ビル・ブルーフォード(キング・クリムゾン、イエス)×モーガン・シンプソン(ブラック・ミディ)、ドラマー師弟対談が実現! 半世紀のキャリアの差を超えた2人の共通点を語る

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M:話は変わりますが、フィル・コリンズは非常に過小評価されているドラマーだと思うんですよね。

B:彼は素晴らしいドラマーだよ。彼には天性のリズム感がある。君はビリー・コブハムの名前を挙げていたけれど、フィル・コリンズはビリー・コブハムのモノマネを上手にやってくれるよ。

彼はモノマネが非常に得意で、トドの真似をして、手をパタパタさせて「オォウ!オォウ!」と叫んだりもしていた。どんなモノマネでもできる奴なのさ。だからビリー・コブハムの真似も上手くできた。

その上、変拍子のドラムを演奏して、それに合わせて歌うこともできる。フィル・コリンズの初期の作品は素晴らしい。天然のリズム感が備わっている。

M:素晴らしいミュージシャンですよね。

B:素晴らしいね。ジェネシスで1年くらい一緒に活動をしていたから、彼のことを知ることができた。

M:ジェネシスでの活動は、ライブ・アルバムに参加したのでしょうか?

B:ジェネシスでは、ツアーを6ヶ月か9ヶ月ぐらいやったね。その時にライブ・レコーディングしたのだが、かなり大掛かりな作業だったんだよ。

トラックやサーチライト、何人ものクルーが必要で、非常に費用のかかることだった。だから当時のバンドの音楽はあまりライブ・レコーディングとして残されていない。

最近は全てのライブがレコーディングされていて、綺麗に編集されて、みんなが全ての音源を手に入れることができる。だが、当時の私たちにとってアルバムを作るということは複雑で費用のかかる作業だった。

だからスタジオで余った素材なんてほとんどなくて、ラフ・テイクがいくつかあるくらいだった。

M:80年代以前はライブを録音するのが大掛かりなことだったという感覚が、今は失われている気がします。余った素材などなかったというのも。

そういう状況が前提にあった当時のミュージシャンは、演奏する時に本気で取り組んだと思うんです。「また何度も繰り返してレコーディングできるからいいや」というメンタルとは違う。だからこそ50年代から80年代に活躍した人たちこそが、最高のミュージシャンだと思うんです。

その時代のミュージシャンたちは、自分の演奏が全てで、今あるような技術に頼ることができなかった。今ある技術のおかげで僕たちは何度もやり直しが効くという恩恵を受けています。

最近のライブ・レコーディングを聴いても、SpotifyのセッションやYouTubeのセッションばかりを目にします。

B:そうだね。

M:ライブ・レコーディングをやる素晴らしさというのは、人々の前で音楽を演奏するという美しい状況を最大限に引き出すことだと思うんです。

それは、YouTubeの本社があるロンドンブリッジのオフィスでアコースティックギターを1人で弾く姿ではないと思うんです。

B:(笑)

M:僕はそういうものに全く魅力を感じません。

B:そういう演奏ではProToolsが使われているからね。

M:そうなんですよ。

B:ベースドラムが重なった時のミスも全てProToolsが綺麗にしてくれるからね。リスナーの皆さんに説明すると、ProToolsは音楽のソフトウェアで、あなたの演奏を最高に上手にしてくれるものなんです!

M:史上最高にうまくしてくれますよ!

B:しかもあなたのミスを全て消してくれます!(笑)

M:(笑)

B:私はミスが好きなんだよ。ミスしても何の問題もない。

M:僕もです。ミスは最高です。

B:トニー・ウィリアムスの音楽は聴いたことがあるかな?

M:大好きです。

B:トニー・ウィリアムスは最初から最後まで、ミスの塊のよう人で、それが最もエキサイティングだった。別のドラムに手を伸ばそうとしてスティック同士がぶつかってクリック音になってしまったりね

M:だからビリー・コブハムも大好きなんです。スティックのクリック音がよく聴こえて。

B:そうそう、でも大丈夫!ProToolsがあるから編集で消せるよ。

M:やめてくださいー

B:ミスを編集で消さないでくれよ。その通りでいいんだ。

M:それが醍醐味なのに。おかしな話ですよ。

トニーの話になりますが、先日、マイルスの第2期のクインテットで、マイルス、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、ウェイン・ショーターというメンバーで“Agitation”を演奏する映像を見たのですが

B:ああ、知っているよ。

M: ハービー・ハンコックのYouTubeに映像が載っていますが、フランスかどこかの会場で、メンバーが1人ずつ紹介されてステージに登場するのですが……ちなみに、その紹介も最近ではなくなってしまった惜しいしきたりですよね。

B:そうだね。ブラック・ミディでやるといい!分かるよ、「ドラムはモーガン・シンプソン!」という紹介だろう?

M:そうです!ああいう風に紹介をされてステージに登場するというのはとても粋だと思います。そしてみんなの衣装もスーツに革靴で決めていて、めちゃくちゃカッコ良い!

B:トニーは16歳くらいの若造に見えるよね?(笑)

M:1967年でしたので、実際のところ23歳か22歳でしたね。

B:そうか、そんな歳か。まだとても若いな。

M:とても若いです。そしてマイルスが最後に出てきて、ほんの1節くらいしか弾いていないのに、メンバー全員が入り込んでいるという状態。

普通のギグだったら1時間後くらいに到達できるかもしれないという所にもう入り込んでいる。そしてそれを保ち続ける。でも演奏中にミスもたくさんしているんですよ。ロンはチューンアップする時間がなかったから、最初の曲ではまだチューンアップしていて……でもそういうのがライブの素晴らしい所だと思うんです。

B:分かるよ。それに音楽が呼吸できる余白がある。私はコンピューターの到来に自分を適応させていかなければならなかった。オシロスコープ測定による完璧なテンポにね。

80年代はスタジオで演奏していても、演奏を始めてからベースドラムを2回ほど叩いただけで演奏を止められて、「ドラムの人、ベースドラムの音が1/16ミリ秒遅れています」なんて言われていた。まだ音楽を何も演奏していないのに!

M:そんな!

B:そういう風にすぐに止められていたんだ。

M:それは誰に言われるんですか?プロデューサー?

B:セッションの場にいるプロデューサーや、コンピューター計算にすごくはまってしまったバンド・メンバーの時もあった。ドラマーにとっては悲劇だったよ。そんなことを気にしていたら、何も演奏できなくなってしまう。

私のような「オーケストラのテンポ」という感覚で今までやってきた者にとっては大変な時期だった。つまり、私はバンドにとって、2本のスティックを持った指揮者であり、音楽が少し早く進んだ方がいいと思えば、少し早めるし、スローダウンした方がいい、ビートを落とした方がいいと思った時はそのようにする。

そういう、音楽が呼吸できる余白を持たせていたんだ。それがコンピューターの到来によってできなくなってしまった。私のキャリアでは、コンピューター技術にどうやって慣れていくかという時期を経験したね。

M:そういう時代だったんですね。

B:でも、私のテンポキープはずっと上手くなった(笑)

M:一定のテンポで演奏できるドラマーの誕生ですね(笑)

B:ついにドラマーがテンポキープできるようになった!(笑)
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