな、しかしどこか物悲しいメロディが交錯し、お祭り騒ぎを渇望する理由そのものを描き出してしまうような、そんな楽曲の雄弁さが凄い。後半の爆発的な展開も含めて、素晴らしい新曲だ。そして会場内に幾筋ものレーザーが走って繰り出される“Wanderland”や、アレンジ/アンサンブルの高度な技巧を見せつける“Sundome”を披露すると、「一曲も被らない、被りたくないって最初に言ったのは、中村和彦くんでした! ハードコア過ぎたらどうする?って心配してたんだけど。B面曲みたいのばっかりになったら、って。大丈夫ですよ。大丈夫ですよね?」と卓郎が確認する。ここで「シャイなのよって人も、今すぐ叫べるか!?」とオーディエンスを巻き込んでゆくのは、シングル『ハートに火をつけて』の冒頭を飾っていた“Scream For The Future”、更には『命のゼンマイ』のカップリングだった山本リンダ“どうにもとまらない”だ。これこそ『Live「O」』ならではの醍醐味。楽しすぎる展開だろう。
「この10年の間に、俺たちと出会ってくれて、発見してくれてありがとう!」と、卓郎からファンに向けられた感謝の言葉と、7月にはベスト・アルバムをリリースするというニュースも届けられ、“The Lightning”からはエクストリームな爆音と歓喜にまみれるラストスパートへと突入していった。「みんなもう、俺たちから離れられないぜ!」と叩き付けられる“Black Market Blues”を経て、リボンキャノンとレーザーで最高潮を迎える“The Silence”だ。『Dawning』の最終トラックに辿り着く。後になってはたと気付いて、唸らされる、そんなセットリストの物語性も見事な『Live「O」』であった。
「キンッキンに冷えたやつをやりますよ!」と、2009年武道館『999』当時の新曲として披露された、和彦作曲の“Cold Edge”や、かみじょう作曲の“3031”など、重機関砲の如きビートに支えられたスピード感の中にも、メンバーそれぞれの作曲の成果が散りばめられた選曲だ。この日の新曲のタイトル”EQ”を発表すると卓郎は、「一万個近くの疑問符が浮かんでますね。EQはイコライザーのことで、音楽業界ではこう、思っていることと実際に起きてることが違うときに、EQするって。バランスを正していこうってことなんですよ……今日みたいな日にね。まあ説明が下手だから、音楽やってるんだ!」と威勢良くパフォーマンスに傾れ込んでいった。まるでロボットが喋っているような不思議な音色の滝のギター・フレーズが迸り、強靭な歌メロとメッセージが並走するナンバーだ。『Live「E」』の日にかけてタイトルが“EQ”なのは、説明するまでもないだろう。
ロック・サウンドの探究心が発揮された“Monday”、所狭しと敷き詰められたアンプからのブライトな轟音で迫り来る“Keyword”などは、9mmの音響美が結晶したような時間帯であった。照明効果の演出も加味され、“命のゼンマイ”はフォーキーなメロディから立ち上るエモーションに視界をぐにゃりと捩じ曲げられるような、ヤバいロック体験を味わう。そして、前日同様ストリングス・セクションを交えた“黒い森の旅人”(顔ぶれは同じだが、この日は「黒い森の楽団」なのだそうだ)。荘厳な音のレイヤーと楽曲の情景喚起力、オーロラのように揺れてたなびく照明、その現実感を失ってしまうようなステージの表現の深さに戦く。とても、過去の道程を懐かしむどころではない、これが9mmの10年の到達点である。驚くべきは、『Live「E」』という縛りプレイの、言わば総力の半分しか発揮できないはずのセットリストで、これをやってしまうということだ。それほど素晴らしい、個人的にはハイライトと呼ぶべき4曲であった。
セットリスト
『10th Anniversary Live「O」』(2/7)
01 Psychopolis
02 Answer And Answer
03 Heat-Island
04 荒地
05 シベリアンバード ~涙の渡り鳥~
06 Trigger
07 Caucasus
08 Starlight
09 オマツリサワギニ
10 Wanderland
11 Supernova
12 Sundome
13 Scream For The Future
14 どうにもとまらない
15 光の雨が降る夜に
16 Caution!!
17 銀世界
18 コスモス
19 キャンドルの灯を
20 カモメ
21 The Lightning
22 新しい光
23 Beautiful Target
24 Black Market Blues
25 The Silence
『10th Anniversary Live「E」』(2/8)
01 Discommunication
02 Survive
03 Grasshopper
04 Vampiregirl
05 Cold Edge
06 Sleepwalk
07 Scarlet Shoes
08 3031
09 EQ
10 ラストラウンド
11 エレヴェーターに乗って
12 Bone To Love You
13 Wild West Mustang
14 We are Innocent
15 Termination
16 Finder
17 Monday
18 Keyword
19 命のゼンマイ
20 黒い森の旅人
21 ハートに火をつけて
22 Zero Gravity
23 marvelous
24 Talking Machine
25 Punishment